テディベア

倉地秋穂

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歪み・1

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桜の花が咲く頃に妹は生まれた。

可愛い。可愛い。そう言う大人に混じって、可愛がるふりをした。
実際には、小さくてもやもやした塊が憎くて仕方なかった。

妹は要領が悪くでわがままだった。

それなのに、父と母の愛情は注がれた。私はあんなに努力したのに。我慢したのに。頑張ったのに。

賢く物わかりの良い私は後回しで、馬鹿で要領の悪い妹は優先される。

壊れた世界は元に戻らない。

そう思い知らされたのは、私のテディベアを妹が汚して壊した時だった。


「もうお姉ちゃんなんだから」


汚れて右腕の取れたテディベアを抱きながら、母に泣きながら訴えたのに突き放された。

今までの努力は何だったんだろう。

生まれてから毎年、私の誕生日に両親がプレゼントしてくれていたテディベア。何よりも大切にしていたのを知っていたはずなのに。

どうして。

何で妹は許されるの?

私よりも、妹が大切なの?


世界の中心は私ではなくて妹になっていた。


私は気づいていた。
でも、見ないふりをしていた。もうダメだ。わかってしまった。悲しくて、悲しくてひとりで泣いた。涙が枯れるくらい泣いた後に、決意した。

そんな家族ならもういらない。

私を認めて一番に扱ってくれる世界が欲しい。愛して欲しい。
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