【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか

他仲 波瑠都

文字の大きさ
19 / 72
第一章

強くなりたい、ただそれだけ

しおりを挟む
 翌日。 

 葬式が終わり次第貴族たちはそそくさと帰っていった。

 モーガンとはあの一件以来、一度も顔を合わさないままであった。

 本音を言えば未だにぶん殴ってやりたいくらいにイライラしているが、ああ見えて相手は名のある貴族の跡取りだ。下手に手を出したら非常に面倒な事態になりかねない。だから結果的にはそれで良かったのかもしれないな。

 あいつをボコボコにするのは学院での授業などで、合法的に力を振るえるその時までお預けだ。

 まあ、そんなわけで慌ただしい一日は終わった。アースガルズ王ご一行は貴族が帰る中、ギリギリまで残っていたがほっぽり出してきた公務があるとかで、名残惜しそうに帰って行った。

 しかし、シャーレットだけはこの村に残った。

 王様が帰ろう、と何度も説得したのに彼女は首を縦に振らなかった。

 先に折れたのは王様。王国へ早馬を出し、急いで彼女のお泊まりセットを持ってこさせようと配下に指示を飛ばす。

 そんな王様にシャーレットは言った。

「あ、お父様。それは必要なくってよ。もう準備してあるわ」

 彼女は用意周到にお泊まりセット一週間分、豪華なテントを既に持参していた。

 ここに来るってなった時から泊まる気満々で、メイドたちに用意させていたのが判明したのだ。

 王様はそんな愛娘に苦笑しつつも、彼女の好きにさせた。

 そして用意したテントに泊まったシャーレットが朝一番に俺の家へと訪ねてきた。

「マルス、強くなりましょう!」

 開口一番に言い放たれた言葉。

 俺が彼女の言葉を理解するのには少し時間を要した。

「強くなるって?」

「そのまんまの意味よ?一緒に修行しましょうよ、それであいつらを見返す力をつけるの!」

 小首を傾げてまるで俺の理解力が足らないのが悪い、的な感じで告げる。
 
 俺としてはおかしい反応を示したつもりはない。

「け、けどさ、俺はこれから村とか領地の経営の勉強しなきゃだし・・・」

 そうなのだ。父さんがいなくなったらこの村の経営は誰がするのか、領地は誰が運営するのか、これが一番の問題なのである。

 勉学はからっきしにダメな俺は、時間を費やして一からこの世界の勉強をし直さなければならなく、修行なんかしている暇はないのだ。

 考えるだけで気が滅入るが、俺が意地を見せなければこの村が荒れ果ててしまう。それだけは何としても避けたい。でなきゃ、父さんに顔向けできないからな。

 だから俺は当たり前のことをシャーレットに告げた。

 でも彼女は腕を組み、あからさまに不機嫌な態度を全面に俺を睨むのだ。

 どうしたもんか、と俺が頭を悩ませていたその時。

「マルス様、ご安心くだされ」

 シャーレットの背後からひょっこり顔を出すのは、旅行から帰ってきたらしいモン爺。

「モン爺、安心って?いったいどういうこと?」

「なぁに、マルス様が大きくなって学園を卒業されるまではわしらの手で村の経営をするって話じゃよ」

「いや、そんな簡単に」

「俺たちもモン爺に賛成だぜ」

 加わった声の主はバーランドさん。

「わたしも手伝うわ。なんでも言ってね」

 更に五軒隣に住むマレーおばさんまで。

 そしてその後ろには村の住人全員が揃って俺に向けて優しい笑みを浮かべている。

「これだけの者たちが全員心は同じくマルス様の成長を願っておるのです。心配なさらずともわしらは弱くわないですし、マルス様が強いのも充分に理解しております。ですが、この先必ずやあなたの前に立ちはだかる強敵が現れます。ぜひその時までに力をお付けくだされ」

 みんなの激励の言葉に俺の胸はジーンと染みた。

 不遇系主人公の道を歩んでいくとばかり思っていたから、このようなワクテカ展開が訪れるとは思いもしなかった。

 これだけ背中を押されちゃったら頑張らないとエルバイスとしての名が廃るってもんだよね。

「わかったよ。やれるだけやってみる」

 と俺が言ったら、村のみんなはめちゃくちゃ喜んでくれた。

 そんな彼らを眺めていると

「決まりね。それでいきなりだけどあたしたちを指導してくれる先生を紹介するわ」

 ほんとに急だな。

「この方よ」

 村人たちの中から出てきたのはスラッとした高身長イケメン。さらさらな青髪を腰の位置まで伸ばして、手には季節外れの手袋をはめる。

「やあ、君がマルスくんだね。小生の名はヘルメースと言うんだ。君が入学予定のアースガルズ魔法学院で教員を務めている」

 ゆったりとした口調で話すのは、世俗に疎い俺でさえ耳にしたことのある超有名人。

 アースガルズ魔法学院で大人気教師として現在進行形で、全世界で活躍する教え子たちを育て、王国最強の剣術兼魔術指南役として名高いあのヘルメースさんだ。

「へ、ヘルメースさん!?あ、あ、あながどうしてこんな辺境貴族なんかのところに!?」

 俺のモブのような小物感溢れる言動。

「君は有名人だからね。その才能は他の跡取りたちにも引けを取らない。いや・・・もしかしたら既に超えてると小生はにらんでるんだ」

 おお、俺の真価を見抜くとはお目が高い。

 強い人って他人の実力を見抜くの得意よね。

「どうして引き受けてくれたんですか?」

 と質問する俺。

 だってこの人は授業やら指南役としての仕事やらでプライベートの時間も皆無に等しい多忙な身のはず。
そんな彼が俺らの先生になるメリットはなんだ?
 
「君には強くなってもらわないといけないからね」

「え?」

「気にしないでくれたまえ。マレスさんやエルバイス家の方々には色々とお世話になったからね。小生を剣術指南兼魔術指南役に一番熱心に推薦してくださったのはマレスさんなんだ。だからね、君への協力は小生の個人的な想いだよ」

 ヘルメースさんは笑って流した。

 誰もが人間族最強と崇める人に感謝される父を誇らしく感じた。

「謝礼は払ってるから気にする必要はなくってよ」

 とシャーレットは言う。この子はどうも問題事は金で解決しようとする節がある。

 なんて考えていると、ふいにシャーレットが明後日の方向に指を指す。

「そこに隠れてるあなた。あなたも一緒に修行を受けるのよ」

 彼女が示した木の影から出てきたのは

「わ、わたしもですか!?」

 アテーネであった。

 あ、やばい。シャーレットにこいつのこと話してなかった。

「あなたが誰かは聞かないわ。だけど昨晩、あなたはマルスと一緒にあの場に居んでしょ?」

「・・・はい」

「なら答えは決まってるわよね?」

「わたしは・・・」

 口ごもったアテーネに俺はこう思った。

 どうせこいつは適当に誤魔化して逃げるだろ。

 こいつこそ俺らに付き合って辛い修行をするメリットが思い当たらないし、付き合う道理もない。

 しかし、そんな俺の予想は大きく裏切られるのであった。

「わたしもやります。マルス様、ぜひお供させてください」

「え?」

 アテーネは力強く決意を表した。やる気に満ち溢れているその表情は彼女と出会ってから初めて見る表情であった。

 意外だ。てっきり理由をつけて断るものだとばかりに思っていたが、アテーネの目は真剣。どうしたんだこの子は。君はそんな情に厚いキャラじゃないでしょ。

 でも、待てよ。いたらいたでこいつの治癒魔法は便利だし、シャーレットやフレイみたいに丁寧に扱う必要もない。俺がこいつに惚れる可能性なんて飛行機が墜落するよりも低いから大丈夫。

 それに割かし雑に扱っても分類上は女神なわけだから、どうせなんとかなるはず。

 拒否する意味はなし、と。

「うん、じゃ、よろしく頼むよ」

「はい!」 

「決まったようだね」

 なんか良い感じで場を締めようとするヘルメースさん。

 俺もそれで良いと思った。

 普段は性格がクソな仲間が人の死をきっかけに改心して修行に打ち込む。素晴らしいよ。

 友情・努力・情熱って感じがして王道バトル漫画のようだ。
 
 みんなが目をキラキラとさせ、悲しみを乗り越えようと一致団結。

 俺はこの雰囲気が好きだった。

 ずっとこの雰囲気が続けばいいと思ってるよ、心の底から。 

 だけどそんな俺の願いは儚く散った。 

「あ、あなたたち二人の関係については後で詳しく聞かせてもらうからね。余すことなく全て話しなさい」

 そう言うシャーレットの瞳はまるで獲物を逃さないといわんばかりの鋭さであった。

 誤魔化せたと思ったのに。

✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼

 上手い具合に話がまとまった俺たち三人の修行計画。これ以上話し合うべき急ぎの要件もないとのことでお開きになった。

 ヘルメース先生も用事があるとかでアースガルズ王国へと颯爽と去っていった。

 彼が馬に飛び乗る姿はファンタジー世界の王子様のようでめちゃくちゃ絵になった。

 もう一泊すると言って聞かないシャーレットを客間へと通す。

 これといってやることも思いつかないから俺たちは客間で、俺とアテーネの出会った経緯についてシャーレットへの説明会が急遽開催された。

「なるほど。あなたたちの関係については認めましょう。アテーネにもその気はないみたいだし」

 シャーレットが微笑み言うが、その気とはなんだろうか。

「当たり前ですよ。誰が好きでこんな二ま、痛い!」

 なにかを言いかけたアテーネが突如、自身のつま先を抑え痛みに悶えた。

「アテーネ、どうしたんだ?急に足を抑えて。それじゃまるで誰がさんが自分に都合が悪いことをしゃべろうとしたアテーネの足を思いっきり踏みつけた、みたいじゃないか!」

 俺は彼女を気遣い、中身の少なくなっていたコップにお茶を注いでやる。
 
「ええ、そうみたいですね。いったいどこの貴族のお坊っちゃんでしょうか?」

 フフっと笑みを浮かべて目尻に涙を溜めて俺を見るアテーネ。

 その目は笑っていない。彼女の目の中に映る俺の目も、もちろん笑っていない。

「あなたたち、仲良いわね」

 ジト目で睨んでくるシャーレットに俺は冷や汗が止まらない。

 なんとか話題を変えねば。  

 あ、そうだ。いいこと思いついたぞ。   

「二人ともちょっと耳貸してよ」

 俺が手招きすると二人は首を傾げながらも素直に耳を向けてくれた。

「ごにょごにょ」

「それいいわね、のったわ」

「わたしもです」

 三人で円を作り中央で各自が差し出した右手を重ねる。

 俺は二人の少女と視線をしっかりと合わせて言った。

「俺たちは強くなる。もう二度と後悔しなくて済むように!」

「「「やるぞ!えいえい、おぉぉぉ!」」」

 三人の声が揃って響く。

 俺たちは強くなることを誓った。

 守りたいものが手の届かないところに逝ってしまうなんて悲劇を二度と起こさない。守りたいものを自分と力で守ることができる人間になるために。

 そして、話を逸らすことにも成功。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...