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勇者がみんな真面目とは限らない
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定森駿。
女神フローヴァから異世界ベルガストに一番最初に召喚された勇者だ。
駿のことをセバスに聞いたのは理由が2つある。
1つは魅了を使えるということだ。
女性限定の能力ではあるが、どんな命令でも聞いてしまうという点で非常に厄介な能力だ。
そしてもう1つは、魅了を己の欲望のままに使っているという点である。
女性を自分の意のままに操れる能力ですよ、と言われても普通なら戸惑うし、実際に使うかどうか迷ったりするものだ。
興味本位で使ったとしても、心の中で多少なりとも後ろめたさを感じるはずなのだ。
だけど、大鏡を通して見た駿からは、そのような感情は一切感じられなかった。
それどころか優越感に浸っているようにさえ見えたのだ。
つまり、魅了を使うことに何ら疑問を持っていないということ。
表面上は人畜無害な顔をしておきながら平然と魅了をかけて、己の欲望を満たす。
要は私が一番嫌いな人種というわけだ。
そのような人間が、一つだけ願いが叶うからといって素直に魔王討伐に勤しむとは思えない。
だって、普通の人間をはるかに上回る力に魅了を保持しているのだ。
しかも、女神は封印に注力しているせいで勇者に干渉することも難しい状況だ。
好き勝手に動くのは目に見えている。
「定森駿ですが、アルベルト伯爵が牢から姿を消す前日に王宮で目撃されております」
「へえ。何で王宮にいたのかしら?」
「国王に謁見して現在の状況を報告したようですね。表向きは、ですが」
「表向きねぇ」
セバスがこんな言い方をするということは、国王の謁見以外の用事があったということだ。
でなければあまりにもタイミングが良すぎる。
「謁見後に、ある人物と接触していたのを確認しております」
「それは誰なの?」
「近衛騎士団の副団長、ヒルデガルド様です。ちなみに女性です」
「あら……」
これは怪しい。
「そして、ヒルデガルド様の配下は全て女性で構成されております」
「もしかしてだけど、地下牢の監視をしていたのは……」
「お嬢様が考えていらっしゃる通りでございます」
セバスが胸に手を当てて頷く。
女性騎士が監視をしていたのなら……。
――思っていた以上に酷い状況ね。
近衛騎士団は団長は男性で、副団長はセバスが言っていた通り女性。
団長の配下は男性で構成されているそうだから大丈夫だとして、問題は副団長とその配下の方だ。
こちらは駿の操り人形と化している可能性が非常に高い。
彼女たちが口裏を合わせれば、簡単にアルベルトは逃げることができるだろう。
一言「見なかった」と言えばいいだけなのだから。
「そして、翌日アルベルトは牢から姿を消した、か。ねえ、セバス。近衛騎士団の女性の割合は?」
「約5割といったところでございます」
「困ったものね」
私は頬に手を当ててため息を吐く。
そう、本当に困ってしまう。
逃げたアルベルトはこの際どうでもいい。
彼なら既にマーキング済みなので、私の転移魔法でいつでも追いかけることが可能だ。
困ったのは、王宮を守護するはずの近衛騎士団のうち、半数が駿の傀儡となっていることだ。
これは由々しき事態である。
駿が国を乗っ取って好き放題しようと思えば可能な状況ですものね。
彼女たちに命令すればいいだけなのだから。
とはいえ、仮に駿がそんなことを考えていたとしても、善人がいるから実行には移せないでしょうけど。
今の善人のレベルは駿よりかなり上だし、善人の性格を考えたら、必ず駿の行動を阻止しようとするだろう。
近衛騎士団の半数を手中に収めているとはいえ、レベル差のある善人を相手にしようだなんて駿も思わないはず。
「駿は今どこに?」
「仲間と共に東へ向かったようです」
「東……確か亜人の国があるのも東だったわね」
アルベルトは亜人の国と繋がっていた。
そして、駿はアルベルトの逃亡を間接的に手助けしている。
ということはだ。
駿も亜人の国と繋がっている可能性は十分考えられる。
その場合、さらに厄介なことになるのは明白だ。
だってそうだろう。
アルベルトが使った薬。
あれを駿も使ったら……。
駿だけではない。
駿の魅了にかかっている女性が薬を使ったら……。
考えただけで面倒だわ。
とりあえずアルベルトを追いかけましょうか。
逃げるのであれば亜人の国を目指すでしょうし。
駿と合流しているかもしれない。
「セバス。私はアルベルトを追うわ。貴方は――」
「分かっております。王宮内で不穏な動きがないか目を光らせておきます」
「ふふ、ありがとう」
私は笑みを浮かべる。
駿がアルベルトの逃亡以外にヒルデガルドに何か指示を出している可能性がないとも限らない。
セバスに任せておけば安心だ。
「じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
私はセバスに見送られながら、転移魔法を使用した。
女神フローヴァから異世界ベルガストに一番最初に召喚された勇者だ。
駿のことをセバスに聞いたのは理由が2つある。
1つは魅了を使えるということだ。
女性限定の能力ではあるが、どんな命令でも聞いてしまうという点で非常に厄介な能力だ。
そしてもう1つは、魅了を己の欲望のままに使っているという点である。
女性を自分の意のままに操れる能力ですよ、と言われても普通なら戸惑うし、実際に使うかどうか迷ったりするものだ。
興味本位で使ったとしても、心の中で多少なりとも後ろめたさを感じるはずなのだ。
だけど、大鏡を通して見た駿からは、そのような感情は一切感じられなかった。
それどころか優越感に浸っているようにさえ見えたのだ。
つまり、魅了を使うことに何ら疑問を持っていないということ。
表面上は人畜無害な顔をしておきながら平然と魅了をかけて、己の欲望を満たす。
要は私が一番嫌いな人種というわけだ。
そのような人間が、一つだけ願いが叶うからといって素直に魔王討伐に勤しむとは思えない。
だって、普通の人間をはるかに上回る力に魅了を保持しているのだ。
しかも、女神は封印に注力しているせいで勇者に干渉することも難しい状況だ。
好き勝手に動くのは目に見えている。
「定森駿ですが、アルベルト伯爵が牢から姿を消す前日に王宮で目撃されております」
「へえ。何で王宮にいたのかしら?」
「国王に謁見して現在の状況を報告したようですね。表向きは、ですが」
「表向きねぇ」
セバスがこんな言い方をするということは、国王の謁見以外の用事があったということだ。
でなければあまりにもタイミングが良すぎる。
「謁見後に、ある人物と接触していたのを確認しております」
「それは誰なの?」
「近衛騎士団の副団長、ヒルデガルド様です。ちなみに女性です」
「あら……」
これは怪しい。
「そして、ヒルデガルド様の配下は全て女性で構成されております」
「もしかしてだけど、地下牢の監視をしていたのは……」
「お嬢様が考えていらっしゃる通りでございます」
セバスが胸に手を当てて頷く。
女性騎士が監視をしていたのなら……。
――思っていた以上に酷い状況ね。
近衛騎士団は団長は男性で、副団長はセバスが言っていた通り女性。
団長の配下は男性で構成されているそうだから大丈夫だとして、問題は副団長とその配下の方だ。
こちらは駿の操り人形と化している可能性が非常に高い。
彼女たちが口裏を合わせれば、簡単にアルベルトは逃げることができるだろう。
一言「見なかった」と言えばいいだけなのだから。
「そして、翌日アルベルトは牢から姿を消した、か。ねえ、セバス。近衛騎士団の女性の割合は?」
「約5割といったところでございます」
「困ったものね」
私は頬に手を当ててため息を吐く。
そう、本当に困ってしまう。
逃げたアルベルトはこの際どうでもいい。
彼なら既にマーキング済みなので、私の転移魔法でいつでも追いかけることが可能だ。
困ったのは、王宮を守護するはずの近衛騎士団のうち、半数が駿の傀儡となっていることだ。
これは由々しき事態である。
駿が国を乗っ取って好き放題しようと思えば可能な状況ですものね。
彼女たちに命令すればいいだけなのだから。
とはいえ、仮に駿がそんなことを考えていたとしても、善人がいるから実行には移せないでしょうけど。
今の善人のレベルは駿よりかなり上だし、善人の性格を考えたら、必ず駿の行動を阻止しようとするだろう。
近衛騎士団の半数を手中に収めているとはいえ、レベル差のある善人を相手にしようだなんて駿も思わないはず。
「駿は今どこに?」
「仲間と共に東へ向かったようです」
「東……確か亜人の国があるのも東だったわね」
アルベルトは亜人の国と繋がっていた。
そして、駿はアルベルトの逃亡を間接的に手助けしている。
ということはだ。
駿も亜人の国と繋がっている可能性は十分考えられる。
その場合、さらに厄介なことになるのは明白だ。
だってそうだろう。
アルベルトが使った薬。
あれを駿も使ったら……。
駿だけではない。
駿の魅了にかかっている女性が薬を使ったら……。
考えただけで面倒だわ。
とりあえずアルベルトを追いかけましょうか。
逃げるのであれば亜人の国を目指すでしょうし。
駿と合流しているかもしれない。
「セバス。私はアルベルトを追うわ。貴方は――」
「分かっております。王宮内で不穏な動きがないか目を光らせておきます」
「ふふ、ありがとう」
私は笑みを浮かべる。
駿がアルベルトの逃亡以外にヒルデガルドに何か指示を出している可能性がないとも限らない。
セバスに任せておけば安心だ。
「じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
私はセバスに見送られながら、転移魔法を使用した。
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