魔王聖女

未羊

文字の大きさ
63 / 156

第63話 帝都を見て回る元魔王

しおりを挟む
 雪はやんだはいいものの、さすがに降り積もった雪はすぐに消えるわけがなかった。
 宮殿や帝都の中では、見慣れない雪にはしゃぐ子どもたちの声が聞こえてくる。

「やれやれ、一面真っ白ですね」

「雪って、意外と残るものなんですね」

 アリエスが困ったように白い雪を見ていると、オーロラが雪についての感想を漏らしている。
 移動先で見たことがあるだけというオーロラは、雪について詳しく知っているわけではなかったというわけである。
 それにしても、自分の魔力暴走のせいで一面を真っ白にしてしまったというのに、アリエスはいまいち他人事のような反応をしている。

「暖かければそれほど長くは残りませんが、私の魔力の影響がまだ残っているようですのでね。まだ数日は残るかもしれませんね」

「そうですか。でも、さすがに新年祭の時までには融けていてほしいですね。行われる行事に支障が出てしまうんですよ」

「なるほど、それは確かに困りますね」

 オーロラの悩みに、アリエスは同情しているようだった。
 とはいえ、アリエスはこの状況をどうにかしたいと考えている。自分の暴走のせいでこんなことになっているのだから、責任を取りたいというわけである。
 ついでにといえば、サハーが非常に動きづらそうにしているというのもある。フィシェギルという半魚人魔族なので、寒さにとにかく弱いのだ。このままではサハーが護衛としてまともに働けない。
 どうにかできないかと、アリエスは考える。

「まったく、何を思い詰めているのですか」

 悩むアリエスたちの前に、キャサリーンが出てくる。

「おはようございます、キャサリーン様」

 アリエスとオーロラが揃って挨拶をする。カプリナとサハーも遅れながらに挨拶をしている。カプリナはびっくりして、サハーは嫌悪感から遅れてしまったのだ。
 とはいえ、その程度などは気にしないくらい、心は寛大なキャサリーンである。

「それで、一体何を悩んでいますのかしら」

 改めてキャサリーンが問い掛けると、アリエスとオーロラが顔を見合わせる。こくりと頷くと、話していた内容をキャサリーンに伝える。
 話を聞いたキャサリーンは、呆れたようにため息をついている。

「なるほどですね。新年祭に雪があっては困るからどうにかしたいと、そういうわけですか」

 二人はこくこくと頷いている。

「確かに、得意属性を考えると二人には難しいでしょう。分かりました、私がどうにかしておきますから、前日まではこのまま残しておきますよ」

「分かりました。本当にご迷惑をおかけいたします、キャサリーン様」

「何から何まで本当に申し訳ございません」

 アリエスとオーロラは揃ってキャサリーンに頭を下げてお礼を言っている。
 本来ならば、前世の自分を殺した相手になど頭を下げたくもないだろう。だが、アリエスはできた聖女なのでその程度はまったくもって平気なのである。むしろ、これでいい顔をしないのはサハーだろう。サハーはキャサリーンが魔王にとどめを刺したことを知っているからだ。
 それでも今は、アリエスの立場を悪くするわけにもいかないので、ぐっとこらえて黙りこむサハーなのであった。

「さて、こんなところで突っ立っていますと、朝食に遅れます。そろそろ参りますよ」

「はい、キャサリーン様」

 キャサリーンの呼び掛けに、アリエスたちは宮殿の食堂へと向かっていった。

 新年祭まではあと二日である。
 それまでの間、アリエスたちは帝都の中を視察することになっている。
 朝食を終えたアリエスたちは、護衛を伴って帝都の中を見て回る。
 さすが聖女オーロラが帝都の中に滞在しているだけのことはある。帝都の中はかなり平和で、至る所で子どもたちが初めて見る雪にはしゃいでいる様子が見受けられる。

「とても平和そうですね。さすがオーロラ様がいらっしゃるだけのことはありますね」

 アリエスは素直に素晴らしいと感動しているようだった。
 元が魔王とはいえども、今は聖女。聖女の先輩に対して尊敬の念を抱くのは実に普通のことである。

「私の住みますサンカサス王国も、このような平和な光景にあふれる場所にできるでしょうか」

「できると思いますよ、アリエス様なら」

 アリエスの言葉を、オーロラがすぐに肯定している。

「そうですね。ですが、その前に魔力暴走を起こさないように、早く魔力訓練をしておいた方がいいですね。お城を頼れば、魔力の扱いを教えて下さる魔法使いがいらっしゃるでしょう。なるべく早い方がいいですね」

「そうですね。戻りましたらすぐにでも頼もうかと思います」

 キャサリーンの提案に、アリエスは意気込みを見せている。
 なんといっても魔力に遊ばれるなど、元魔王としてはあり得ない汚点だ。すぐにでも克服できるように、特訓を決意していたのである。

 ようやく雪のやんだ晴れ空の下、子どもたちのはしゃぐ声を聞きながら、アリエスたちは雑談を交えながら帝都の視察を終える。
 いよいよ、新年祭を迎えることになる。
 翌日はその準備のために宮殿に閉じこもることになる。
 一日の自由なひと時を、アリエスたちはしっかり楽しんだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...