人が折角パーティーの中核を担っていたのに、それを一方的に追い出した勇者。間違っていたと気付くも後の祭り ~とかいう都合の良いたわけた妄想~

こまの ととと

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第5話 眠れぬ少女の抱き枕

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「はい。ではニ名様でのご登録ということでよろしいでしょうか?」

「ええ勿論。あと、登録ついでにどうです? 貴女の人生にも僕を登録して頂く、というのは?」

「はぁ……」

「な、何やってんのよアンタ!? 恥ずかしい事してんじゃない!!」

「おい離せ!? 離せよ!! ああ、遠のいて行く」

 俺の華麗なナンパ術に、巨乳受付嬢は困惑した表情を受けべていた。
 俺にはわかる。あれは俺ほどの男に口説かれて単に照れているだけというのが!
 あと一歩なんだ。あと一歩だったんだ! それをこの胸無しのラゼクに邪魔されなけりゃあな!

「このアマァ! そんな了見だからテメェの胸はいつまでたっても成長しないんだよ!!」

「口を開けば憎まれ口のアンタだって相当成長して無いでしょうが!!」

 ギルドについて早々、受付の女性があまりにも美しく、そして見るからに立派なものを胸部にお持ちだった為、これは口説かにゃ男が廃れると思い実行したらこの様だ。

「もういい加減にしてよアンタ。いい歳こいてみっともないったらありゃしないわよ」

「男という生き物に何よりも求められるのは決断力だ。そして俺は決断した。口説かないとダメだと、口説かなければ美人に対して失礼にあたると。俺の中の紳士が切実に訴えてきたんだよ!」

「ドブ川にでも捨ててきなさいそんなの。……アンタはここにいなさい、私が手続き済ませるから」

「あっ! まだ話は終わってねぇぞ!」

 俺を置いて、自分だけあの麗しい受付嬢の元へと戻って行くラゼク。

「はい、こちらが冒険者証になります。手数料としてお一人様二千ペレルをいただきますがよろしいでしょうか?」

「はい。はい、じゃあこれでお願いします」

「確認させて頂きます。……はいではこちら、お受け取りを」

「ありがとうございます」

 ケ、なんだよなんだよ。俺は子供かってんだ。
 事務的にさっさと事を終わらせたラゼクが戻ってきて、俺の分のカードを渡してきた。

「はい、これアンタの。ていうか、アンタ自分の分紛失したってどういう事よ? 結局アタシがアンタの分まで払ってるし」

「いや~ゴチです」

「ぶっ飛ばすわよ」

「なんだよ、ちょっとしたお茶目じゃねぇか。そうカッカしなさんな」

 仕方無いじゃないか、俺のカード昨日置いてきてしまったんだから。
 金だって装備ですっからかんだし。
 財布も夜遊び用のへそくりだったし。だって、俺の分の金管理されてたんだもん。
 なんだよ無駄遣い防止ってさ。俺は子供か?

 そんな俺の心情など当然知るはずもないラゼクは、やっと冒険者となれたせいか妙に浮ついているようにも見える。
 俺にもこんな時期あったなぁ。

 …………あれ、あったよな? いやあった、あったさ!!

「アンタどうしたの? さっきからコロコロ表情変えちゃって」

「いや、ちょっと、アイデンティティについての考察を……」

「は?」

 まあ、いい。
 とりあえずこれで俺も再スタートを切ったわけだし、一つ、今出てる仕事でも見ておこうじゃないか。

「へぇ、フロア掃除が一時間あたり八二〇ペレルねぇ。結構いいな」

「何バイトの求人なんて見てんのよ! アタシたちは冒険者でしょうが!」

 ◇◇◇

 ギルドでの用事を済ませたら、外はすっかり日が落ちていた。
 飯食って、買い物して、それから登録まですりゃ、そうなるか。
 一日ってのは短いもんだなぁ。

 そんなこんなで宿探し、とはいえこの時間から駆け込みで泊まれる宿なんて大した選択肢があるわけでもなく結局俺たちが見つけたのは……。

「単身者向けのビジネスホテルってか。まぁカプセルじゃないだけましだな」

 お一人様の宿。出張で頑張るパパさんとかが利用するような寝れれば良いといった感じの非常にシンプルなホテルだ。
 そこそこ狭い部屋にベッドとテーブルだけ。あと湯沸かし器。

 思えば俺もこんな感じの宿は利用した事が無い。なんだかんだそれなりの人数でパーティーを組んでいたから、そんな機会が無かった。
 こんな風になってたんだな。

「文句を言うんじゃないわよ、結局ここもアタシのお金なんだから。にしてもベッドはシングル一つかぁ」

「いやぁ悪いな。ま、これも年功序列ってやつ? せめて毛布の一枚位は貸してやるからさ」

「なんでアンタがベッドを占領する事になってんのよ? アタシのお金なんだからアンタが床でしょうが」

「お、お前。だってそんな、床になんて寝たら一晩で肩も腰もガチガチになっちゃうじゃないか」

「アタシなら良いってワケ?!」


 言い争いの末、どちらも一歩も譲らなかった為に妥協するはめになった。
 そう、つまりこのベッドを二人で使うって事だ。

「言っとくけど、手なんて出してきたらただじゃ済まさないから」

「安心しろよ。前のパーティーの時なんて、女は貧乳しかいないからって理由で大部屋になった時もグースカしてた俺だぜ?」

「……それはそれで心配になるわね、アンタが」

「?」

 どういうわけか何故か引かれてしまった。おまけに哀れられもした。


 それは置いといて。

 近くの銭湯で汗を流して、寝巻きは無いからラフな格好になった俺達はその日をベッドの中で終える事にした。

 ああ、なんか疲れたな。今日はぐっすり眠れそうだ。

「お休みぃ」

「はいはい、お休みなさい」

 ………………
 …………

 明かりの消えたホテルの一室、時間にして午前の二時頃にうごめくものあり。
 ラゼクだ。

「……うううん。イマイチ寝付きが悪いなぁ、今日」

 里を飛び出し、初めての自分の部屋以外の就寝は、知らず知らずの内に少女にストレスを与えていた。
 その隣に眠る男、エレトレッダは少女とは対象的にぐっすりと夢の中へと旅立っていた。

 確かにこういうところはベテランだろう。
 冒険者として、寝る場所を問わない。そういうスキルは早々に身に着けねば身が持たない。

 ラザクはエレトレッダの頬に指を立て、ぷにぷにと押し始める。

「あらら、ホントに起きないわね。コイツが静かなのってこんな時だけなのかしら?」

 幾度押していると、エレトレッダから寝言が飛び出した。

「……ふへへ、ボインちゃんが一杯だよぉ」

「夢の中でもこの調子……。ある意味羨ましいくらいね」

 ラゼクは、寝ている間に少し乱れたエレトレッダの胸元を直してやった。
 そこで傍と気づく。自分は寝る時には抱きまくらを抱いて寝ていたが、冒険に伴い家に置いてきていた。それも、寝付けない原因なのかもしれない。
 とはいえ、ここにはそんなものは無い。

 だが、代わりなる、かもしれないものなら眼の前にあった。

(今日は苦労掛けさせられっぱなしだったし、少しは返してもらわないと)

 ラゼクはエレトレッダの腕に自分の体を寄せると、そのまま抱きつく体勢を取る。
 冒険を生業にしているもの特有の筋肉と、しかし就寝中故の脱力が、硬過ぎず柔らか過ぎず。
 実家に置いてきた抱きまくらと見事に一致していたのだ。

(これなら眠れそう……)


 実際、その状態から深い眠りにつくまで数秒と掛かりはしなかった。
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