異世界の花嫁？お断りします。

60

チリーン


どこかで鈴の音が聞こえてくる。
どこ？私はこの音を何度も夢の中で聞いた。

「目が覚めたかい？」
愛おしそうに頭を撫でるザイルは、椿に呼びかけた。
「・・・帰れないなら、ここから出して」
力なく話すがザイルは悲しい顔をしながらチュッと頬にキスを落とした。

「それは出来ない。つばきは僕にとって大切な番。離れる事が出来ない」
「・・・つがい？」

椿の問いかけに答えようとしたら、部屋のドアがノックされた。
「王、談話中に失礼します。」
「なんだ。」
先程までの優しい眼差しから冷たい目になったザイルは影の方を見もせず椿と向かい合っている。
「問題が起きまして、見ていただけますか？」
「ーーー分かった、すぐに行く。つばき、僕は離れるけど、この敷地内は自由に使って大丈夫だよ。だけど、敷地から外に出たら…分かるよね？」
威圧するザイルの言葉に椿はゴクンと生唾を飲み込む。

「いい子だ。護衛に誰か付けよう、そうだな。ユナが適任だ。影、ユナをつばきに付けてくれ。」
「かしこまりました。」
「ユナが来るまで、部屋でまっていなさい。」
撫で撫でと椿に触れ満足したザイルは、影と一緒に部屋を出て行く。

1人になった椿は、ボフンッとベットに倒れこんだ。
たくさんの情報が頭の中に入るので、整理するのが追いつかないのだ。
「えっとー、元凶はあの人でー私がつがい…って事は大切な存在。片割れって事だよね？それに、帰れない。はぁーー神さまも無理って言ってたもんなぁ～って！神と友達？！そんな事出来るの？嘘でしょー？あーもう、わっかんないやぁー・・・」

1人悶々考え込んでいたが、トントンとノックの音が部屋に響いた。
「はい。どうぞ～」
「失礼します。」
椿に会釈しながら入ってきたのは女性。椿よりも年上な感じがする。っと言うよりお局様の様だな、と失礼な事を考えていた。

「初めまして奥様。わたくし、ユナと申します。これから身の回りの事をお世話させていただきます。」
自己紹介が済むとユナはテキパキと動き出した。その隣でグーっとお腹が鳴りこんな状況でもお腹は空くのかと苦笑する椿だった。

「お食事になさいますか？では、食堂にお連れします。」
しっかり聞こえていたようでニコリと微笑みながら案内してくれる事になった。

部屋を出て廊下を歩いて行くと、 お城と言うより大きな屋敷。そんな雰囲気だ。先程、庭に出た時にも思ったけどここは国と言うよりも小さな村・・・そんな感じがしたのだった。

分からない事は１つずつ聞こう。
そう思い立ち、椿は意を決してユナに質問した。
「あのっっ！」

グーーーー

質問と同時に空気の読めない腹の虫は、盛大に響いた。
顔を赤くし、でかかった言葉を飲み込んだ。
「ふふ、さぁ着きましたよ。中へどうぞ、今料理を運んで来ますので」
ユナは子供をあしらうかの様に、優しく誘導した。

無言で、席に着くと細長いテーブルには数名食事をしていた。ユナもそうだが、皆翼が見えなく普通の人間と変わらない。
美味しそうな匂いが漂ってきて、今は食べよう。そう決めた。



豪勢な食事では無く、パンに野菜スープ・お肉・デザート。どれも普通だったが椿にとってはご馳走だった。
モグモグと美味しく食べていたら、ふと恥に座っている小さな子供が目に入った。
満面の笑みで食事をしているのを見るとこちらまで笑顔になる。
「ここにいたのか、食事は口にあったか？」
ザイルが部屋に入ってきて、椿の隣に座った。

食事をしていた者達は、一斉に食べるのをやめ席を立ち頭を下げていた。小さい子供も一緒に頭を下げている。

「食事を続けてくれ。僕も頂こう、ユナ！食事を持ってきてくれ」
「かしこまりました。」

ザイルを気にせず食事を続ける椿に苦笑しながらも、「何か不便な事はあるかい？」など、気遣っている。

「大丈夫ですよ。お気になさらないで下さい。」
ツンっと返事するが、ザイルは気にせず運ばれてきた食事を食べ始めた。
先に食べ終わった椿は「失礼します」一言話すと席を立ってしまった。

「無礼だぞ！！王に対してその対応はなんだ！？」
一緒に座っていた1人がガタンと椿の態度に怒りを露わにした。

ビクっとするも、椿は凛と背筋を伸ばし頭を下げて部屋に戻る。
「っっっ失礼な！！」
おい！まて！っと呼び止めるも、ザイルは「良い。気にするな」と男を止めた。

「しかし、王よ…」
「いいんだ。今は気持ちの整理が付かないんだろう。」

そう言いながら食事を続けた。




部屋に戻った椿は自分の態度は悪かったと思うが、帰してくれない苛立ちの方が大きかった。


ザイルから事情を聞かされていたユナは椿をなだめながら、昔話をしてくれた。
その話を聞いた椿は、涙が溢れでて悲しい気持ちになった。



「私は、どうすればいいの？」