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婚約破棄

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「お前との婚約を破棄する」

 先程まで流れていたダンスの音楽が徐々に小さくなっていく。名誉ある王立学園の卒業式が終わり、肩の力が抜け、ダンスや食事を楽しんでいた。これから始まる新生活に向け、不安を吐露している者や励まし合っている者たち。彼らを見送る在校生や卒業生、そして親たちの姿がそこにあった。

 高位貴族の令嬢たちの婚約者たちが、敵対するかのように婚約者に向かい合っている。大勢の視線を一斉に向けられ、男性たちに囲まれている中心人物のエリザ・ベイリー公爵令嬢は不安そうな顔をして顔を伏せている。

 5人の貴族令息が5人の令嬢に婚約破棄を言い渡す姿を眼に映し、会場にいる人たちは不躾な視線と不愉快な表情を浮かべた。彼らは何が嫌だったのか、令嬢たちに言い放つ。
 令嬢たちの親は公衆の面前で、婚約破棄を言い渡される恥辱を味わった。

「何故それを今おっしゃるのでしょうか」

「いつもお前が逃げてばかりだからだ」

「当主に直接伝えて頂ければ承諾すると答えましたが」

 冷たく言い放つ令嬢だが、何処か沈んだ空気を纏っていた。彼女たちが婚約者に尽くしてきた事を、周囲の人たちは知っている。貴族同士の結婚は、お互いの利益のために勝手に決められたものが多い。それでも家の役に立とうと彼女たちは頑張ってきた。

 例え婚約者が違う少女を寵愛していても。

 令嬢たちの父親が令嬢に近づくと肩を抱いた。そこにあるのは当主としての顔ではなく、父として娘を守る覚悟が決まっている顔つきをしていた。

「婚約破棄の件ですが承知しました。後日、そちらにお伺いします」

「話が早くて助かる」

 自分よりも劣っていると思っているのだろう。令息は嫌味を含んだ言い方をすると、エリザ様の側に近づいた。高位貴族の令嬢の親たちは、婚約破棄を認めると会場から去っていった。その瞳がどれだけ冷めきっていたのか、彼らは知らないだろう。

 華やかな音楽が始まるとエリザ様のファーストダンスを誰が躍るのか、男たちは争っている。

 明日からは学生の身分がなくなる彼らは、自分の未来が明るいものだと信じている。
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