ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第163話 ラッシュバードが目印です

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 マソルの街中に戻りますと、食事を済ませてからもう一度商業ギルドに戻ります。
 交渉はまだ終わっていませんからね。

「嬢ちゃん、また来たのかい」

「はい。取引が終わっていませんからね。ネイド様にお会いすることはできませんでしょうか」

「ああ、構わんよ。通してやるから、ちょっと待ってな」

 ベテラン女性が奥へと向かいます。
 しばらくすると呼ばれましたので、私たちは奥へと向かいます。

「さて、話をいうのはなんでしょうか」

 ネイド様が私に問いかけてきます。

「私の商会との取引の件で、まだ話が終わっていなかったので済ませに来ました」

「おや、まだ終わってなかったのですか」

「はい、終わっていません」

 私は昨日作り上げた魔法かばんに、商会の特徴であるラッシュバードの刺繍を入れることにします。
 私の商会であるレチェ商会のシンボルといえば、このラッシュバードですからね。

「取引には、この魔法かばんを使って下さい。このラッシュバードの刺繍があれば、私の商会だとすぐに分かります」

「なるほど。そういえば、ソレイユから聞きましたが、ここまでラッシュバードに乗ってこられたそうですね」

「はい、その通りです。私たちの眷属ですので、よく言うことを聞いてくれますよ。普通のラッシュバードと違って、とても頭がいいですし」

「そうなのですね。それは見てみたいですね」

「でしたら、あとで私たちの泊まっている宿に向かいましょう。預けてありますのでね」

 私がにっこりと微笑みますと、ネイド様はくすくすと笑っていました。
 アマリス様とルーチェが見守る中、私はネイド様と取引の交渉をします。私とてこういう交渉事は得意ではありませんが、商会を抱えている以上はせざるをえませんからね。
 お二人にもいい勉強になるでしょうね。貴族である以上、交渉をすることは避けて通れないでしょうから。

「では、こちらからはこの魔法かばんに魚や海藻、それと塩を詰めて送ればいいのですね」

「はい。受け取りましたら、代金とうちの農園で採れる薬草を入れてお返ししますね」

 なんとか交渉がまとまりました。さすがにお金だけで失礼かと思いましたので、うちの農園で採れる薬草を取引に加えてみました。
 ただ、薬草に関しては、かなりネイド様は頭を悩ませたようですね。ポーションの材料となる薬草は、それこそ入手が難しいそうですからね。つまり、薬草のおまけは値段が釣り合わない気がするということのようです。
 私の農園ではノームの恩恵がありますからね。実に予想もしないものが育つことがあるのです。薬草もその一つなんですよね。
 取引できるものといって、対外的に出せるものがそれくらいしかありませんから、仕方のない選択肢なんです。

「正直申しますと、この魔法かばんも十分破格なのですよね。普通はポケットのような小さなものに、少しばかりの空間拡張魔法を付与するのが限界ですからね」

「そういえば、私の侍女も、エプロンのポケットにそういう魔法がかかっていましたね」

 ネイド様のお話に、私はすぐにイリスのエプロンのポケットのことを思い出しました。あれも確か空間拡張魔法です。あれで私の持っているかばんの本来の容量の半分くらいだそうですよ。

「これだけの魔法を使いこなせるとなると、それはもう、あちこちから引く手あまたでしょう。私は商業ギルドのマスターですから広めはしませんですけれど、レイチェル様の性格上、自ら広めてしまいそうな気がします」

「うぐっ!」

「その通りだと思います」

 鋭い指摘に、私は痛いところを突かれた気がします。アマリス様には強く肯定されてしまいますし、やはり、私はやらかしてしまう運命なのでしょうかね。

「き、気をつけます……」

 私はしょぼくれながら、固く誓ったのでした。

 交渉が終わって商業ギルドを出ますと、私は宿に戻ります。

「ブフェーッ!」

「ブェフェ!」

「フォレ、ラニ、おとなしくしていましたか?」

 アマリス様を見つけて騒ぐフォレとラニに、優しく語りかけています。
 アマリス様が近付けば、フォレとラニはそれは嬉しい層に頬を擦りつけてきます。

「本当に懐いていますね。あれは王女様の眷属なのですか」

「はい。私の眷属であるラッシュバードと同時に眷属化した子たちです。私や妹のルーチェにも懐いていますので、今回はこの子たちに乗ってきたのですね」

「触っても大丈夫ですかね」

「アマリス様、ネイド様にも触らせて大丈夫でしょうか」

「大丈夫です。どうぞ」

 ネイド様が触りたがっていましたので、私はアマリス様に許可を求めます。
 無事に許可が下りましたので、ネイド様がラッシュバードに触れています。

「魔物だというのに、見ず知らずの私が近付いても暴れないとは……」

「この宿の方々も無事ですからね。すごく聞き分けがいいんです、この子たちは」

「そうだねぇ。あたしらもどうかと思ったんだけど、すごくおとなしくて手がかからなくてびっくりさ」

 宿のおかみさんまで登場して、しばらくはラッシュバードとのふれあいが行われました。

 こうして、マソルでの取引の交渉は無事に終わりました。
 ですが、私たちはもう少しだけ、このマソルへの滞在を続けることにしたのです。
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