人が折角パーティーの中核を担っていたのに、それを一方的に追い出した勇者。間違っていたと気付くも後の祭り ~とかいう都合の良いたわけた妄想~

こまの ととと

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第6話 ぐぅ、ぐえぇっ

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「……ほ~ら起きなさい。いつまで寝てるの?」

「う~ん、勘弁してくれよ母ちゃん。昨日は美女に揉みくちゃにされてへとへとなんだよぉ」

「誰が母ちゃんよ! いつまでも夢見てんじゃない、の!!」

「ぐはっ!!?」

 朝、俺は強烈な一撃と共に目を覚ました。
 何事かと辺りを見回すと、どうやらここはホテルのベッドの下。つまりは床の上で目を覚ました事になる。あれ? 俺こんなに寝相悪かったっけ?

「アンタって起こされないといつまでも眠ってるワケ? 今までどうしてたのよ?」

「前のパーティーじゃ誰かが起こしてくれてたんだよ。ほら俺ってさ、寝付きの良さが特技みたいのところあるし、数少ない母ちゃんから褒められてたポイントだから。あんたは本当に赤ん坊の頃から寝付きだけはいいってさ!」

「それ褒められてんの? まあ良いわ、とにかく早く支度してよ。もうチェックアウトの時間よ」

「はいよー」

 俺は寝ぼけ眼を擦りながら、欠伸と共に出ていく準備を整える。
 あ~ねむ……。

「ちょっと、立ったまま寝ないでよね?!」

「………………ぐぅ」

「ちょっと! 寝ないでって言ってんでしょ!」

「ぐぅ」

「ぐぅじゃなくて、こら!!」

「ぐぅ」

 ………………
 …………

 そんな感じに、俺達の一日が始まった。
 その上でやる事と言ったら一つしか無い!
 それは……。

「ああ、食った食った。ま、朝だし腹五分目ってね」

「例によって例の如くアタシのお金だけど。それ以上食べたらさすがにブっ飛ばしてたわよ」

 ちぇ~。

 格安のビジネスホテルに食事なんてサービスはないので、朝早くからやってる喫茶店で軽く食事を済ませた。
 朝のクロワッサンの味は格別だな、特に焼きたては最高だぜ!! ベーコンに卵まで挟んじゃって、食後のコーヒーも美味い。やっぱ朝はカフェオレだよ。
 これでポタージュなんて……、頼んだらさすがに殴り飛ばされる。

「いやぁ、良いねぇ。やっぱり朝食はこうでなくっちゃ」

「今度からこのレベルの朝食が食べたかったら自分のお金で払いなさい」

「わかってるよ。いや~ゴチになりましたぜ姐さん」

「その手やめてよ。なに露骨にゴマ擦ってんの?」

 だってお金が無いんだもん。もん。

「さてと腹ごしらえも済んだし、今日こそギルドに行って仕事を見つけないと」

「それが冒険者のあるべき姿ってか。いっぱし気取っちゃってぇ、一ベテランとして鼻がむず痒いね」

「しみじみ言ってんじゃないわよ。たかだか、一年ちょっとのクセに」

 いつものようにグチグチと言い合いながら、俺たちは店を出る。

 街道へと飛び出すと、まずは何よりも朝日が俺たちを出迎えてくれた。
 あーなんて清々しいんだ、青い空が青い。白い雲が白い!
 ああ太陽が眩しい、溶けるぅ。気持ちいい。

「眠くなってきちゃったなぁ……。ぐぅ」

「食ったら寝るって、冗談じゃないわよ! 朝はまだ始まったばかりでしょうが!!」

「お、おい。そんなに揺らすなよ。吐き気が……」

「きゃあ!!」


 ◇◇◇


「ええ、ではパーティーを結成して初めてのお仕事という事ですので、こちらなどどうでしょうか?」

「なるほど、流石は目利きでいらっしゃる。しかし僕としては、やはり貴女の人生の伴侶という仕事を引き受けたく」

「はぁ……?」

「朝っぱらから何やってんのよ!? もういいから向こう行ってなさい!!」

 ギルドの受付嬢のお姉さんと楽しくお話していただけなのに、ラゼクのヤツに邪魔だと蹴っ飛ばされた。ひどい女だ。

 仕方なしに後はラゼクに任せた。
 ラゼクは俺をあしらいつつ、受付嬢との会話を続けてた。なかなか器用な真似をするじゃないか。
 やがて話はまとまったのか、彼女は一枚の依頼書を手に取った。

「じゃあ、これにします」

「はい。では手続きを開始いたしますので少々お時間を頂戴致します」

「わかりました、お願いします」

 お、どうやら決めたようだな。
 でも実は俺も、中々のものを見つけてしまったのだ。

「居酒屋のオープニングスタッフ、時給千ペレル。未経験者歓迎、アットホームな社風を目指しています。これを機に新しい仲間と楽しく働いてみませんか? ……そこそこ悪くねぇな、これにするか」

「だからっ、バイトの求人に応募してどうすんのよ! いい加減にしなさい!!」

「そんな怒鳴ることないじゃん。……それで、結局何の依頼を引き受けてきたのよ?」

「これよ、これ」

 そう言ってラゼクが持ってきた依頼内容は、こう書かれていた。

『ヴェノムスパイダー討伐。場所:レッデレア坑道。依頼人:ギルド。毎年の事ですが、今年も彼のモンスターの繁殖時期が近づいてきました。殲滅は生態系に影響を及ぼしますので、適度の間引きをご依頼しております。報酬額は一匹につき五千ペレル。なお、期限は一週間以内となります』

「おお、そういや今年もそういう時期か……。いやぁ懐かしいな、俺もド新人の頃受けたぜ。もうすでに分かっているだろうが、俺はみんなが期待する新星冒険者でな、そりゃあもうあの頃はその期待に応えるようにちぎっては投げちぎっては投げ、獅子奮迅の大活躍を初回に決めちまったもんさ」

「……ていう妄想なのね。アンタの事だから、どうせパーティーメンバーに任せっぱなしにして顰蹙買ったとかじゃないの?」

「そぅ、んなワケないじゃん。な、何てこと言うんだ。俺は期待の新星で、依頼を達成した後お姉ちゃん達にもみくちゃにされて!」

「動揺してんじゃないわよ。……はぁ、まあいいわ。もうすぐ手続きも完了するでしょうし、装備品とかの確認しましょ?」

 呆れ顔で溜息をつかれながら、そう提案された。
 持ち物の確認というのは冒険者として当然のことだ。とりわけ、俺はともかくコイツは初だからこういうことに気合が入る。俺にも覚えがある。
 普段寝つきの良い俺が、前日からワクワクして全く眠れなかった。

 今でも昨日のように思い出すなあ……。

『ぐへへ、ボインちゃんがいっぱいだよぉ……』

『もういい加減に起きなよ! 今日がボク達の初仕事なんだよ?! どうしてそんなに緊張感が無いんだキミは!!』

 …………あれ?

 ま、まあ一年も前の話だから。多少の記憶違いが起こっても仕方ないよな。うん。

 それはそれとして、冒険者にとって装備は命綱そのもの。
 武器は勿論のこと、防具だって重要だし、道具だって忘れてはならない。
 特に俺達は駆け出しなんだから、準備不足が祟って命を落としたなんてことになったら笑えない。
 なので、ラゼクの提案には当然乗るとしてだ。

「そういやお前ってどんなタイプなのよ?」

「アタシは前衛職だけど、基本的な補助魔法とか使えるし薬学の知識も里で教わったわ」

 だってさ。もしかして結構な掘り出し物かもしれんぜこりゃあ。

 そんなこんなで必要なもんの打ち合わせに数分。

「サトーエン様、手続きが完了しましたのでカウンターまでお越しくださいませ」

「あ、はーい! じゃあアタシは行ってくるから、アンタも準備しておきなさいよ」

「へいへ~い……」

 俺は適当に返事をして、受付嬢に呼ばれるままラゼクの後を目で追った。
 それでも、ちと時間が空くなぁ。掲示板に何か面白いもんでも乗ってないか……。

「遊技場の夜間清掃が千四百ペレルかぁ。小遣い稼ぎにはちょうどいいな」
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