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第一章 醜いあひるの子
16 シルビアお嬢様とジュリア
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ルーシーが縫い直してくれた茶色のドレスを着て、ジュリアは鏡の中の自分を見つめた。
「メイド服より素敵な服だけど、やはり私は不器量ね」
一緒に勉強するシルビアお嬢様が天使のような美少女なだけに、ジュリアも少しは身綺麗にしたいと、髪の毛をとかしてきっちりとまとめた。ルーシーがこの場にいたら、メイドじゃないのだから、茶色のスッキリしたドレスに、きっちりとした髪型をしたら、若さが台無しになると忠告しただろう。
ガリガリの身体つきが、スッキリしたドレスと、きっちりと纏めた髪型で強調されてしまっている。
「どう見ても美人じゃないわね! シルビアお嬢様までは望まないけど、お姉ちゃん達ぐらい美人だったら良かったのに……神様は不公平だわ」
ふう~ッと溜め息をついて、鏡に背を向けると部屋を出て行く。
『不器量なのは子どもの頃から知っているわ。せめて、勉強と修行はしっかりしよう』
女の子なのだから、可愛い容姿に産まれたかったとは思うが、こればかりは仕方がないと諦める。ジュリアは諦めるのは慣れている。
シルビアお嬢様の勉強室で当分は食事をすることになっているが、ジュリアは前の先輩のメイドに給仕して貰うのにどぎまぎする。ルーシーが簡単な説明をメイド達にしてくれたみたいで、精霊使いとかになる為に修行するのだと理解できないままに、納得しているようだ。
ジュリアはいつも通りにナイフとフォークを持って、美味しそうなハムを切り分ける。
「シルビア様、そんなに大きく切ってはいけませんよ。日頃から、レディとしてのマナーを身につけなくては」
『えっ! あれで大きいの? じゃあ、私のはマナー違反なの?』
シルビアが切り分けたハムは、自分の半分の大きさで、ジュリアはハッと真っ赤になった。
『ジュリアは賢い娘だわ』
ミリアム先生は、小さく切り直して食べるジュリアを満足そうに眺める。一言、シルビアに注意しただけで、ジュリアは自分のテーブルマナーを少し改善した。
午前中はミリアム先生とシルビアお嬢様との勉強だったが、ジュリアはここでも自信を喪失した。ゲチスバーグ村の学校では優等生だったのに、年下のシルビアの方が勉強が進んでいたからだ。
『勉強ですら、こんなんじゃあ、精霊使いの修行は何年掛かるかわからないわ』
ミリアム先生は田舎の牧師の娘だったので、ジュリアが通っていた学校のレベルも承知していた。
「少しずつ、勉強していきましょう」
そうミリアムは言葉を掛けて、昼食を持ってくるようにと、紐を引っ張った。シルビアもミリアム先生と二人きりで勉強するより、ジュリアが一緒の方が楽しいので、悄気ているのを励ます。
「昼からは、天気の良い日は外へ行くのよ」
うきうき楽しそうなシルビアだが、ミリアムは未だ生活環境の激変に戸惑っているジュリアを、いきなり外に連れ出すつもりはなかった。
「天気が良いから、庭で写生でもしましょう」
シルビアは勉強部屋で籠っているよりは、外で絵を描いていた方がましだと、公園への散歩は諦める。
ミリアム先生は厳しい家庭教師なので、シルビアは少し勉強に疲れていたのだ。貴族の令嬢として恥ずかしくない教養を身につけさせようと、真面目なミリアムは頑張っていたが、10歳の女の子には少し窮屈だった。
食後は裏庭の薔薇園と東屋を写生する。
しかし、天気の良い薔薇園などジュリアにとっては、精霊を見て下さいというようなもので、手を動かすどころか、ぼんやりと宙を眺めている。
「ジュリアさん、絵を描く時間ですよ」ミリアム先生に注意されて、我に返る。
シルビアはミリアム先生の注意がジュリアに向けられているのを幸いに、憧れのルーファス王子と東屋でお茶をする空想に耽る。兄上がルーファス王子の学友なので、年に数回だが会う機会がある。16歳のルーファス王子には、10歳のシルビアは友人の妹にすぎず、お子様扱いなのが不満だ。
『社交界にデビューしたら、ルーファス王子様とダンスをするのよ!』
ミリアム先生がシルビアの妄想の内容を知ったら、それならもっと真面目に勉強しなくてはいけません! と、叱りつけただろう。ハンサムで性格も明るいルーファス王子には、優れた容姿と淑やかな身のこなしの妃候補の令嬢が群がっているのだ。
どうにか、ぼんやりしがちなジュリアと、乙女の夢を妄想していたシルビアが1枚の絵を描いた頃、伯爵夫人が様子を見に庭に出てきた。
「お母様?」シルビアはわざわざ写生を見学に来られたのかと不思議に思った。
ジュリアは美しい伯爵夫人に驚いて、折り畳み椅子から急いで立ち上がり、そのせいでバタンと椅子を倒してしまった。「申し訳ありません」慌てているジュリアを、優しく制して、東屋でお茶をしましょうと誘う。
日頃、社交上の付き合いや、王宮で王妃様の側近として、多忙な伯爵夫人が、わざわざお茶を愛娘とするのを目的で来たとはミリアムは思わなかった。ジュリアを娘と一緒に勉強させても良いかどうか、忙しくて子育ては乳母や家庭教師に任せることの多い伯爵夫人なりに心配して見に来たのだろうと察した。
ジュリアは美しい伯爵夫人と、その美貌を受け継いだシルビアお嬢様とが優雅にお茶を飲んでいる姿を見て、羨ましさがこみ上げる。そして、そっと溜息をついた。
『こんなのって神様も本当に不公平だわ! プラチナブロンドの髪に水色の瞳! きっと、伯爵夫人やシルビアお嬢様は、神様が普通の人間の数倍手間をかけて作り上げたのね』
ミリアムは自分もベーカーヒル伯爵家に雇われた時、あまりにも美しい親子に神様の不平等を嘆いた記憶があるので、ジュリアの溜め息の意味を察した。
「メイド服より素敵な服だけど、やはり私は不器量ね」
一緒に勉強するシルビアお嬢様が天使のような美少女なだけに、ジュリアも少しは身綺麗にしたいと、髪の毛をとかしてきっちりとまとめた。ルーシーがこの場にいたら、メイドじゃないのだから、茶色のスッキリしたドレスに、きっちりとした髪型をしたら、若さが台無しになると忠告しただろう。
ガリガリの身体つきが、スッキリしたドレスと、きっちりと纏めた髪型で強調されてしまっている。
「どう見ても美人じゃないわね! シルビアお嬢様までは望まないけど、お姉ちゃん達ぐらい美人だったら良かったのに……神様は不公平だわ」
ふう~ッと溜め息をついて、鏡に背を向けると部屋を出て行く。
『不器量なのは子どもの頃から知っているわ。せめて、勉強と修行はしっかりしよう』
女の子なのだから、可愛い容姿に産まれたかったとは思うが、こればかりは仕方がないと諦める。ジュリアは諦めるのは慣れている。
シルビアお嬢様の勉強室で当分は食事をすることになっているが、ジュリアは前の先輩のメイドに給仕して貰うのにどぎまぎする。ルーシーが簡単な説明をメイド達にしてくれたみたいで、精霊使いとかになる為に修行するのだと理解できないままに、納得しているようだ。
ジュリアはいつも通りにナイフとフォークを持って、美味しそうなハムを切り分ける。
「シルビア様、そんなに大きく切ってはいけませんよ。日頃から、レディとしてのマナーを身につけなくては」
『えっ! あれで大きいの? じゃあ、私のはマナー違反なの?』
シルビアが切り分けたハムは、自分の半分の大きさで、ジュリアはハッと真っ赤になった。
『ジュリアは賢い娘だわ』
ミリアム先生は、小さく切り直して食べるジュリアを満足そうに眺める。一言、シルビアに注意しただけで、ジュリアは自分のテーブルマナーを少し改善した。
午前中はミリアム先生とシルビアお嬢様との勉強だったが、ジュリアはここでも自信を喪失した。ゲチスバーグ村の学校では優等生だったのに、年下のシルビアの方が勉強が進んでいたからだ。
『勉強ですら、こんなんじゃあ、精霊使いの修行は何年掛かるかわからないわ』
ミリアム先生は田舎の牧師の娘だったので、ジュリアが通っていた学校のレベルも承知していた。
「少しずつ、勉強していきましょう」
そうミリアムは言葉を掛けて、昼食を持ってくるようにと、紐を引っ張った。シルビアもミリアム先生と二人きりで勉強するより、ジュリアが一緒の方が楽しいので、悄気ているのを励ます。
「昼からは、天気の良い日は外へ行くのよ」
うきうき楽しそうなシルビアだが、ミリアムは未だ生活環境の激変に戸惑っているジュリアを、いきなり外に連れ出すつもりはなかった。
「天気が良いから、庭で写生でもしましょう」
シルビアは勉強部屋で籠っているよりは、外で絵を描いていた方がましだと、公園への散歩は諦める。
ミリアム先生は厳しい家庭教師なので、シルビアは少し勉強に疲れていたのだ。貴族の令嬢として恥ずかしくない教養を身につけさせようと、真面目なミリアムは頑張っていたが、10歳の女の子には少し窮屈だった。
食後は裏庭の薔薇園と東屋を写生する。
しかし、天気の良い薔薇園などジュリアにとっては、精霊を見て下さいというようなもので、手を動かすどころか、ぼんやりと宙を眺めている。
「ジュリアさん、絵を描く時間ですよ」ミリアム先生に注意されて、我に返る。
シルビアはミリアム先生の注意がジュリアに向けられているのを幸いに、憧れのルーファス王子と東屋でお茶をする空想に耽る。兄上がルーファス王子の学友なので、年に数回だが会う機会がある。16歳のルーファス王子には、10歳のシルビアは友人の妹にすぎず、お子様扱いなのが不満だ。
『社交界にデビューしたら、ルーファス王子様とダンスをするのよ!』
ミリアム先生がシルビアの妄想の内容を知ったら、それならもっと真面目に勉強しなくてはいけません! と、叱りつけただろう。ハンサムで性格も明るいルーファス王子には、優れた容姿と淑やかな身のこなしの妃候補の令嬢が群がっているのだ。
どうにか、ぼんやりしがちなジュリアと、乙女の夢を妄想していたシルビアが1枚の絵を描いた頃、伯爵夫人が様子を見に庭に出てきた。
「お母様?」シルビアはわざわざ写生を見学に来られたのかと不思議に思った。
ジュリアは美しい伯爵夫人に驚いて、折り畳み椅子から急いで立ち上がり、そのせいでバタンと椅子を倒してしまった。「申し訳ありません」慌てているジュリアを、優しく制して、東屋でお茶をしましょうと誘う。
日頃、社交上の付き合いや、王宮で王妃様の側近として、多忙な伯爵夫人が、わざわざお茶を愛娘とするのを目的で来たとはミリアムは思わなかった。ジュリアを娘と一緒に勉強させても良いかどうか、忙しくて子育ては乳母や家庭教師に任せることの多い伯爵夫人なりに心配して見に来たのだろうと察した。
ジュリアは美しい伯爵夫人と、その美貌を受け継いだシルビアお嬢様とが優雅にお茶を飲んでいる姿を見て、羨ましさがこみ上げる。そして、そっと溜息をついた。
『こんなのって神様も本当に不公平だわ! プラチナブロンドの髪に水色の瞳! きっと、伯爵夫人やシルビアお嬢様は、神様が普通の人間の数倍手間をかけて作り上げたのね』
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