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第一章
強くなりたい、ただそれだけ
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翌日。
葬式が終わり次第貴族たちはそそくさと帰っていった。
モーガンとはあの一件以来、一度も顔を合わさないままであった。
本音を言えば未だにぶん殴ってやりたいくらいにイライラしているが、ああ見えて相手は名のある貴族の跡取りだ。下手に手を出したら非常に面倒な事態になりかねない。だから結果的にはそれで良かったのかもしれないな。
あいつをボコボコにするのは学院での授業などで、合法的に力を振るえるその時までお預けだ。
まあ、そんなわけで慌ただしい一日は終わった。アースガルズ王ご一行は貴族が帰る中、ギリギリまで残っていたがほっぽり出してきた公務があるとかで、名残惜しそうに帰って行った。
しかし、シャーレットだけはこの村に残った。
王様が帰ろう、と何度も説得したのに彼女は首を縦に振らなかった。
先に折れたのは王様。王国へ早馬を出し、急いで彼女のお泊まりセットを持ってこさせようと配下に指示を飛ばす。
そんな王様にシャーレットは言った。
「あ、お父様。それは必要なくってよ。もう準備してあるわ」
彼女は用意周到にお泊まりセット一週間分、豪華なテントを既に持参していた。
ここに来るってなった時から泊まる気満々で、メイドたちに用意させていたのが判明したのだ。
王様はそんな愛娘に苦笑しつつも、彼女の好きにさせた。
そして用意したテントに泊まったシャーレットが朝一番に俺の家へと訪ねてきた。
「マルス、強くなりましょう!」
開口一番に言い放たれた言葉。
俺が彼女の言葉を理解するのには少し時間を要した。
「強くなるって?」
「そのまんまの意味よ?一緒に修行しましょうよ、それであいつらを見返す力をつけるの!」
小首を傾げてまるで俺の理解力が足らないのが悪い、的な感じで告げる。
俺としてはおかしい反応を示したつもりはない。
「け、けどさ、俺はこれから村とか領地の経営の勉強しなきゃだし・・・」
そうなのだ。父さんがいなくなったらこの村の経営は誰がするのか、領地は誰が運営するのか、これが一番の問題なのである。
勉学はからっきしにダメな俺は、時間を費やして一からこの世界の勉強をし直さなければならなく、修行なんかしている暇はないのだ。
考えるだけで気が滅入るが、俺が意地を見せなければこの村が荒れ果ててしまう。それだけは何としても避けたい。でなきゃ、父さんに顔向けできないからな。
だから俺は当たり前のことをシャーレットに告げた。
でも彼女は腕を組み、あからさまに不機嫌な態度を全面に俺を睨むのだ。
どうしたもんか、と俺が頭を悩ませていたその時。
「マルス様、ご安心くだされ」
シャーレットの背後からひょっこり顔を出すのは、旅行から帰ってきたらしいモン爺。
「モン爺、安心って?いったいどういうこと?」
「なぁに、マルス様が大きくなって学園を卒業されるまではわしらの手で村の経営をするって話じゃよ」
「いや、そんな簡単に」
「俺たちもモン爺に賛成だぜ」
加わった声の主はバーランドさん。
「わたしも手伝うわ。なんでも言ってね」
更に五軒隣に住むマレーおばさんまで。
そしてその後ろには村の住人全員が揃って俺に向けて優しい笑みを浮かべている。
「これだけの者たちが全員心は同じくマルス様の成長を願っておるのです。心配なさらずともわしらは弱くわないですし、マルス様が強いのも充分に理解しております。ですが、この先必ずやあなたの前に立ちはだかる強敵が現れます。ぜひその時までに力をお付けくだされ」
みんなの激励の言葉に俺の胸はジーンと染みた。
不遇系主人公の道を歩んでいくとばかり思っていたから、このようなワクテカ展開が訪れるとは思いもしなかった。
これだけ背中を押されちゃったら頑張らないとエルバイスとしての名が廃るってもんだよね。
「わかったよ。やれるだけやってみる」
と俺が言ったら、村のみんなはめちゃくちゃ喜んでくれた。
そんな彼らを眺めていると
「決まりね。それでいきなりだけどあたしたちを指導してくれる先生を紹介するわ」
ほんとに急だな。
「この方よ」
村人たちの中から出てきたのはスラッとした高身長イケメン。さらさらな青髪を腰の位置まで伸ばして、手には季節外れの手袋をはめる。
「やあ、君がマルスくんだね。小生の名はヘルメースと言うんだ。君が入学予定のアースガルズ魔法学院で教員を務めている」
ゆったりとした口調で話すのは、世俗に疎い俺でさえ耳にしたことのある超有名人。
アースガルズ魔法学院で大人気教師として現在進行形で、全世界で活躍する教え子たちを育て、王国最強の剣術兼魔術指南役として名高いあのヘルメースさんだ。
「へ、ヘルメースさん!?あ、あ、あながどうしてこんな辺境貴族なんかのところに!?」
俺のモブのような小物感溢れる言動。
「君は有名人だからね。その才能は他の跡取りたちにも引けを取らない。いや・・・もしかしたら既に超えてると小生はにらんでるんだ」
おお、俺の真価を見抜くとはお目が高い。
強い人って他人の実力を見抜くの得意よね。
「どうして引き受けてくれたんですか?」
と質問する俺。
だってこの人は授業やら指南役としての仕事やらでプライベートの時間も皆無に等しい多忙な身のはず。
そんな彼が俺らの先生になるメリットはなんだ?
「君には強くなってもらわないといけないからね」
「え?」
「気にしないでくれたまえ。マレスさんやエルバイス家の方々には色々とお世話になったからね。小生を剣術指南兼魔術指南役に一番熱心に推薦してくださったのはマレスさんなんだ。だからね、君への協力は小生の個人的な想いだよ」
ヘルメースさんは笑って流した。
誰もが人間族最強と崇める人に感謝される父を誇らしく感じた。
「謝礼は払ってるから気にする必要はなくってよ」
とシャーレットは言う。この子はどうも問題事は金で解決しようとする節がある。
なんて考えていると、ふいにシャーレットが明後日の方向に指を指す。
「そこに隠れてるあなた。あなたも一緒に修行を受けるのよ」
彼女が示した木の影から出てきたのは
「わ、わたしもですか!?」
アテーネであった。
あ、やばい。シャーレットにこいつのこと話してなかった。
「あなたが誰かは聞かないわ。だけど昨晩、あなたはマルスと一緒にあの場に居んでしょ?」
「・・・はい」
「なら答えは決まってるわよね?」
「わたしは・・・」
口ごもったアテーネに俺はこう思った。
どうせこいつは適当に誤魔化して逃げるだろ。
こいつこそ俺らに付き合って辛い修行をするメリットが思い当たらないし、付き合う道理もない。
しかし、そんな俺の予想は大きく裏切られるのであった。
「わたしもやります。マルス様、ぜひお供させてください」
「え?」
アテーネは力強く決意を表した。やる気に満ち溢れているその表情は彼女と出会ってから初めて見る表情であった。
意外だ。てっきり理由をつけて断るものだとばかりに思っていたが、アテーネの目は真剣。どうしたんだこの子は。君はそんな情に厚いキャラじゃないでしょ。
でも、待てよ。いたらいたでこいつの治癒魔法は便利だし、シャーレットやフレイみたいに丁寧に扱う必要もない。俺がこいつに惚れる可能性なんて飛行機が墜落するよりも低いから大丈夫。
それに割かし雑に扱っても分類上は女神なわけだから、どうせなんとかなるはず。
拒否する意味はなし、と。
「うん、じゃ、よろしく頼むよ」
「はい!」
「決まったようだね」
なんか良い感じで場を締めようとするヘルメースさん。
俺もそれで良いと思った。
普段は性格がクソな仲間が人の死をきっかけに改心して修行に打ち込む。素晴らしいよ。
友情・努力・情熱って感じがして王道バトル漫画のようだ。
みんなが目をキラキラとさせ、悲しみを乗り越えようと一致団結。
俺はこの雰囲気が好きだった。
ずっとこの雰囲気が続けばいいと思ってるよ、心の底から。
だけどそんな俺の願いは儚く散った。
「あ、あなたたち二人の関係については後で詳しく聞かせてもらうからね。余すことなく全て話しなさい」
そう言うシャーレットの瞳はまるで獲物を逃さないといわんばかりの鋭さであった。
誤魔化せたと思ったのに。
✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼
上手い具合に話がまとまった俺たち三人の修行計画。これ以上話し合うべき急ぎの要件もないとのことでお開きになった。
ヘルメース先生も用事があるとかでアースガルズ王国へと颯爽と去っていった。
彼が馬に飛び乗る姿はファンタジー世界の王子様のようでめちゃくちゃ絵になった。
もう一泊すると言って聞かないシャーレットを客間へと通す。
これといってやることも思いつかないから俺たちは客間で、俺とアテーネの出会った経緯についてシャーレットへの説明会が急遽開催された。
「なるほど。あなたたちの関係については認めましょう。アテーネにもその気はないみたいだし」
シャーレットが微笑み言うが、その気とはなんだろうか。
「当たり前ですよ。誰が好きでこんな二ま、痛い!」
なにかを言いかけたアテーネが突如、自身のつま先を抑え痛みに悶えた。
「アテーネ、どうしたんだ?急に足を抑えて。それじゃまるで誰がさんが自分に都合が悪いことをしゃべろうとしたアテーネの足を思いっきり踏みつけた、みたいじゃないか!」
俺は彼女を気遣い、中身の少なくなっていたコップにお茶を注いでやる。
「ええ、そうみたいですね。いったいどこの貴族のお坊っちゃんでしょうか?」
フフっと笑みを浮かべて目尻に涙を溜めて俺を見るアテーネ。
その目は笑っていない。彼女の目の中に映る俺の目も、もちろん笑っていない。
「あなたたち、仲良いわね」
ジト目で睨んでくるシャーレットに俺は冷や汗が止まらない。
なんとか話題を変えねば。
あ、そうだ。いいこと思いついたぞ。
「二人ともちょっと耳貸してよ」
俺が手招きすると二人は首を傾げながらも素直に耳を向けてくれた。
「ごにょごにょ」
「それいいわね、のったわ」
「わたしもです」
三人で円を作り中央で各自が差し出した右手を重ねる。
俺は二人の少女と視線をしっかりと合わせて言った。
「俺たちは強くなる。もう二度と後悔しなくて済むように!」
「「「やるぞ!えいえい、おぉぉぉ!」」」
三人の声が揃って響く。
俺たちは強くなることを誓った。
守りたいものが手の届かないところに逝ってしまうなんて悲劇を二度と起こさない。守りたいものを自分と力で守ることができる人間になるために。
そして、話を逸らすことにも成功。
葬式が終わり次第貴族たちはそそくさと帰っていった。
モーガンとはあの一件以来、一度も顔を合わさないままであった。
本音を言えば未だにぶん殴ってやりたいくらいにイライラしているが、ああ見えて相手は名のある貴族の跡取りだ。下手に手を出したら非常に面倒な事態になりかねない。だから結果的にはそれで良かったのかもしれないな。
あいつをボコボコにするのは学院での授業などで、合法的に力を振るえるその時までお預けだ。
まあ、そんなわけで慌ただしい一日は終わった。アースガルズ王ご一行は貴族が帰る中、ギリギリまで残っていたがほっぽり出してきた公務があるとかで、名残惜しそうに帰って行った。
しかし、シャーレットだけはこの村に残った。
王様が帰ろう、と何度も説得したのに彼女は首を縦に振らなかった。
先に折れたのは王様。王国へ早馬を出し、急いで彼女のお泊まりセットを持ってこさせようと配下に指示を飛ばす。
そんな王様にシャーレットは言った。
「あ、お父様。それは必要なくってよ。もう準備してあるわ」
彼女は用意周到にお泊まりセット一週間分、豪華なテントを既に持参していた。
ここに来るってなった時から泊まる気満々で、メイドたちに用意させていたのが判明したのだ。
王様はそんな愛娘に苦笑しつつも、彼女の好きにさせた。
そして用意したテントに泊まったシャーレットが朝一番に俺の家へと訪ねてきた。
「マルス、強くなりましょう!」
開口一番に言い放たれた言葉。
俺が彼女の言葉を理解するのには少し時間を要した。
「強くなるって?」
「そのまんまの意味よ?一緒に修行しましょうよ、それであいつらを見返す力をつけるの!」
小首を傾げてまるで俺の理解力が足らないのが悪い、的な感じで告げる。
俺としてはおかしい反応を示したつもりはない。
「け、けどさ、俺はこれから村とか領地の経営の勉強しなきゃだし・・・」
そうなのだ。父さんがいなくなったらこの村の経営は誰がするのか、領地は誰が運営するのか、これが一番の問題なのである。
勉学はからっきしにダメな俺は、時間を費やして一からこの世界の勉強をし直さなければならなく、修行なんかしている暇はないのだ。
考えるだけで気が滅入るが、俺が意地を見せなければこの村が荒れ果ててしまう。それだけは何としても避けたい。でなきゃ、父さんに顔向けできないからな。
だから俺は当たり前のことをシャーレットに告げた。
でも彼女は腕を組み、あからさまに不機嫌な態度を全面に俺を睨むのだ。
どうしたもんか、と俺が頭を悩ませていたその時。
「マルス様、ご安心くだされ」
シャーレットの背後からひょっこり顔を出すのは、旅行から帰ってきたらしいモン爺。
「モン爺、安心って?いったいどういうこと?」
「なぁに、マルス様が大きくなって学園を卒業されるまではわしらの手で村の経営をするって話じゃよ」
「いや、そんな簡単に」
「俺たちもモン爺に賛成だぜ」
加わった声の主はバーランドさん。
「わたしも手伝うわ。なんでも言ってね」
更に五軒隣に住むマレーおばさんまで。
そしてその後ろには村の住人全員が揃って俺に向けて優しい笑みを浮かべている。
「これだけの者たちが全員心は同じくマルス様の成長を願っておるのです。心配なさらずともわしらは弱くわないですし、マルス様が強いのも充分に理解しております。ですが、この先必ずやあなたの前に立ちはだかる強敵が現れます。ぜひその時までに力をお付けくだされ」
みんなの激励の言葉に俺の胸はジーンと染みた。
不遇系主人公の道を歩んでいくとばかり思っていたから、このようなワクテカ展開が訪れるとは思いもしなかった。
これだけ背中を押されちゃったら頑張らないとエルバイスとしての名が廃るってもんだよね。
「わかったよ。やれるだけやってみる」
と俺が言ったら、村のみんなはめちゃくちゃ喜んでくれた。
そんな彼らを眺めていると
「決まりね。それでいきなりだけどあたしたちを指導してくれる先生を紹介するわ」
ほんとに急だな。
「この方よ」
村人たちの中から出てきたのはスラッとした高身長イケメン。さらさらな青髪を腰の位置まで伸ばして、手には季節外れの手袋をはめる。
「やあ、君がマルスくんだね。小生の名はヘルメースと言うんだ。君が入学予定のアースガルズ魔法学院で教員を務めている」
ゆったりとした口調で話すのは、世俗に疎い俺でさえ耳にしたことのある超有名人。
アースガルズ魔法学院で大人気教師として現在進行形で、全世界で活躍する教え子たちを育て、王国最強の剣術兼魔術指南役として名高いあのヘルメースさんだ。
「へ、ヘルメースさん!?あ、あ、あながどうしてこんな辺境貴族なんかのところに!?」
俺のモブのような小物感溢れる言動。
「君は有名人だからね。その才能は他の跡取りたちにも引けを取らない。いや・・・もしかしたら既に超えてると小生はにらんでるんだ」
おお、俺の真価を見抜くとはお目が高い。
強い人って他人の実力を見抜くの得意よね。
「どうして引き受けてくれたんですか?」
と質問する俺。
だってこの人は授業やら指南役としての仕事やらでプライベートの時間も皆無に等しい多忙な身のはず。
そんな彼が俺らの先生になるメリットはなんだ?
「君には強くなってもらわないといけないからね」
「え?」
「気にしないでくれたまえ。マレスさんやエルバイス家の方々には色々とお世話になったからね。小生を剣術指南兼魔術指南役に一番熱心に推薦してくださったのはマレスさんなんだ。だからね、君への協力は小生の個人的な想いだよ」
ヘルメースさんは笑って流した。
誰もが人間族最強と崇める人に感謝される父を誇らしく感じた。
「謝礼は払ってるから気にする必要はなくってよ」
とシャーレットは言う。この子はどうも問題事は金で解決しようとする節がある。
なんて考えていると、ふいにシャーレットが明後日の方向に指を指す。
「そこに隠れてるあなた。あなたも一緒に修行を受けるのよ」
彼女が示した木の影から出てきたのは
「わ、わたしもですか!?」
アテーネであった。
あ、やばい。シャーレットにこいつのこと話してなかった。
「あなたが誰かは聞かないわ。だけど昨晩、あなたはマルスと一緒にあの場に居んでしょ?」
「・・・はい」
「なら答えは決まってるわよね?」
「わたしは・・・」
口ごもったアテーネに俺はこう思った。
どうせこいつは適当に誤魔化して逃げるだろ。
こいつこそ俺らに付き合って辛い修行をするメリットが思い当たらないし、付き合う道理もない。
しかし、そんな俺の予想は大きく裏切られるのであった。
「わたしもやります。マルス様、ぜひお供させてください」
「え?」
アテーネは力強く決意を表した。やる気に満ち溢れているその表情は彼女と出会ってから初めて見る表情であった。
意外だ。てっきり理由をつけて断るものだとばかりに思っていたが、アテーネの目は真剣。どうしたんだこの子は。君はそんな情に厚いキャラじゃないでしょ。
でも、待てよ。いたらいたでこいつの治癒魔法は便利だし、シャーレットやフレイみたいに丁寧に扱う必要もない。俺がこいつに惚れる可能性なんて飛行機が墜落するよりも低いから大丈夫。
それに割かし雑に扱っても分類上は女神なわけだから、どうせなんとかなるはず。
拒否する意味はなし、と。
「うん、じゃ、よろしく頼むよ」
「はい!」
「決まったようだね」
なんか良い感じで場を締めようとするヘルメースさん。
俺もそれで良いと思った。
普段は性格がクソな仲間が人の死をきっかけに改心して修行に打ち込む。素晴らしいよ。
友情・努力・情熱って感じがして王道バトル漫画のようだ。
みんなが目をキラキラとさせ、悲しみを乗り越えようと一致団結。
俺はこの雰囲気が好きだった。
ずっとこの雰囲気が続けばいいと思ってるよ、心の底から。
だけどそんな俺の願いは儚く散った。
「あ、あなたたち二人の関係については後で詳しく聞かせてもらうからね。余すことなく全て話しなさい」
そう言うシャーレットの瞳はまるで獲物を逃さないといわんばかりの鋭さであった。
誤魔化せたと思ったのに。
✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼
上手い具合に話がまとまった俺たち三人の修行計画。これ以上話し合うべき急ぎの要件もないとのことでお開きになった。
ヘルメース先生も用事があるとかでアースガルズ王国へと颯爽と去っていった。
彼が馬に飛び乗る姿はファンタジー世界の王子様のようでめちゃくちゃ絵になった。
もう一泊すると言って聞かないシャーレットを客間へと通す。
これといってやることも思いつかないから俺たちは客間で、俺とアテーネの出会った経緯についてシャーレットへの説明会が急遽開催された。
「なるほど。あなたたちの関係については認めましょう。アテーネにもその気はないみたいだし」
シャーレットが微笑み言うが、その気とはなんだろうか。
「当たり前ですよ。誰が好きでこんな二ま、痛い!」
なにかを言いかけたアテーネが突如、自身のつま先を抑え痛みに悶えた。
「アテーネ、どうしたんだ?急に足を抑えて。それじゃまるで誰がさんが自分に都合が悪いことをしゃべろうとしたアテーネの足を思いっきり踏みつけた、みたいじゃないか!」
俺は彼女を気遣い、中身の少なくなっていたコップにお茶を注いでやる。
「ええ、そうみたいですね。いったいどこの貴族のお坊っちゃんでしょうか?」
フフっと笑みを浮かべて目尻に涙を溜めて俺を見るアテーネ。
その目は笑っていない。彼女の目の中に映る俺の目も、もちろん笑っていない。
「あなたたち、仲良いわね」
ジト目で睨んでくるシャーレットに俺は冷や汗が止まらない。
なんとか話題を変えねば。
あ、そうだ。いいこと思いついたぞ。
「二人ともちょっと耳貸してよ」
俺が手招きすると二人は首を傾げながらも素直に耳を向けてくれた。
「ごにょごにょ」
「それいいわね、のったわ」
「わたしもです」
三人で円を作り中央で各自が差し出した右手を重ねる。
俺は二人の少女と視線をしっかりと合わせて言った。
「俺たちは強くなる。もう二度と後悔しなくて済むように!」
「「「やるぞ!えいえい、おぉぉぉ!」」」
三人の声が揃って響く。
俺たちは強くなることを誓った。
守りたいものが手の届かないところに逝ってしまうなんて悲劇を二度と起こさない。守りたいものを自分と力で守ることができる人間になるために。
そして、話を逸らすことにも成功。
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