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問題は輪の外側から見る分には面白い
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ロザリアはやはり善人のことを好きになっていたようだ。
出会った状況を考えれば自然な流れではあるのだけれど。
それに国王の気持ちも分からないでもない。
信頼していた相手が裏切っていたのだ、他の重臣ですら本当に信頼できるのか分からない中で、善人のような存在は貴重だ。
実際問題として、国王の周囲が敵だらけだと魔王討伐どころではなくなってしまう。
そうなると私としても困るので、アルベルトのように不穏な動きをしている貴族が他にいないか、セバスに探ってもらっている。
――それにしても。
魔王を討伐しても気持ちが変わっていなければ、か。
ロザリアのあの様子だと、善人がよほど嫌われるようなことをしない限り、気持ちが変わることはないんじゃないかしら。
まあ、私には関係ないことだけど。
と、扉をノックする音が聞こえた。
「入ってもよいか」
「構いませんわ」
私がそう返事をすると、レボルが入ってきた。
弟のカイルも一緒だ。
「……どうした?」
「どうした、と仰いますと?」
「いつもと違って余裕のない顔をしているぞ」
「そうですか?」
「ああ、カイルもそう思うだろう?」
「うん。何だか辛そうだよ、エリカお姉ちゃん大丈夫?」
そう言って、近寄ってきたカイルが心配そうな眼差しを私に向ける。
私が辛そうな顔をしているですって?
そんなことはないはずだ。
私はカイルの頭を優しく撫でる。
「心配してくれてありがとう。でも何もないのよ」
「……本当に?」
「ええ、それともまだ辛そうに見える?」
「ううん、いつものエリカお姉ちゃんだ。よかった」
ほっとしたように小さく安堵のため息を吐いたカイルを見て、私は目を細めた。
「レボル様もお気遣いいただきありがとうございます」
「本当に何ともないのだな?」
「はい」
「ならいい。だが、気になることがあればいつでも言え。話し相手くらいならいつでもなってやる」
まったくこの兄弟ときたら、揃いもそろって人がいいというか。
でも、その気遣いが何だか嬉しかった。
こうして接していると、世界を救うためとはいえ討伐されるほど悪い存在には見えないのよね。
そもそも魔王だから悪、勇者だから善とは必ずしも限らないわけで。
目の前の魔王を見ていると、本当にそう思う。
魔王を討伐する以外の方法を考えないとね。
2人にもう一度礼を言ったついでに、「人間の国と亜人の国が小競り合いをしているのですが……」と、亜人の国の話に触れることにした。
人間と仲が悪いのなら、魔族とは仲がいいかもしれないと思ってのことだったのだけれど、レボルによると「亜人との交流はまったくない」そうだ。
そもそもレボルや魔族が住んでいる魔界の地は、私の転移魔法は例外として、人間の国にある転移門からでしか行くことができない。
つまり、人間の国に隣接している亜人の国と交流するには、人間の国を通る必要がある。
わざわざそんな危険を冒してまで亜人と交流をする必要性はないというのがレボルの意見だ。
亜人と交流があるのであれば、私もなんて思っていたのだけれど、その期待はもろくも崩れ去る結果となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後。
「アルベルト伯爵が牢からいなくなった? それは確かなの?」
「間違いございません」
私の問いにセバスは恭しく頭を下げた。
セバスの報告を疑うわけではないが、場所が場所だけになかなか信じることができない。
捕らえられたアルベルトは、王宮の地下牢に入れられていた。
ロザリアを攫われたこともあり、城の警備はより厳重なものになっていたはずだし、アルベルトの監視の目は特に厳しいはずだ。
そう簡単に逃げられるはずはないのだけれど……。
「誰が手引きしたかは分かっているのかしら?」
アルベルトだけで逃げるのは不可能に近い。
いや、私と戦った時に使った薬があればもしかしたら可能かもしれないが、持っていたのは1つだけだった。
ということは、アルベルトの逃亡を手伝った者がいるはず。
「いえ。それと誰もアルベルト伯爵の姿を見ていないと言っているのです」
あり得ないことだわ。
私のように転移魔法が使えるのなら、誰にも見られることなく逃げ出せるだろう。
でも、人1人を連れて跳ぶには莫大な魔力が必要だ。
そんな存在がアルベルトの側にいるのなら、とっくに人間の国は滅んでいる。
「牢をこじ開けたり、争った形跡もありませんでした。現在は国王の命を受けた近衛騎士団が血眼になって捜索しておりますが、状況はあまり芳しくないようです」
彼らが必死になるのは当然だ。
このままアルベルトに逃げられてしまったら、近衛騎士団の面子は丸潰れでしょうし。
特に今回は王族を誘拐した張本人だ。
アルベルト本人、もしくは手引きした犯人を捕まえるなりしなければ収まりがつかない。
……近衛騎士団のすべてが国王に忠誠を誓っているなら、だけれど。
そちらも考慮しつつ、私はもう一つの可能性を探ることにした。
「セバス。勇者の動きは把握している?」
「もちろんでございます。どなたについてお知りになりたいのでしょうか?」
「そうね……じゃあ、定森駿が何をしていたか教えてちょうだい」
私がその名を口にすると、セバスは「お嬢様には敵いませんね」といって頭を垂れた。
出会った状況を考えれば自然な流れではあるのだけれど。
それに国王の気持ちも分からないでもない。
信頼していた相手が裏切っていたのだ、他の重臣ですら本当に信頼できるのか分からない中で、善人のような存在は貴重だ。
実際問題として、国王の周囲が敵だらけだと魔王討伐どころではなくなってしまう。
そうなると私としても困るので、アルベルトのように不穏な動きをしている貴族が他にいないか、セバスに探ってもらっている。
――それにしても。
魔王を討伐しても気持ちが変わっていなければ、か。
ロザリアのあの様子だと、善人がよほど嫌われるようなことをしない限り、気持ちが変わることはないんじゃないかしら。
まあ、私には関係ないことだけど。
と、扉をノックする音が聞こえた。
「入ってもよいか」
「構いませんわ」
私がそう返事をすると、レボルが入ってきた。
弟のカイルも一緒だ。
「……どうした?」
「どうした、と仰いますと?」
「いつもと違って余裕のない顔をしているぞ」
「そうですか?」
「ああ、カイルもそう思うだろう?」
「うん。何だか辛そうだよ、エリカお姉ちゃん大丈夫?」
そう言って、近寄ってきたカイルが心配そうな眼差しを私に向ける。
私が辛そうな顔をしているですって?
そんなことはないはずだ。
私はカイルの頭を優しく撫でる。
「心配してくれてありがとう。でも何もないのよ」
「……本当に?」
「ええ、それともまだ辛そうに見える?」
「ううん、いつものエリカお姉ちゃんだ。よかった」
ほっとしたように小さく安堵のため息を吐いたカイルを見て、私は目を細めた。
「レボル様もお気遣いいただきありがとうございます」
「本当に何ともないのだな?」
「はい」
「ならいい。だが、気になることがあればいつでも言え。話し相手くらいならいつでもなってやる」
まったくこの兄弟ときたら、揃いもそろって人がいいというか。
でも、その気遣いが何だか嬉しかった。
こうして接していると、世界を救うためとはいえ討伐されるほど悪い存在には見えないのよね。
そもそも魔王だから悪、勇者だから善とは必ずしも限らないわけで。
目の前の魔王を見ていると、本当にそう思う。
魔王を討伐する以外の方法を考えないとね。
2人にもう一度礼を言ったついでに、「人間の国と亜人の国が小競り合いをしているのですが……」と、亜人の国の話に触れることにした。
人間と仲が悪いのなら、魔族とは仲がいいかもしれないと思ってのことだったのだけれど、レボルによると「亜人との交流はまったくない」そうだ。
そもそもレボルや魔族が住んでいる魔界の地は、私の転移魔法は例外として、人間の国にある転移門からでしか行くことができない。
つまり、人間の国に隣接している亜人の国と交流するには、人間の国を通る必要がある。
わざわざそんな危険を冒してまで亜人と交流をする必要性はないというのがレボルの意見だ。
亜人と交流があるのであれば、私もなんて思っていたのだけれど、その期待はもろくも崩れ去る結果となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後。
「アルベルト伯爵が牢からいなくなった? それは確かなの?」
「間違いございません」
私の問いにセバスは恭しく頭を下げた。
セバスの報告を疑うわけではないが、場所が場所だけになかなか信じることができない。
捕らえられたアルベルトは、王宮の地下牢に入れられていた。
ロザリアを攫われたこともあり、城の警備はより厳重なものになっていたはずだし、アルベルトの監視の目は特に厳しいはずだ。
そう簡単に逃げられるはずはないのだけれど……。
「誰が手引きしたかは分かっているのかしら?」
アルベルトだけで逃げるのは不可能に近い。
いや、私と戦った時に使った薬があればもしかしたら可能かもしれないが、持っていたのは1つだけだった。
ということは、アルベルトの逃亡を手伝った者がいるはず。
「いえ。それと誰もアルベルト伯爵の姿を見ていないと言っているのです」
あり得ないことだわ。
私のように転移魔法が使えるのなら、誰にも見られることなく逃げ出せるだろう。
でも、人1人を連れて跳ぶには莫大な魔力が必要だ。
そんな存在がアルベルトの側にいるのなら、とっくに人間の国は滅んでいる。
「牢をこじ開けたり、争った形跡もありませんでした。現在は国王の命を受けた近衛騎士団が血眼になって捜索しておりますが、状況はあまり芳しくないようです」
彼らが必死になるのは当然だ。
このままアルベルトに逃げられてしまったら、近衛騎士団の面子は丸潰れでしょうし。
特に今回は王族を誘拐した張本人だ。
アルベルト本人、もしくは手引きした犯人を捕まえるなりしなければ収まりがつかない。
……近衛騎士団のすべてが国王に忠誠を誓っているなら、だけれど。
そちらも考慮しつつ、私はもう一つの可能性を探ることにした。
「セバス。勇者の動きは把握している?」
「もちろんでございます。どなたについてお知りになりたいのでしょうか?」
「そうね……じゃあ、定森駿が何をしていたか教えてちょうだい」
私がその名を口にすると、セバスは「お嬢様には敵いませんね」といって頭を垂れた。
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