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Mission051
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アリスが不在の城では、次の一手を話し合っていた。やはり、鉄道による高速移動というのはまたとなり売り込み文句となっていた。そこで、国王たちはマスカード帝国に対して使節団を送る事に決定した。そうとなると、国王の行動は早く、先触れをさっさと出してしまった。鉄道がまだ使えないというのに気が早いものである。
さて、この使節団ではあるが、その団長に指名されたのはなんとギルソンである。そのオートマタであるアリスはもちろん、補佐としてマリカが指名された。たかが騎士爵の家の娘にこんな大役をという事で、マリカは聞かされた時に腰を抜かしてしばらく立てなくなっていた。
「わ、私なんかでいいのですか?」
「もちろん。最近はギルソン殿下とよくご一緒しているようですし、その方が殿下も安心するかと思いますから」
使節団の補佐としての連絡にやって来た大臣は、マリカにそのように伝えている。
「ええ、もちろん私どもの方もしっかり支援できるだけの人員を揃えておきますから、ご安心下さい」
「は、はい。承知致しました。使節団の件、お受け致します」
バックアップがあると聞いて、マリカは緊張した様子で使節団の団長補佐の件を了承していた。相変わらず腰が抜けたままで床に座り込んだままである。
「マリカ、こんな大役を引き受けるなんて、一体何があったんだ?!」
マリカの父親がもの凄く困惑している。まあ無理もない話だ。国を代表する使節団の団長補佐という重役を、騎士爵家の娘が務めるのだから。しかし、父親は断るような事はなかった。貧乏ではあっても、国家に忠誠を誓う騎士なのだから王家からの命令は絶対なのである。
「マリカ、これは絶好の機会だ。必ず王家に取り入ってくれ!」
「ぱ、パパ。まぁ、気持ちは分かりますけれど、落ち着いて下さい」
へたり込んでいるマリカの肩を掴んで、前後に揺らしてくるオリハーン騎士爵。あまりに揺らすものだから、マリカは目を回しそうになっている。なので、やめそうにない父親に対して、
「パパ、やめてくれないと嫌いになりますよ!」
マリカがこう叫ぶと、ようやくオリハーン騎士爵は揺らすのをやめた。娘に嫌われるのは父親としてはショックだからだ。大体どこの父親も同じである。
「あっぶなかったわ……。もう少しで吐きそうになるところだったわ……」
マリカの顔が青くなっていた。
「ま、マリカ。大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないので、パパがベッドまで運んで。補佐を任されたのならそのための準備しなきゃいけないけれど、今は眠りたいです」
マリカはそう言って、父親に対して手を広げる。すると父親はマリカを抱っこして、マリカの部屋のベッドまで運んでいった。
それと同時に、孤児院の手伝いを終えて買い出しに出ていたジャスミンが家に戻ってきた。
「ただいま戻りました。マリカ様、今どちらに?」
「ジャスミン、自分の部屋よ」
声が聞こえたので、マリカはジャスミンに返事をしておく。
「承知致しました。荷物を整理したらすぐに向かいます」
マリカの声を聞いたジャスミンは、てきぱきと荷物を片付けていく。そして、1分もしないうちに片づけを終えてしまった。
「マリカ様、失礼致します」
「うん、お帰りなさい、ジャスミン」
部屋に入ったジャスミンは、マリカの状態を見てものすごく驚く。なにせ、ベッドに横たわっていたのだから。隣には父親が座っている。
「旦那様、一体どうされたのですか?」
「実はな、マスカード帝国へ使節団を送る事になったのだが、マリカがその補佐に任命されたのだ。マリカはそれに驚いて腰を抜かしてしまったようでな、それで今はこんな状態なんだ」
「な、なんて事に!」
ジャスミンはオリハーン騎士爵から聞いた説明に、ものすごく慌ててマリカに駆け寄った。
「マリカ様、すぐに治します」
ジャスミンはマリカに駆け寄って、腰のあたりに手を当てる。しばらくすると、ジャスミンの手が淡く水色に光ったかと思えば、その光はすぐに収まった。
「マリカ様、いかがでしょうか」
ジャスミンの問い掛けに、マリカはゆっくりと体を動かす。すると、驚きで抜けてしまっていた腰が、元に戻ったようだった。
「すごい、体が起こせるわ。すごい、床にも立てる……!」
さっきまですっかりへたり込んでいたのに、すっかり元通りに戻ってしまった。これがオートマタの持つ魔法というものなのだ。
すっかり元に戻ったマリカは、一緒に食卓を囲む。テーブルにはジャスミンの作った料理が並んでいた。よく見ると母親は居なかった。
「……あいつも、ここに一緒に居て今回の事を聞いたら、一体どういう反応をしたんだろうな」
「あいつ?」
「いや、なんでもない」
「……? 畏まりました」
オリハーン騎士爵は、それ以降口をつぐんでしまった。どうやらタブーっぽい感じである。結局、この後ずっと食卓は沈黙したままだった。
気になったジャスミンだが、オートマタとしては不用意に踏み込んではいけない部分だ。なので、折り入った事情があるという事は察したので、ジャスミンもその話題に触れなかった。
翌日の昼、アリスがようやくボーデンとシャートルを街まで送り、王都に戻ってきた。これでようやく使節団の話が先に進む事となったのだった。
さて、この使節団ではあるが、その団長に指名されたのはなんとギルソンである。そのオートマタであるアリスはもちろん、補佐としてマリカが指名された。たかが騎士爵の家の娘にこんな大役をという事で、マリカは聞かされた時に腰を抜かしてしばらく立てなくなっていた。
「わ、私なんかでいいのですか?」
「もちろん。最近はギルソン殿下とよくご一緒しているようですし、その方が殿下も安心するかと思いますから」
使節団の補佐としての連絡にやって来た大臣は、マリカにそのように伝えている。
「ええ、もちろん私どもの方もしっかり支援できるだけの人員を揃えておきますから、ご安心下さい」
「は、はい。承知致しました。使節団の件、お受け致します」
バックアップがあると聞いて、マリカは緊張した様子で使節団の団長補佐の件を了承していた。相変わらず腰が抜けたままで床に座り込んだままである。
「マリカ、こんな大役を引き受けるなんて、一体何があったんだ?!」
マリカの父親がもの凄く困惑している。まあ無理もない話だ。国を代表する使節団の団長補佐という重役を、騎士爵家の娘が務めるのだから。しかし、父親は断るような事はなかった。貧乏ではあっても、国家に忠誠を誓う騎士なのだから王家からの命令は絶対なのである。
「マリカ、これは絶好の機会だ。必ず王家に取り入ってくれ!」
「ぱ、パパ。まぁ、気持ちは分かりますけれど、落ち着いて下さい」
へたり込んでいるマリカの肩を掴んで、前後に揺らしてくるオリハーン騎士爵。あまりに揺らすものだから、マリカは目を回しそうになっている。なので、やめそうにない父親に対して、
「パパ、やめてくれないと嫌いになりますよ!」
マリカがこう叫ぶと、ようやくオリハーン騎士爵は揺らすのをやめた。娘に嫌われるのは父親としてはショックだからだ。大体どこの父親も同じである。
「あっぶなかったわ……。もう少しで吐きそうになるところだったわ……」
マリカの顔が青くなっていた。
「ま、マリカ。大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないので、パパがベッドまで運んで。補佐を任されたのならそのための準備しなきゃいけないけれど、今は眠りたいです」
マリカはそう言って、父親に対して手を広げる。すると父親はマリカを抱っこして、マリカの部屋のベッドまで運んでいった。
それと同時に、孤児院の手伝いを終えて買い出しに出ていたジャスミンが家に戻ってきた。
「ただいま戻りました。マリカ様、今どちらに?」
「ジャスミン、自分の部屋よ」
声が聞こえたので、マリカはジャスミンに返事をしておく。
「承知致しました。荷物を整理したらすぐに向かいます」
マリカの声を聞いたジャスミンは、てきぱきと荷物を片付けていく。そして、1分もしないうちに片づけを終えてしまった。
「マリカ様、失礼致します」
「うん、お帰りなさい、ジャスミン」
部屋に入ったジャスミンは、マリカの状態を見てものすごく驚く。なにせ、ベッドに横たわっていたのだから。隣には父親が座っている。
「旦那様、一体どうされたのですか?」
「実はな、マスカード帝国へ使節団を送る事になったのだが、マリカがその補佐に任命されたのだ。マリカはそれに驚いて腰を抜かしてしまったようでな、それで今はこんな状態なんだ」
「な、なんて事に!」
ジャスミンはオリハーン騎士爵から聞いた説明に、ものすごく慌ててマリカに駆け寄った。
「マリカ様、すぐに治します」
ジャスミンはマリカに駆け寄って、腰のあたりに手を当てる。しばらくすると、ジャスミンの手が淡く水色に光ったかと思えば、その光はすぐに収まった。
「マリカ様、いかがでしょうか」
ジャスミンの問い掛けに、マリカはゆっくりと体を動かす。すると、驚きで抜けてしまっていた腰が、元に戻ったようだった。
「すごい、体が起こせるわ。すごい、床にも立てる……!」
さっきまですっかりへたり込んでいたのに、すっかり元通りに戻ってしまった。これがオートマタの持つ魔法というものなのだ。
すっかり元に戻ったマリカは、一緒に食卓を囲む。テーブルにはジャスミンの作った料理が並んでいた。よく見ると母親は居なかった。
「……あいつも、ここに一緒に居て今回の事を聞いたら、一体どういう反応をしたんだろうな」
「あいつ?」
「いや、なんでもない」
「……? 畏まりました」
オリハーン騎士爵は、それ以降口をつぐんでしまった。どうやらタブーっぽい感じである。結局、この後ずっと食卓は沈黙したままだった。
気になったジャスミンだが、オートマタとしては不用意に踏み込んではいけない部分だ。なので、折り入った事情があるという事は察したので、ジャスミンもその話題に触れなかった。
翌日の昼、アリスがようやくボーデンとシャートルを街まで送り、王都に戻ってきた。これでようやく使節団の話が先に進む事となったのだった。
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