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第62話 キャサリーンの態度に緊張する元魔王
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窓の外であれだけ降り続いていた雪がやんだ。その光景に、アリエスたちは驚いている。
さすがは現役最強の聖女といわれるキャサリーンである。やることなすことが規格外だった。
しかし、喜んでばかりもいられない。
キャサリーンは絶対に魔族を許さない。間違いなくサハーはその対象だったからだ。
「二匹も魔族が入り込んでいますとはね。この聖女が集う聖なる空間に」
二匹という言葉を聞いて、アリエスは直感した。スラリーもばれているということだ。
「お待ち下さい、キャサリーン。その二体でしたら、私との話し合いの中で害がないと認めた者たちです。いくら魔族の存在が許せないからといって、すでに改心済みの彼らを処罰するというのはいかがでしょうか」
オーロラが必死にキャサリーンに訴えかけている。
しかし、キャサリーンの表情はまったく変わらない。
「甘いですね。私は魔族に家族を殺された身なのです。やつらの存在自体が許せないのですよ。両親も兄も妹も、魔族たちのおもちゃにされながら死にました。私は聖女の力に目覚めて難を逃れましたが、その時の光景と後悔、あなたたちに分かるものですか!」
キャサリーンが怒りに満ちた表情をしながら訴えている。
その話を聞いた時に、アリエスはあの時のことも納得してしまった。
(なるほどな。俺との戦いの時に、なんだか悔しそうな顔をしていたのはそのせいか。本当ならば自分の手で俺を殺したかったのだろうな。だが、聖女としての役目がそれを許さなかった。その悔しさのせいだったのだな……)
アリエスは思い出していた。まだ若かった頃のキャサリーンが、少数精鋭を率いて魔王城に攻め入ってきた時のことを。
聖女として攻防に魔法を駆使しながら必死に兵士たちを援護していた。その最中、何度となく魔王に対して厳しい目を向けてきていた。
それは、魔族に家族を殺された恨みを抱いていたからということだったのだ。
最後に魔王を見下ろしていた時も、魔王を討ち取ったことに喜ぶ連中の中で、一人だけが今にも泣きそうな顔で悔しがっていた。
だが、事情は察しても、アリエスはスラリーとサハーをキャサリーンに殺させるわけにはいかなかった。特にサハーは、サンカサス王国の教会が正式に認めた護衛なのだ。サハーを殺せば、サンカサス王国との戦争にもなりかねないのだ。
「キャサリーン様、お気持ちはよく分かります。ですが、サハーはサンカサス王国から認められた、正式な私の護衛です。いくら聖女とは申されましても、他国を敵に回す戦争を起こされるおつもりですか?」
「くっ……」
アリエスの指摘に、キャサリーンは黙るしかなかった。
聖女である以上、国に平和をもたらさなければならない。聖女が口実で戦争の火種となるわけにはいかないのである。
「分かりました。そちらのフィシェギルのことは諦めましょう。教会から認められているのであれば、聖女である以上は逆らえませんからね」
キャサリーンはサハーのことを、今にも目から血を流しそうな表情で睨みつけている。どれだけ悔しいのだろうか。
「ですが、そちらの聖騎士のマント。スライムだろう、それは」
「さすが、さいきょうの、せいじょ。よく、わかったね」
「なっ、喋っているだと?!」
スラリーの声が響き渡ると、キャサリーンは驚いていた。さすがのキャサリーンも、喋るスライムは知らないようだった。
スラリーはマントの形から、元のスライムの状態へと戻っていく。
「はじめて、せいじょ。すらりーは、すらりー。しゃべる、すらいむ」
カプリナの肩に乗ったまま、ぽよんぽよんと跳ねるようにしながらスラリーは喋っている。
「初めて見ましたね。喋る個体なんて」
思わず手が伸びそうになるキャサリーンだったが、何かにはっと気が付いて慌てて手を引っ込めていた。
「おほん。だ、騙されませんよ、私は」
今さらな感じだった。
「すらりー、しゃべれる。まおうさま、おかげ。いまは、ありえすさまが、あるじ。せいじょの、みかた、てつだう」
スラリーはそうとだけいうと、再びカプリナのマントに変身してしまった。
最強の聖女であるキャサリーンを目の前にしても、スラリーはまったくもって平常運転だった。
「そこの聖騎士、ずっとそのスライムを身に着けているのですか?」
キャサリーンはカプリナに問いかけている。
「はい。アリエス様のご命令は聞くようでして、私の身を守るようにと、外出時にはマント、家の中ではショールやリボンの形でずっと一緒にいるんです。寝る時なんて枕なんですよ、スラリーって」
真剣な表情で話していたかと思うと、最後で困ったように笑っていた。
この話にキャサリーンは信じられないといった表情を見せている。しかし、実際に聖女の周りですっかりなじんている魔族がいるのだ。恨んでいるからとはいっても、この事実はさすがに認めざるを得なかった。
「仕方ありませんね。その二体だけは見逃してあげましょう。ですが……」
ちょっと悔しそうにしているキャサリーンが、カプリナのマントに顔を近付ける。
「妙な真似をしようものなら、その場で退治してやりますからね。覚悟なさい」
「わかった。すらりー、やくそく、まもる」
「こんな私でも命を救って頂いたのです。フィシェギルの戦士の誇りとして、必ずやアリエス様のために身を挺しましょう」
スラリーもサハーも、キャサリーン相手にしっかりと誓いを立てていた。
「……不愉快です。私は部屋に戻りますね」
キャサリーンはそうとだけいうと、部屋を出ていってしまった。
少々空気は悪くなったものの、何事もなかったことに、アリエスはほっとひと安心するのだった。
さすがは現役最強の聖女といわれるキャサリーンである。やることなすことが規格外だった。
しかし、喜んでばかりもいられない。
キャサリーンは絶対に魔族を許さない。間違いなくサハーはその対象だったからだ。
「二匹も魔族が入り込んでいますとはね。この聖女が集う聖なる空間に」
二匹という言葉を聞いて、アリエスは直感した。スラリーもばれているということだ。
「お待ち下さい、キャサリーン。その二体でしたら、私との話し合いの中で害がないと認めた者たちです。いくら魔族の存在が許せないからといって、すでに改心済みの彼らを処罰するというのはいかがでしょうか」
オーロラが必死にキャサリーンに訴えかけている。
しかし、キャサリーンの表情はまったく変わらない。
「甘いですね。私は魔族に家族を殺された身なのです。やつらの存在自体が許せないのですよ。両親も兄も妹も、魔族たちのおもちゃにされながら死にました。私は聖女の力に目覚めて難を逃れましたが、その時の光景と後悔、あなたたちに分かるものですか!」
キャサリーンが怒りに満ちた表情をしながら訴えている。
その話を聞いた時に、アリエスはあの時のことも納得してしまった。
(なるほどな。俺との戦いの時に、なんだか悔しそうな顔をしていたのはそのせいか。本当ならば自分の手で俺を殺したかったのだろうな。だが、聖女としての役目がそれを許さなかった。その悔しさのせいだったのだな……)
アリエスは思い出していた。まだ若かった頃のキャサリーンが、少数精鋭を率いて魔王城に攻め入ってきた時のことを。
聖女として攻防に魔法を駆使しながら必死に兵士たちを援護していた。その最中、何度となく魔王に対して厳しい目を向けてきていた。
それは、魔族に家族を殺された恨みを抱いていたからということだったのだ。
最後に魔王を見下ろしていた時も、魔王を討ち取ったことに喜ぶ連中の中で、一人だけが今にも泣きそうな顔で悔しがっていた。
だが、事情は察しても、アリエスはスラリーとサハーをキャサリーンに殺させるわけにはいかなかった。特にサハーは、サンカサス王国の教会が正式に認めた護衛なのだ。サハーを殺せば、サンカサス王国との戦争にもなりかねないのだ。
「キャサリーン様、お気持ちはよく分かります。ですが、サハーはサンカサス王国から認められた、正式な私の護衛です。いくら聖女とは申されましても、他国を敵に回す戦争を起こされるおつもりですか?」
「くっ……」
アリエスの指摘に、キャサリーンは黙るしかなかった。
聖女である以上、国に平和をもたらさなければならない。聖女が口実で戦争の火種となるわけにはいかないのである。
「分かりました。そちらのフィシェギルのことは諦めましょう。教会から認められているのであれば、聖女である以上は逆らえませんからね」
キャサリーンはサハーのことを、今にも目から血を流しそうな表情で睨みつけている。どれだけ悔しいのだろうか。
「ですが、そちらの聖騎士のマント。スライムだろう、それは」
「さすが、さいきょうの、せいじょ。よく、わかったね」
「なっ、喋っているだと?!」
スラリーの声が響き渡ると、キャサリーンは驚いていた。さすがのキャサリーンも、喋るスライムは知らないようだった。
スラリーはマントの形から、元のスライムの状態へと戻っていく。
「はじめて、せいじょ。すらりーは、すらりー。しゃべる、すらいむ」
カプリナの肩に乗ったまま、ぽよんぽよんと跳ねるようにしながらスラリーは喋っている。
「初めて見ましたね。喋る個体なんて」
思わず手が伸びそうになるキャサリーンだったが、何かにはっと気が付いて慌てて手を引っ込めていた。
「おほん。だ、騙されませんよ、私は」
今さらな感じだった。
「すらりー、しゃべれる。まおうさま、おかげ。いまは、ありえすさまが、あるじ。せいじょの、みかた、てつだう」
スラリーはそうとだけいうと、再びカプリナのマントに変身してしまった。
最強の聖女であるキャサリーンを目の前にしても、スラリーはまったくもって平常運転だった。
「そこの聖騎士、ずっとそのスライムを身に着けているのですか?」
キャサリーンはカプリナに問いかけている。
「はい。アリエス様のご命令は聞くようでして、私の身を守るようにと、外出時にはマント、家の中ではショールやリボンの形でずっと一緒にいるんです。寝る時なんて枕なんですよ、スラリーって」
真剣な表情で話していたかと思うと、最後で困ったように笑っていた。
この話にキャサリーンは信じられないといった表情を見せている。しかし、実際に聖女の周りですっかりなじんている魔族がいるのだ。恨んでいるからとはいっても、この事実はさすがに認めざるを得なかった。
「仕方ありませんね。その二体だけは見逃してあげましょう。ですが……」
ちょっと悔しそうにしているキャサリーンが、カプリナのマントに顔を近付ける。
「妙な真似をしようものなら、その場で退治してやりますからね。覚悟なさい」
「わかった。すらりー、やくそく、まもる」
「こんな私でも命を救って頂いたのです。フィシェギルの戦士の誇りとして、必ずやアリエス様のために身を挺しましょう」
スラリーもサハーも、キャサリーン相手にしっかりと誓いを立てていた。
「……不愉快です。私は部屋に戻りますね」
キャサリーンはそうとだけいうと、部屋を出ていってしまった。
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