逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第290話 浮き島へ

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 シアンの思いつきから、ロゼリアたちはカイス近くにある奇跡の湖に向かうことになった。
 すぐさまロゼリアは、チャットフォンでペシエラに連絡を入れていた。
『あら、ロゼリア。どうなさいましたの?』
「ペシエラ、ちょっとお話はいいかしら」
『構いませんわよ。私たちの仲ではありませんの』
 急な話にも、ペシエラはすんなりと話を聞いてくれた。
『……カイスの浮き島ですか。確かに、あれは不思議な島ですわ。何かあるかもという考えには頷けますわ』
 ペシエラもどうやら怪しんでいるようである。
『分かりましたわ。わたくしも同行致しますので、海岸沿いに進んでシェリアで落ち合いましょう』
「ペシエラ、あなた城を離れて大丈夫なの?」
『問題ありませんわ。どうせ年末のパーティーまで何もありませんもの。やることはしてありますので、半月くらいなら影響はないと思いますわ』
 ペシエラは大した自信である。
 さすが今までに様々な困難を乗り越えてきた王妃である。話すこと一つ一つから説得力が感じられた。
「分かりました。では、シェリアでお会いしましょう。トパゼリアの女王も向かうけれど、問題はないかしら」
『それもまったく問題ありませんわ。お姉様は連れて行きませんわよ。ややこしくなりそうですもの』
「ははは、それは同感だわ」
 というわけで、今回の旅はチェリシアには内緒ということになった。
 ペシエラが参加するということで、少々面倒なことになりそうな気もしなくはないが、頼りになるのは間違いないというもの。ロゼリアも安心である。

 この話はすぐにシアンやティールたちに伝えられる。
 エアリアルボードに乗ってトパゼリアの王都を出発したロゼリアたちは、一路コーラル伯爵領の港町シェリアに向かう。
 行き方はとても簡単だ。海岸に出てそのまま沿って移動すればいいだけだ。
 エアリアルボードで移動するので、多少遠くまでしっかりと見渡せる。海岸線が複雑でも多少は無視して進むことが可能なのだ。
 ちなみにだが、ケットシーはとても残念そうにしていた。
 なにせ商業組合を率いているのだ。それを放り出してまでロゼリアたちについていくわけにはいかない。
「はっはっはっ、実に残念だよ。ボクもアトランティス帝国には興味があるというのに」
 笑ってはいたが、眉間にしわが寄っていたので本当に残念そうである。
 そんなわけで、ロゼリアたちはケットシーとトパゼリアの王都で別れてきた。

 シェリアに到着すると、非常に分かりやすいところにペシエラが立っていた。
「ロゼリア、ここですわよ」
 一国の王人もあろう者が、波止場の桟橋に一人で立っている。一応後ろには護衛やら侍女やらが数名見えるものの、完全にペシエラは一人である。
「ペシエラ、なんで一人でいるのよ」
「すぐにでも出発するためよ。お父様は忙しい身ですから、挨拶は後ですわよ」
 ペシエラはそういうと、護衛や侍女たちを父親のいるコーラル伯爵別邸に向かわせ、自分はエアリアルボードで空高く舞い上がってきた。
「さあ、向かいますわよ」
「ええ、そうね」
「ペシエラ様は相変わらずですね……」
「まったくだな」
「王妃様ってこんな職業でしたっけ?!」
 シアンは呆れ、ティールは腕を組んで何度も頷き、ヒスイは混乱していた。
 シェリアを出発したロゼリアたちは、途中にある崖を問題なく突破して奇跡の湖へとやって来た。

「まったく、君たちは急に来るね」
 レイニが驚いている。
 精霊としての格が上がったのか、レイニもすっかり平然と話すようになっていた。
「唐突な訪問で悪いですわね。レイニに聞きますけれど、この島には何か奇妙なものはございませんかしら」
 気が付けば完全に仕切ってしまっているペシエラである。
 さすが女王経験のある波乱万丈なヒロインは強い。
「うん? あー……、確かにあったかもしれないね」
 レイニは必死に思い出そうとしているが、あまり気にして生活していないので返答が曖昧である。
「ありますのね?」
 ペシエラはレイニにずいっと迫っている。
「ちょ、ちょっと待って。今思い出すから」
 ペシエラの圧が怖かったのか、レイニは必死な表情になって唸り出した。
 しばらく唸ったのち、手を叩きながら何かを思い出したようである。
「ああ、そうだ。こっちだよ」
 かと思えば、レイニは突然移動を始める。
「大丈夫なのか、あやつは」
「レイニって光と水の精霊で格は高いはずなんですけどね。そこは保証できませんね」
 ティールに聞かれたシアンは、困った顔で答えていた。自信を持って答えられないのである。
 奇跡の湖の浮き島はそれほど広くはないが、歩き回ると結構広く感じる。
 入口のように開けた場所から歩くことしばらく、ようやくいかにも怪しそうな場所に到着した。
「ずいぶんと植物が生えてうっそうとしていますわね」
「いかにもって感じの場所ね」
「えっと……、確かこの辺に……」
 ペシエラたちが見回していると、レイニが何かを探している。
「あった。これだ」
 草を魔法で押しのけると、そこにはいかにもという感じの石碑のようなものが立っていた。
「考えられるとしたら、これじゃないかな。ここら辺はボクもあまり来ない場所だからね。普段は日向ぼっこをしてるから、こういう場所は嫌いなんだ」
「なるほどですわね」
 目の前の石碑にペシエラが近付く。
「あいたっ!」
 だが、何か見えない力によって弾かれてしまった。
「ペシエラ、大丈夫?」
「ええ。何か結界のようなものが張られていますわ。わたくしでは近付けそうにありませんわね」
 ペシエラは振り返ってティールを見る。
「トパゼリアの女王、頼めますかしら」
「ああ、分かった。任せてほしい」
 ペシエラの頼みでティールが近付いていく。
 その時、突如として不思議な光が満ちあふれ始める。
「な、なんだこれは!?」
 ティールに反応するように光る不思議な現象。一体何が起きたというのだろうか。
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