ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第48話 実質三姉妹の戯れ

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 ルーチェとお話をしていたら、話を聞きつけたアマリス様が突撃してこられましたわ。いくらなんでも早すぎません?!
 本当にアマリス様ってば、私のことを気に掛け過ぎではと思います。

「アマリス様、お早いお着きでございます」

「レイチェルお姉様が戻られたと聞けば、何があってもすぐに駆け付けますわよ」

 アマリス様が胸を張って仰ってますわ。どうしてそんなに自慢げに話されるのですかね。
 呆気に取られていますと、アマリス様はいつの間にか私の隣に座っておりました。速いですってば。

「まあ、見たことのないお菓子ですね。二枚重ねになっているお菓子は王城内でも見たことはありません。頂いてもよろしいでしょうか」

 アマリス様は許可を取ろうとしつつ、すでに口にバターサンドを運んでいました。だから、速いですってば。
 ひと口頬張ったアマリス様は、目を輝かせています。
 目がしいたけなんて、実際に見ることがあるんですね。

「おいしいですわね。これはお姉様が作られたものですか?」

「は、はい。ミルクを撹拌して乳脂肪分を分離させた生クリームとバターというものを使っております。ビスケット生地にはバターを練り込み、挟んでいるものは生クリームをしっかりと泡立てたものでございます」

「へえ~、ミルクにこういう使い方ものあるのですね」

 そう仰りながら、アマリス様は二枚目に手を出しています。
 その様子を見ながら、私はもうひと箱を取り出します。こちらも中身は鑑定済みで安全ですわよ。

「アマリス様にも別にご用意しておりましたのに」

「あらら。では、これはルーチェ様用のでしたのね。これは失礼致しました」

 私がいるせいか、アマリス様が謝ってらっしゃいます。
 私もルーチェも特に咎めることはしません。
 仕方ないので、アマリス様用の箱も開けて、全部盛り付けます。
 横ではアマリス様についてこられた侍女のハンナがお茶を淹れています。イリスもルーチェの侍女も仕事を取られてしまっています。

「甘みがあるからか、お茶とも合いますね。お姉様、これを売り出してみるおつもりは?」

 アマリス様が完全に気に入られてしまったようです。私の顔をじっと見て尋ねてらっしゃいます。

「ミルクからバターやクリームを作る方法が確立しておりませんし、傷みやすい食材を使っております。現状では私のところでしか作れませんでしょう」

「それは残念ですね。学園に入ると自由が減りますから、ますますお姉様の手作りのお料理が食べられなくなってしまいますわ」

 アマリス様は本当に悔しそうですわね。
 ですが、こちらとしても困っています。
 異世界ものによくあるマジックバッグのような収納系の魔法や魔道具が、この世界には存在していませんからね。
 ですので、今は私の持っているこの保冷箱が精一杯の劣化遅延方法ということになります。

「それはおいおい考えますので、アマリス様やルーチェは来年からの学園に備えて下さいませ。こちらも暇が作れそうでしたら、ラッシュバードに乗ってやってきますから」

「そうです、お姉様!」

 私が話をすると、直後にルーチェが勢いよく立ち上がった。

「ラッシュバード! ラッシュバードを見せて頂けませんか?」

 ルーチェが興奮している。
 私はアマリス様と顔を見合わせてしまいます。

「分かりましたわ。馬小屋の方に連れていかれましたので、見に行きましょうか」

 というわけで、お菓子の堪能もそこそこに、私たちはラッシュバードを見に行きました。

 本当に馬小屋にいましたね、ラッシュバード。
 でも、私たちの連れてきた四羽は、馬よりもおとなしいですよ。というか、馬と意気投合してそうな感じがしますね。

「レイチェルお嬢様、ルーチェお嬢様。……アマリス王女殿下?!」

 馬の世話をしている方が驚いてらっしゃいます。
 アマリス様が来られたことは知っていても、まさか自分の仕事場に来るなんて思ってもみなかったのでしょうね。

「これがラッシュバードなのですね。人に懐かない魔物と聞いていますけれど、おとなしいですね」

「ブフェ」

「あはは、くすぐったい」

 ルーチェは頬を擦りつけられています。私たちと同じような感じを受け取ったのか、ルーチェにもすんなり懐いてしまいましたね。

「アマリス様、お姉様。この子たちには名前があるのですか?」

「みんなスカーフを巻いていますでしょう? 赤と青が私のラッシュバードで、赤い方がスピード、青い方がスターですよ」

「ピンクと緑がわたくしのラッシュバードですわね。緑がフォレで、ピンクがラニと申します」

「へえ、そうなのですね。では、この子はスピードですね」

「ブフェ」

 ルーチェの言葉にそうだよと言わんばかりに鳴いている。
 それにしても、予想外にルーチェにもあっさり懐いてしまいましたね。世話係の方は突かれていましたけれど。

「ルーチェ様はお姉様の妹ですもの。きっとみんなも分かってらっしゃるのですわ」

「そうでしょうかね。でも、この子たちは覚えたことは忘れませんから、私たちと同じような何かを感じて、ルーチェに懐いたのかもしれませんね」

 目の前でルーチェがラッシュバードたちと戯れる姿に、なんともほのぼのな気持ちになってしまいました。

「アマリス様、そろそろお戻りになられた方がよろしいかと」

「もうですか?」

 楽しい時間はそう長くは続きません。日が暮れ始めたので、アマリス様はお城に戻らなければならないのです。

「仕方ありませんわね。お姉様、ルーチェ様、これで失礼を致します。お兄様にはお姉様のことは伝えませんので、ご安心下さいませ」

「はい、ありがとうございます」

「アマリス様、本日はありがとうございました」

「別に構いません。親友の頼みでしたら、いつでもお聞きしますわ」

 アマリス様はそうとだけ言い残すと、ハンナと一緒に公爵邸を去ったのでした。
 こうやって三人で遊んだのはいつぶりでしょうかね。
 私もルーチェも、満足そうにアマリス様を見送ったのです。
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