人が折角パーティーの中核を担っていたのに、それを一方的に追い出した勇者。間違っていたと気付くも後の祭り ~とかいう都合の良いたわけた妄想~

こまの ととと

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第2話 壁がアたる

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 さてと、これからどうすっかね。

 勢いよく飛び出してきたはいいものの、じゃあこの先何か考えがあるというわけではない。
 目的はある。でもその目的のためにどうすればいいのか全く見当がついていないのだ。
 アイツの顔と人望を利用すれば寄ってきた女とうまいこといい感じになれるんじゃないか、なーんて思ってたんだけれど。

 まぁ結局こうなってしまったわけで。

 一度クビを切られた以上、改めて他のパーティーに入れてもらうというのは難しい。なぜならクビにされたということは何かしら問題があるとしか思われないからである。
 それは至極当然なこと。当然なことだけれども、じゃあそれを素直に受け入れていいかと言われたらそれはそれで悔しいわけでありまして。

 ああ、まったくなって世知辛いんだ!

 身一つでやり直すそうと決めた以上は、やっぱり自分で立ち上げるしかないんだろうか……。

 めんどくせー。

 やっぱり今からでも……。
 いやいやいや。一度決めた以上は何もせずになりだすというのはやっぱりまずいか?仕方がないしばらくはソロで頑張ってみようじゃないか。ソロデビューで頑張ってみようじゃないか。かっこいい響きだしなソロデビュー。

 あっちはあっちでどうせ俺を追い出した事で評価上がってんだろうな。
 チクショー、俺が何したってんだ? ただちょっと巨乳のお姉ちゃん達とお近づきになりたかっただけなのに。あんまりだぜこれは、ストーカー扱いかよ。

「…………はぁ」

 ため息が出る。

「……はぁ~」

 もう一度出る。

「……はぁぁぁ」

 三度目はちょっと長めに。

「……はぁぁぁぁ」

 はぁ、もうダメだ。

「はぁ……「もう! うっとうしいわね!!」……あん?」

 街中をため息をつきながら歩いていると、突然横合いから声をかけられたのでそちらを見てみると、そこには俺より少し小さい位の背丈をした女が立っていた。
 歳も俺と同じか少し下ぐらいに見えるが、髪の色は青っぽい黒。
 それに何より目を引くのが頭の上に乗っかっている猫耳。

 獣人種か……。いや肝心なのはなによりも……。

「な、何よ? 一体どこ見て……」

 女は自分の胸部に目を向けられていることに気づき、咄嗟に胸を押さえた。

「ちょっと!? 初対面でそういう事するわけ! おかしいんじゃないのアンタ?!!」

「へ、別に胸無しのお嬢ちゃんには興味は無ぇんだよ。俺が良い男だからって相手して貰えると思ったら大間違いだぜ」

 俺は余裕たっぷりの態度で言う。

「は?」

 しかし彼女は俺の言葉の意味が分からなかったようで、キョトンとした表情を浮かべていた。

 ……あれ? 俺なんか間違ったこと言ったかな?

 そんな事を考えていると、彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
 そして――。

 ―――パァンッッ!!!

 俺の頬に強烈なビンタが炸裂した。
 俺は吹っ飛びながら思った。

 ――痛ェ……。

 空中でそのまま三回転ぐらいしたあと地面と激突する俺。
 いやいや、ここまでやられる覚えは無いだろう!!?

「何しやがるこのアマ!」

 俺は立ち上がりざまに怒鳴りつけた。

「何するのよはこっちのセリフよ!!! いきなり失礼にも程があるわっ! しかも人のことを胸が無いだのなんだの! ふざけんじゃ無いわよっ!!!」

 彼女がそう言った瞬間、俺は気づいた。
 そういえば、俺は彼女に胸が小さいと言ってしまった。

 つまり、だ。
 目の前にいるのは、自分のコンプレックスを指摘されて怒り狂う鬼である。
 これは怒りを沈めなきゃ被害を食らってしまう。

「まあまあ落ち着けって。劣等感を理解出来ない程俺も無粋な男じゃあない。そりゃ胸が無いというのは女性としての敗北感に一生苛まれなきゃならんワケだし、好きな男がいてもボインちゃんに取られるだけの人生を送らなきゃならないかもしれないが。でも、世の中ってもんは広いわけで、もしかしたらそんな慎ましやかなもんが好きとかいう危篤なヤツとも巡り会える可能性だって捨てたもんじゃないはずだ。そう信じていけば救われるさ。ま、俺はお前なんか御免だけどな!」

 俺はなぐさめるように言う。
 すると彼女は一瞬ポカンとした後、プルプルと震えだした。

 そして直後、今度はグーパンチが飛んできた。
 これは食らってはたまらんとすかさずしゃがみ込んで回避行動に移る。
 よし、成功!

 と思った矢先だった。

「甘いわ!!!」

 怒声と共に放たれた蹴りが、俺の股間を捉えた。

「ひぐっ!!」

 あまりの激痛にその場に崩れ落ちる俺。
 あかんわこれ。


 そのままのたうち回ること五分。
 あの女はとっくの昔に消え失せており、往来の町中で一人もんどりを打つという恥を晒してしまった。


「くっそ、覚えてろよあのアマ……」

 そう言いつつ立ち上がると、ふとあることに気がつく。
 いつの間にか、先ほどまで抱いていたはずのモチベーションがすっかり無くなっていたのだ。

「はぁ~」

 本日何度目かのため息をつく。
 もういいや、今日はもうどこか宿でも探すか。昨日泊まったところは使えないし、顔見たくないし。

 あ~でも装備も整えないと。着の身着のまま飛び出してきたから財布しか無い。
 戻りたくないしな。俺はギルドに向かうことにした。そこで何かしらの仕事を紹介して貰おう。便所掃除とかは得意だしな。

 あ~、でも腹も減ったなあ。

「はぁ~」

 ……ため息しか出ない。

「……ん?」

 ギルドに向かう途中、何処からか騒ぎ声が聞こえてきた。
 なんだ? こんな日も高い内から喧嘩かよ。余所でやってくれよ。
 迷惑そうな顔を作りながらそちらの方を見やった。
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