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第29話 ソレが見えたから
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その日、彩美は朝から気分が優れなかった。
自慢の食欲も鳴りを潜め、スープで誤魔化すしかなかった。
体はずっしりと重く、頭痛にも悩まされていた。
「彩美、アンタ本当に大丈夫なワケ? あんまり無理しなくていいから」
「ご、ごめん店長。でも大丈夫だから、ちょ~っと萎え萎えなカンジなだけだし。ほら元気元気!」
バイト先のアパレル店の店長にも酷く心配される有様。
あからさまな空元気を見破られてはいたが、それをわかっていても問題のない素振りを見せる。
こうなった原因は分かってる、昨日見たあの写真だ。
三枚の写真に写る少女がこちらを見ている。本当に自分を見ているわけではないはず、そのはずなのに……。
(何? 何なワケ?! 一体何がどうして……)
あの異常な写真とそれを異常と認識できない幼馴染。一体彼の身に何が起きているのか?
幼馴染の身を案じる彩美。
彼女は、ただ自分への恐怖に悩んでいるのではない。それ以上に、良介に良からぬ何かが降りかかっているかもしれない事に心を砕いているのだ。
ふと、思い出すのは十年前。自分がこの町から引っ越していく直前の事。
(あの時、ギリギリになってやっとこの町を離れるのを伝えたんだっけ。良ちんはあの時……)
そこでいつも考える。あの時彼は何と言っただろうか?
肝心なことが思い出せず、そのうち諦めてしまうのもいつも通りだ。
(あの頃は楽しかったなぁ。あの頃は男の子とか女の子とか、そういうの考えなくて素直に遊び回って)
それでも、そんな風に二人で遊び回っている内に、彼を目で追ってる時間も増えていった。
心を許せる幼馴染、だけどもう会うことはないから考えても仕方ないと思っていたのに。十年後になってこの町にまた戻って来られた。
そして、良介との再会。蓋をした思い出が日増しに色を蘇らせていったのだ。
恋人が出来ていて、その彼女のせいで悩んでいると知った時は心配になった。
(でも、良ちんはなんとか立ち直れてさ。あの頃はむしろウチの方が話を聞いてもらう立場だったのに)
お互い六つの頃、自分が何かを悩むとじっと聞いてくれてそしてアドバイスをくれるのだ。役に立たないことも多かったが、それでも話を聞いてくれることが嬉しかった。
あの頃はいつも二人………………。
――ほんとうに?
「いッ!?」
「ちょっと彩美!? どうした?!」
急に頭痛に襲われて、思わず小さな悲声を上げてしまった。自分の作業をやめて駆けよってくる店長。彼女にとっても、彩美は可愛い妹分。心配せずにはいられなかった。
「ごめん店長、ほんのちょっとだけ裏で休んできていい?」
「そんなこと気にしないの! ダメそうだったら病院に行っていいから」
「ありがと。でもほんのちょっと休むだけだから」
店長にこれ以上は酷い姿を見せるわけにもいかず、バックヤードへと引っ込む。
そして、そのまま誰もいないことを確認してから、スマホを取り出して通話アプリを起動させる。
「良ちん、今どうしてるんだろ」
幼馴染に電話でもしてみようかと思い立った彩美だったが……。
(やっぱりやめとこ)
すぐに思いとどまった。こんなことで彼に余計な負担をかけるわけにはいかない。
しかしさっきの頭痛は何だったのか? 何かを思い出しそうになって、それで急に頭が痛くなった。
もしかしたら、それを思い出すことができたら少しは悩みも解決できるだろうか?
根拠はないが打開策もない以上、この小休憩を使って思い出すことにした。
(あの頃はいつも二人で遊んでいて……。間違いない、そのはずなのに。何で? 一体何が引っかかって……)
十年前の思い出を振り返っても、良介と遊んだ記憶が非常に多い。他の子供と遊んだことがない訳ではないが、あまり記憶には残らない程度だ。
引っ越しを告げたのだって、いつものあの公園で二人……。
また頭がズキリと痛む。手で額を抑えるが、痛みに耐えてそれでも思い出そうと。
(あの時、良ちん何て言ったんだっけ? せめてそれだけでも!)
『良ちん、わたしのお家ね……今度お引っ越しするんだって。もう会えなくなるんだよ?』
自分がそういった時、彼は……彼は……。
『だい……ぶ! き…………る…、じ……………………!』
彼は……! あっ。
あの時、彼は笑顔で。でも、確かその時に何かを見た。
『大…夫! き…と……るよ。じ……………に、…………!』
あれは、白い……。
『大…夫! きっと…えるよ。じ…………後に、………ず!』
黒い、髪の……。
『大丈夫! きっと会えるよ。じ…う……後に、………ず!』
年上の……!
(良ちんは笑顔で、でもその後ろには……)
良介は答えた、屈託のない笑みで。
『大丈夫! きっと会えるよ』
――十年後に、必ず。
途端、彩美はバックヤードから飛び出した。
「ごめんね店長! やっぱり今日休む!!」
「え? あっ、出て行っちゃった。やっぱり相当キツかったんだ……。大丈夫かな?」
店長の返事も聞かず、外へと走り去っていく彩美。心臓の高鳴りなどに気遣ってはいられない。
頭のモヤがやっと晴れたのだ。
(あの時、ウチらの他に誰か居たんだ! 良ちんの後ろに。白いワンピースで黒い髪の……年上の女の子!)
そしてあの時、良介と同じ台詞を吐いた。何の抑揚も無い声で。
向かう先はただ一つ、幼馴染の通う学校。
今はまだ昼前。
自慢の食欲も鳴りを潜め、スープで誤魔化すしかなかった。
体はずっしりと重く、頭痛にも悩まされていた。
「彩美、アンタ本当に大丈夫なワケ? あんまり無理しなくていいから」
「ご、ごめん店長。でも大丈夫だから、ちょ~っと萎え萎えなカンジなだけだし。ほら元気元気!」
バイト先のアパレル店の店長にも酷く心配される有様。
あからさまな空元気を見破られてはいたが、それをわかっていても問題のない素振りを見せる。
こうなった原因は分かってる、昨日見たあの写真だ。
三枚の写真に写る少女がこちらを見ている。本当に自分を見ているわけではないはず、そのはずなのに……。
(何? 何なワケ?! 一体何がどうして……)
あの異常な写真とそれを異常と認識できない幼馴染。一体彼の身に何が起きているのか?
幼馴染の身を案じる彩美。
彼女は、ただ自分への恐怖に悩んでいるのではない。それ以上に、良介に良からぬ何かが降りかかっているかもしれない事に心を砕いているのだ。
ふと、思い出すのは十年前。自分がこの町から引っ越していく直前の事。
(あの時、ギリギリになってやっとこの町を離れるのを伝えたんだっけ。良ちんはあの時……)
そこでいつも考える。あの時彼は何と言っただろうか?
肝心なことが思い出せず、そのうち諦めてしまうのもいつも通りだ。
(あの頃は楽しかったなぁ。あの頃は男の子とか女の子とか、そういうの考えなくて素直に遊び回って)
それでも、そんな風に二人で遊び回っている内に、彼を目で追ってる時間も増えていった。
心を許せる幼馴染、だけどもう会うことはないから考えても仕方ないと思っていたのに。十年後になってこの町にまた戻って来られた。
そして、良介との再会。蓋をした思い出が日増しに色を蘇らせていったのだ。
恋人が出来ていて、その彼女のせいで悩んでいると知った時は心配になった。
(でも、良ちんはなんとか立ち直れてさ。あの頃はむしろウチの方が話を聞いてもらう立場だったのに)
お互い六つの頃、自分が何かを悩むとじっと聞いてくれてそしてアドバイスをくれるのだ。役に立たないことも多かったが、それでも話を聞いてくれることが嬉しかった。
あの頃はいつも二人………………。
――ほんとうに?
「いッ!?」
「ちょっと彩美!? どうした?!」
急に頭痛に襲われて、思わず小さな悲声を上げてしまった。自分の作業をやめて駆けよってくる店長。彼女にとっても、彩美は可愛い妹分。心配せずにはいられなかった。
「ごめん店長、ほんのちょっとだけ裏で休んできていい?」
「そんなこと気にしないの! ダメそうだったら病院に行っていいから」
「ありがと。でもほんのちょっと休むだけだから」
店長にこれ以上は酷い姿を見せるわけにもいかず、バックヤードへと引っ込む。
そして、そのまま誰もいないことを確認してから、スマホを取り出して通話アプリを起動させる。
「良ちん、今どうしてるんだろ」
幼馴染に電話でもしてみようかと思い立った彩美だったが……。
(やっぱりやめとこ)
すぐに思いとどまった。こんなことで彼に余計な負担をかけるわけにはいかない。
しかしさっきの頭痛は何だったのか? 何かを思い出しそうになって、それで急に頭が痛くなった。
もしかしたら、それを思い出すことができたら少しは悩みも解決できるだろうか?
根拠はないが打開策もない以上、この小休憩を使って思い出すことにした。
(あの頃はいつも二人で遊んでいて……。間違いない、そのはずなのに。何で? 一体何が引っかかって……)
十年前の思い出を振り返っても、良介と遊んだ記憶が非常に多い。他の子供と遊んだことがない訳ではないが、あまり記憶には残らない程度だ。
引っ越しを告げたのだって、いつものあの公園で二人……。
また頭がズキリと痛む。手で額を抑えるが、痛みに耐えてそれでも思い出そうと。
(あの時、良ちん何て言ったんだっけ? せめてそれだけでも!)
『良ちん、わたしのお家ね……今度お引っ越しするんだって。もう会えなくなるんだよ?』
自分がそういった時、彼は……彼は……。
『だい……ぶ! き…………る…、じ……………………!』
彼は……! あっ。
あの時、彼は笑顔で。でも、確かその時に何かを見た。
『大…夫! き…と……るよ。じ……………に、…………!』
あれは、白い……。
『大…夫! きっと…えるよ。じ…………後に、………ず!』
黒い、髪の……。
『大丈夫! きっと会えるよ。じ…う……後に、………ず!』
年上の……!
(良ちんは笑顔で、でもその後ろには……)
良介は答えた、屈託のない笑みで。
『大丈夫! きっと会えるよ』
――十年後に、必ず。
途端、彩美はバックヤードから飛び出した。
「ごめんね店長! やっぱり今日休む!!」
「え? あっ、出て行っちゃった。やっぱり相当キツかったんだ……。大丈夫かな?」
店長の返事も聞かず、外へと走り去っていく彩美。心臓の高鳴りなどに気遣ってはいられない。
頭のモヤがやっと晴れたのだ。
(あの時、ウチらの他に誰か居たんだ! 良ちんの後ろに。白いワンピースで黒い髪の……年上の女の子!)
そしてあの時、良介と同じ台詞を吐いた。何の抑揚も無い声で。
向かう先はただ一つ、幼馴染の通う学校。
今はまだ昼前。
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