ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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最終話

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 さらに半年が経ちました。
 レチェ商会の事業拡大も順調に進んでおりまして、衣食住に大革命が起きています。

「はい、オークチーズ唐揚げですね」

「ウルフミートのシチュー、お待たせしました」

 本日も食堂は大賑わいです。
 チーズにソース、だいぶ苦労はしましたけど、定着していてこの通りの人気メニューです。
 食堂の盛況っぷりも大したものですが、隣に建っている商会の方も相変わらずの様子です。

「はい、こちらは魔除けの魔法の込められたアクセサリーですよ。私が一つ一つ込めさせて頂きましたからね」

 ルリ様が一人で切り盛りしています。私も製作には携わっておりますけれど、魔法かばん以外はすべてルリ様が製作されたものになります。縫製魔法もお手の物ですし、今ではアクセサリーも作れるようになっていらっしゃいます。
 それにしても、ここまで大きくなるとは思ってもみませんでしたね。

 きっかけは、魔法学園への入学の失敗です。
 恋愛シミュレーションゲーム通りに進むかと思っていましたが、そのつまずきによって思わぬ方向に話は進んでいきました。
 アンドリュー殿下との婚約を解消したり、公爵領の端っこの方で農園や食堂を経営したり、ずいぶんとのびのびさせていただいたかと思います。
 そのゲームの主人公とも距離は取れていたはずなのですが……。

「やあ、レイチェル。客からの要望が多いあの件はどうするんだ?」

 ええ、この男。その恋愛シミュレーションゲームの主人公であるワイルズが、なぜかうちで働いているんですよ。
 申し出てきた時がちょうど忙しい時期だったので雇いましたが、それ以降もずっとこの調子で居候を続けているんです。とっとと王都にお帰り下さいませ。
 とは言ってやりたいところですが、このワイルズ、お客様たちともすっかり打ち解けてしまってましてね。ファンも多い上に目当てにしてくる方もいまして、困ったことになっているのですよ。くっ、これが主人公の魅力というやつですか。
 仕事もきっちりこなしてくれていますし、休みの日にはウィルくんやジルくんと遊んでいる姿をよく見ます。すっかり二人も懐いてしまっていて、もう追い払うにも追い払えない状況になっているんですよ。チート主人公滅ぶべし。

「お酒の件でしたら、うちの食堂では扱いませんよ。ただでさえ食事で他の食堂の客を奪ってしまっているんです。ですので、お酒だけはどうしても売れません」

「ずいぶんと固いな。他の店のことも考えてって辺りは、レイチェルらしくていいんだけどな」

「……褒めたって何も出ませんよ。それよりもまだ営業中です。持ち場に戻って下さい」

「へいへい。そうさせてもらいますよ」

 私が冷たくあしらいますと、ワイルズは食堂へと戻っていきました。

「相変わらず、レチェ様はワイルズさんに冷たいですね」

 入れ替わりで入ってきたのは、イリスです。私の専属侍女であり、この商会の立ち上げでは副会長の座についています。彼女に頼ることも多く、商会がここまで大きくなれた要因の一人ですね。

「私はどうもあの方を好きにはなれません。だというのに、なんなんですか、あの執着っぷりは」

 そもそも私は魔法学園に入学していないのですから、ワイルズとの接点などまったくなかったのです。だというのに、アンドリュー殿下と一緒にやって来てはやたらと私に迫ってきます。なんですか、これも強制力のひとつだとでもいうのですか。
 あのゲームはギャルゲーですから、ヒロインは私一人ではないのですよ?
 まったくもって信じられない話です。

「ですけれど、あれだけ一途に思ってらっしゃられる方もそうそういないと思います。どうでしょう、レチェ様。伴侶にされてみては」

「はあ?」

 私は何の冗談かと思いましたよ。
 私とワイルズが結婚とか、ありえないでしょう。私が公爵令嬢、ワイルズは平民ですからね。

「レチェ様は、ご都合のいい時だけ公爵家を使うのですね。家を出たと言い張っていますのに」

「うぐっ!」

 痛いところを突いてくれますね。さすがは私の侍女です。
 そんなことをしていますと、ラフワさんがやってきました。

「レチェ様、至急食堂に来て下さいませんか。問題が発生しました」

「分かりました。すぐ行きます」

 なんとも慌てた様子でしたので、私はなぜか了承していしまいました。イリスを向かわせれば済む話なはずですのに。
 ところが、私が食堂に到着した時には、問題なんてどこにも発生して……いや、なぜか私が出てくる場所の周りだけ人がいませんね。そして、お客様はもちろん、ティルさんたちまで黙ったまま私の方を見ています。

「レイチェル」

 どういうことかと様子を見ていますと、ワイルズが出てきました。先程、仕事に戻るようにと言い渡したのですが、どう見ても仕事をするような格好ではありませんね。なんだかびしっと決めているではないですか。

「レイチェル、俺と結婚してくれ」

「は?」

 私は思わず固まってしまいます。
 ですが、周りを見回してみますと、ワイルズの一世一代の告白を固唾をのんで見守っている状況だったのです。これは、断れないということですか?
 正直言いまして、私はワイルズはうっとうしいと思っているくらいです。ですが、仕事っぷりは素晴らしいですし、あとウィルソン公爵家を維持するためには婿を迎えなければなりません。
 私は正直悩みました。
 大きなため息をつきますと、私は跪いて手を差し出しているワイルズの手を取ります。

「べ、別に、あなたが好きとかそういうわけじゃないですからね。あくまでビジネスパートナーとしてですから、勘違いしないで下さい」

 私は顔を背けながらツンデレみたいなことを言い放ちますと、ワイルズはにっこりと微笑んでいます。

「ああ、一生、レイチェルのことを支え続けてやるさ」

 食堂の中は歓喜の声と大きな拍手に包まれました。

 結局、私はワイルズのプロポーズを受け入れてしまいました。
 ですが、この選択の結果がどうだったのか、分かるまではそう長くかかりませんでした。

 ゲームの舞台から外れたはずでしたのに、結局、私は主人公に攻略されてしまったようですね。


 ~~FIN
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みんなの感想(5件)

toru-1981
2025.11.22 toru-1981

この文明度だとソースとかも一族秘伝レベルでしょうから、泣くのも納得

解除
柚木ゆず
2025.09.28 柚木ゆず

コンテンツ大賞のページで偶然発見し、本日3話まで拝読しました。

レイチェルさん、好きです……!
植物。
さらに新たな一歩を踏みだすレイチェルさんの未来、今後も見守られせていただきます……!

解除
庵六
2025.09.11 庵六

レイチェル嬢が正常に発動できている魔法の理論がこの世界のより上位にあたり認識が違うために大幅減点されたのかなー?と思いました。

解除

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