愛し子は鈍感で、愛に気付きません。

momo6

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9 料理と調合

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「竜涎国ですか?」
「うん!お金どのくらいだろ?」
「確か、馬車で5日かかりますので…これくらいかと。」

お姉さんが紙に書いてくれた金額に言葉が出ない。
だって、日本円にして40万円だよ!?高くない!?
バーのお金がすぐに無くなるよ!

「えっ!高い!」
「最近、手強い魔物が増えてきましたので、対等の依頼だと高くなってしまうのです。」
「うわぁー、しばらくは資金集めしないとダメだな…」
ガックリ項垂れていると、インリンさんが「では!良いお仕事を教えますね!」と意気揚々と受付に連れていかれた。

あまりの素早さに男性陣は置いてきぼりだった。

「リュカよ。どこで見つけたんだ?」
「この街に来る途中でウルフに襲われてた。」
「なっ!?浄化が使えるが他はダメって事か?」
「多分な。しかも、竜涎国の王に手紙を届けるみたいだぜ?あのソウ・バファイ師からの手紙をな。」
「!!そんな凄い人脈があるのか…丁重にもてなさなきゃいけないな。」
「あぁ。」

2人のやりとりを千鶴は知る由もなかった。

「チズルさん!これとかどうですか!?いや、これは!??」
先程まで、どんよりしていたインリンとは比べようがないぐらい意気揚々と仕事を進めるので、押され気味で何件か引き受けてしまった。フリフリと嬉しそうに揺れる尻尾を見ると顔が緩んでしまう。
「聞いてます?!これなんか絶対おすすめです!!」
「ははっ、ではそれでお願いします。」
引きつった笑顔で依頼を受けるとインリンは手際良く内容を説明してくれたが、正直…圧が凄くて頭に入ってない。

今日は、疲れたので安い宿でも探して明日から依頼をしに行こうと決めてから、夜にでも内容を確認しようと思ったのだった。

『あら?愛し子。リュカとは一緒に行かないの?』
1人でギルドを出た時、上から声をかけられた。

そこには、金髪のくりくりした髪をふわふわさせながら、綺麗なお兄さんが浮いていました。
『初めまして、愛し子。私はペガ、地の精霊よ。リュカと契約してるけど。まぁ基本あなたに着いて行くわ』
ーーーお姉さん?お兄さん?ん?疑問に思っていたら、顔に出ていたようで『ふふ、可愛いわね。私は一応性別は男になってるけど、中身は女よ~』
えっ、それはつまり・・・オネエ?妖精にオネエ様っているんだ。知らなかった~、まー気にしないけどね。

「あっ、失礼しました。あの、何で愛し子って呼ぶんですか?他の精霊にも言われたんですが。」
『愛し子?あなた、光一族でしょ?あの一族には、私達精霊の血が混ざっているのよ。しかも、あなたは特に血が濃いのよね。あなたの事は私達が守って見せるわ。愛し子。』

ペガの言葉で、一気に謎が解けた。
私の血…正しくはエレンの血に精霊の血が混ざっていたから、魔法が使えたのかと。
それで、こんなに精霊達が近づいているのかも納得した。単に焼き菓子目当てでは、無かったのかと、少しショックを受けたがペガが『あなたから頂いたお菓子は評判よ?わたしにも食べさせて』と言われ、嬉しくなる。
鞄を通して、異空間から焼き菓子を取るとペガにあげた。
『ん!これは、美味しいし。魔力が入ってるわ!もっとちょうだい!』
「へっ?魔力?そんなの入れてないよ?」
『あらー自覚ないのね、優しい魔力が注がれてるわよ?』
そうなんだ。初めて知った。
自分の作ったのを喜んでもらうと、素直に嬉しいな。

「私は、宿を探すので。リュカさんとは一緒に行かないですよ?」
『あら?リュカは、白銀よ?一緒にいた方が便利だし。なんたって強いわよ?』
「便利って、人を物みたいに言ってはダメですよ?とにかく、私は1人で大丈夫です。」
『あらあら。愛し子は優しいのね。うふふ』
そういうと、ペガは姿を消した。

精霊さんは気まぐれだな。と思いながらも、インリンに聞いた宿に向かう。

ギルドを出て、少し歩いた所にあるみたいだけど。
うん、あれかな?
ナイフとフォークがクロスしている看板を見つけた。

中に入ると、ウサ耳の女の子が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!お食事ですか?お泊りですか?」
「7日ほど泊りたいんですけど、部屋は空いてますか?」
「はい!空いてます!先にお金をお支払い下さい。その間に用意しますね」
手早くお会計を済ませると、
ニコニコしながら、女の子が部屋を案内してくれるようだ。後ろを付いて行こうとしたら、
「えっと、お連れ様も同室ですか?」と聞かれ「え?」私、1人だけど。って、言おうとしたら「同室で。」と声が聞こえた。

リュカだ。
ペガもいるから、場所を教えたんだと理解した。
「何でいるんですか?」ジト目で見ても気にしてない風で「一緒に行くって言っただろ?俺から逃げれると思うなよ?」

怖い。怖い。
獲物を狙った目つきで言われたら、恐怖しかない。
「そーですか。好きにして下さい。でも、部屋は別です。」
ウサ耳の女の子に、リュカは別の部屋にするよう話して。
耳がピクピク動きながら好奇心の目で見られているが。説明なんかしませんよ?上目遣いで見てもダメです。
視線を合わせない様にしているうちに部屋についた。安堵の息を吐きながら部屋に入る。
「では、また明日」
そっけなけ声をかけて、いそいそとドアを開ける。
リュカが何か言っていたが、気にせず部屋に入り鍵を閉めた。

まだ、お昼過ぎだけど。今日は、ゆっくりするって決めたから邪魔されたくないんだよね。
ベッドに座り、異空間から来る途中で見つけた素材を確認する。
元々、料理が好きだった千鶴は、食材になりそうなのを探していたのだ。
バーから「料理するなら、調合と同じだからやってみたらどうかえ?」と言われて、試しにやったら楽しかった。
それから、調合ばっかりしてたら《錬金術に昇格しました》って出て、バーは驚いてすぐ隠蔽しろといわれたけど…まぁ、気にしない。はまったら、とことん追求する性格は変わらないな。

「さて、やりますか。」
1番楽しかったのは、治療薬。回復薬みたいな物。これは怪我した箇所を治す薬。バーの本で見たらランクがあり。上位になると無くした腕を元に戻すとか。うん。極めたい。

ウズウズするのを抑えながら、異空間から治療薬の元になる薬草を取り出し大きい瓶の中に入れる。「乾燥」と魔法を使いながら、ゆっくり混ぜて丁寧に作業する。

薬草は、粉になり別の薬草で取り出したエキスと混ぜる。
他にもオリジナルを入れたり、自分なりにアレンジするからバーにはよく怒られたな。「こんな立派なの売れるかえ!!…出回ったりしたら大変だよ」ってね。いつも最後はボソボソ言うから聞き取れないけど。明日、治療薬が売ってたら自分のと比べたいなー

そんなバーとの思い出に浸りながら作業を進めていく。

「よし、出来た。これを小瓶に注いで。完成~~」
透明な液体が入った小瓶が10本出来上がった。
この、小瓶もバーから貰ったけど。もう残り少ないな、買い足さないと。
「どれどれ、成果はどうでしょう~」
期待しながら鑑定すると

【鑑定 : ランクA。瀕死の状態でも、直ぐに元に戻す。良い香り。】

「っっっやったぁぁ!ついにAーー!」
鑑定結果に満足しながら、異空間にしまう。別に誰かにあげたりするわけではない。ただの自己満である。

「よし、この調子で携帯食でも作るかな!この辺で厨房借りれるか聞いてみるか?」
さっきの女の子に聞いてみよう。
ルンルン気分で部屋を出て行く。

階段を降りると、リュカがテーブルに座り千鶴に気付いたのか手招きしていた。
「?」
「飯はまだだろ?今、注文するから食べてけ」
ぶっきらぼうに話すリュカに何かあったのかな?と思いながらも言われたとおりに座る。
自分で作って食べようとしてたから、手間が省けた。

チロっと、リュカを見ると何か考えているのか難しい顔をしている。
お構いなしにとりあえず、お水を貰う。
「何かあったんですか?」
ゴクゴクと乾いた喉を潤しながらお水を口に含みリュカを見ると、真剣な顔で見ている。

「・・・チズルは、一人旅しているのか?」
「はい?えぇそうですけど?」
「そうか。・・・誰か好きな奴がいるのか?」
ブフーー!!あまりの質問に口に含んだ水を吹き出しちゃったよ!えっ!?何?なに?なんでそんな話になったの??
勢いよく吹き出たお水がリュカにかかり、びしょ濡れだ。
「なっなんですか?急に、別にいませんけどーー何かあったんですか?」
「いない?そうか…そうか!いないなら、別にいいんだ!さぁ!飯でも頼むか!!おーい、メニューを見せてくれ!」
急にニコニコして、気持ち悪い。何か悪いのでも食べたのかな?

挙動不審な態度に千鶴は、引き気味であった。
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