27 / 273
第三章 リューデンハイム生
8 夏休みはあるのかな?
しおりを挟む
皇太孫殿下の失踪という非常事態に、生徒には行き先に心当たりがないか教師からの聞き取り調査がされた。だから、リューデンハイムの全員がユーリとグレゴリウスが一緒に出かけたと知っていた。
二人は罰の竜舎掃除や、罰の給仕当番は仕方がないと諦めたが、二人の無責任な行動に腹を立てた教師や生徒が多かったので、針のムシロに座らされているような気がした。
特に、見習い竜騎士の試験を受ける予科生の5年は、受験のプレッシャーから気分がささくれ立ているいて、聞くにたえない噂を流した。
見習い竜騎士のユージーンも、二人の無責任な行動には腹を立てた。が、ふと食堂で耳にした「皇太孫殿下とユーリが駆け落ちした」という噂には激怒して、予科生に鉄拳制裁を加え、生真面目なユージーンが初の罰を受けるはめになった。
ユーリは校長先生から説教されて、部屋から出てくるユージーンと、間が悪く鉢合わせする。毎日義務づけられている反省文を提出しにきて、校長室のドアをノックしかけてた時に中からユージーンが礼儀正しく、でも足音に怒りをこめて出てきたのだ。
「ユージーン、ありがとう。嫌な噂を話してた予科生を懲らしめてくれたって皆言ってるわ。校長先生に怒られたの? ごめんなさい」
「ユーリ、君に感謝される覚えもなければ、謝られる覚えもない。私は見習い竜騎士として、後輩指導したまでにすぎない」
ユーリは靴音を響かせて遠ざかっていく、相変わらず頑固なユージーンが、お祖父様に似ているような気がした。
「貴方のお兄さんのユージーンって悪い人じゃないけど、なんか苦手なの。他人なのに妙に私のお祖父様に似ているからかもしれない。威圧感のある目つきも似てるのよね」
同級生の何人かは問題をおこしたユーリと距離を置いたが、フランツは「馬鹿な事したね」と苦笑して、普段通りに付き合ってくれている。今日、校長室の前でユージーンと出会った件を話していたユーリはフランツが唖然としてるのに気づいた。
「え~、知らなかったの? 僕と君はマウリッツ公爵家の系図では従兄だけど、フォン・アリスト家の系図ではハトコだよ。僕達のお祖母様は、君のお祖父様の妹だからね。アリスト卿は僕達の大祖父様になるんだ。ユージーンはアリスト卿を崇拝しているから、似てると聞いたら喜ぶよ」
ユーリはフランツを初めて見たとき、パパに似ていると感じたのを思い出した。フランツの茶色の瞳はいつも笑いを含んでいて、人当たりの良さもパパに似ていると思う。
「あのう……でも、父と母が駆け落ちしたのでマウリッツ公爵は凄くお怒りだったと聞いたけど? それなのに、お祖父様の姪を息子の嫁に貰ったの?」
未だに老公爵の怒りはおさまらないので、ユーリは母方の親族はリューデンハイムで会ったフランツとユージーンしか会ってなかった。
「まぁ、お祖父様としてはアリスト卿の姪を貰ったとは認めたくないだろうね。サザーランド公爵のお嬢様をお嫁に貰ったと思ってるよ。サザーランド公爵家はメルローズ王女様もお興しいれされているし、名門だからね」
ユーリは、フォン・アリストの屋敷の自分の部屋の飾り付けをしてくれた、大祖母様のシャルロット・フォン・サザーランドを思い出して首をすくめた。
「では、貴方達のお母様はあのシャルロット様の娘なのね。なるほど! それでユージーンのシャツはいつもビラビラ……いえ、高そうなレースが付いているのね。それにしては、フランツはあっさりしたシャツを着てるわね」
ユーリの言葉にフランツは大爆笑した。サザーランド公爵家もマウリッツ公爵家も、祖母と母の少女趣味には閉口していたのだ。
「母が嫁いで一番にしたのは、気難しい老公爵をどうやって説得したのか、屋敷中のカーテンを柔らかな薔薇色の物に変える事だったそうなんだ。その時に、誰か止めとけば良かったんだよね。その後、少しずつ母の趣味で屋敷は変革を続け、今では御伽の国のお姫様が住まうようなロマンチックな屋敷になってて、居心地の悪いことったら。僕はハッキリ母にビラビラしたシャツは嫌いだと言ったけど、ユージーンは紳士だから言えないんだよね」
フランツは祖母と母の少女趣味のせいで、皆がどれほど迷惑しているか思い出して溜め息をついた。
サザーランド公爵に嫁いだメルローズ王女は、姑のシャルロットの少女趣味の被害者の筆頭だろう。嫁いだ当時、王妃様も皇太子妃も、メルローズ王女が王宮に着てくるドレスには頭を痛めていた。メルローズ王女は王妃に似て女性としては長身で、可愛らしいフリフリのドレスより、スッキリとした物の方が似合うし、本人も好みだと知っていた。
それなのに似合わないドレスを着ている王女を、姑の少女趣味につき合わされているのだと同情していたのだ。でも、実際はメルローズ王女の結婚相手のサザーランド公爵は母や姉のフリフリのドレスを見慣れていて、あっさりとした服よりも好み、結婚したての熱々の王女は夫の好みに合わせていたのだ。今でもサザーランド公爵夫妻は熱々だが、メルローズ夫人は少しフリルやレースをついたドレスを着こなしており、王妃もほっとしていた。
「母上は、サザーランドのお祖母様からユーリがロザリモンド姫に似ていると聞いて、凄く会いたがってるけど、お祖父様が頑固だからね。父上も姪の君に会いたがっているんだけど、お祖父様が会う前にはまずいだろうと我慢しているんだ。お祖父様はもともと頑固だったけど、お祖母様が亡くなって隠居してからは、ますます頑固さに磨きがかかってね。両親はご機嫌を損ねるのが嫌なんだと思う」
ユーリもフランツやユージーンの親である叔父夫婦には会ってみたいが、祖父の老公爵が自分を拒絶しているのなら会えないのも仕方ないと溜め息をつく。
「まぁ、母と会ったらフリフリドレス着さされるから、会わない方がユーリの為かもね。ところで、いつまで皇太孫殿下とユーリは罰を受けるの? もう罰を受けだして半月は経つよね?」
ユーリはフランツの言葉に「こちらこそ、いつまで罰を受けるのか知りたいわ」と二度目の溜め息をつく。そうこうするうちに夏至祭が近づき、期末試験が始まった。
リューデンハイムは夏至祭と、冬至祭の長期休暇前に期末試験が行われ、成績不良の生徒や、竜騎士になる素質が基準に満たない生徒は学校を去るという厳しい規則がある。
特に、見習い竜騎士に昇格する試験は厳しく、なかなか一回で合格する予科生はいない。見習い竜騎士試験は何回でも受けられるというのが建て前ではあったが、17才を過ぎて予科生というのは開校からまだ一人もいないと聞くと、15才から受けて4回以内に合格しないと見込みがないという事になる。
今回も5年生が見習い竜騎士の試験を受けたが、合格したのは一人だけで、15才で受験1、2回目の生徒は次の冬至祭前の試験に再チャレンジする事にしたが、16才の予科生はリューデンハイムを去っていった。
皇太孫殿下とユーリも無事に一年前半を合格した。
フランツはクラスで一番の成績で級友達を驚かせたが、ユーリは前から賢いのに気づいていたので当然だと思った。
「フランツは飛び級しないの? その成績なら、一年の後半飛ばして二年でもいけるでしょう」
「ユーリだって二年でもいけるだろ。飛び級しないのかい?」
成績は一番がフランツ、二番がユーリ、三番がグレゴリウスと三人が飛び抜けていた。
「私は前なら飛び級していたと思う。でも、私はまだ9才の子供なんだなぁと、この前問題をおこして実感したの。見習い竜騎士になったら、竜騎士ほどじゃないけど責任が生じるでしょ。まだ子供なんだから、当分は予科生で良いのよ」
ユーリの言葉に、フランツは我が意を得たりと頷く。
「そうだよね! 急いで、責任ある大人になる必要ないよ! それに、せっかくモテモテの見習い竜騎士の制服を着るなら、社交界に出られる年齢じゃなきゃ勿体ないよね」
後半の動機には賛同しかねるが、普通、この年頃の子供があまり持たない意見に共鳴する相手と巡り会えた幸運に二人は感謝した。
試験も終わり夏至祭前になると、ユーリはいつまで罰が続くのだろうと悩むようになった。地方出身の生徒達が夏至祭を故郷で過ごそうと荷物を作り出すと、無期限というのは一体いつまでなんだろうと落ち込んだ。
初めて過ごすユングフラウの夏は、北のヒースヒルよりもかなり暑く感じる。去年過ごしたフォン・フォレストの夏も、日中は暑かったが海風が気持ち良かった。それに都会のユングフラウには人が溢れてて、より暑く感じられる。
ユーリは無期限の外出禁止なので、週末もフォン・アリスト邸に帰れなかったので、ゆっくりと快適な空間で寛ぐ事もできなかった。
リューデンハイムの寮は各自個室でベットと勉強机と服のしまえる戸棚でいっぱいの大きさだ。夏のこの時期、窓を開けても風は吹き込まず夜も寝苦しかった。
ユーリは罰の竜舎の掃除がだんだんつらくなっていた。農家育ちで、慣れている敷き藁の入れ替えをすますと思わず「はぁ~」と溜め息をつく。
一緒に罰掃除していたグレゴリウスも、同じく「はぁ~」と溜め息をつき、二人は顔を見合って力なく笑う。
「もうすぐ夏休みだけど、いつまで罰が続くのかしら?」
「無期限って、いつまでなんだろう?」
二人で掃除道具を片付けながら、愚痴っていると、運悪く通りかかった校長先生に聞かれてしまった。
「まだまだ反省が足りないようだね。無期限は無期限だよ!」
校長先生は二人に喝をいれると、さっさと校舎の方に歩いて行った。
二人は歩き去る校長先生を呆然と見送る。
「もしかして、私たち夏休み無しなの?」
「無期限は無期限って? 夏休み中も罰掃除なのか?」
どっとその場に座りこむグレゴリウスとユーリだった。
二人は罰の竜舎掃除や、罰の給仕当番は仕方がないと諦めたが、二人の無責任な行動に腹を立てた教師や生徒が多かったので、針のムシロに座らされているような気がした。
特に、見習い竜騎士の試験を受ける予科生の5年は、受験のプレッシャーから気分がささくれ立ているいて、聞くにたえない噂を流した。
見習い竜騎士のユージーンも、二人の無責任な行動には腹を立てた。が、ふと食堂で耳にした「皇太孫殿下とユーリが駆け落ちした」という噂には激怒して、予科生に鉄拳制裁を加え、生真面目なユージーンが初の罰を受けるはめになった。
ユーリは校長先生から説教されて、部屋から出てくるユージーンと、間が悪く鉢合わせする。毎日義務づけられている反省文を提出しにきて、校長室のドアをノックしかけてた時に中からユージーンが礼儀正しく、でも足音に怒りをこめて出てきたのだ。
「ユージーン、ありがとう。嫌な噂を話してた予科生を懲らしめてくれたって皆言ってるわ。校長先生に怒られたの? ごめんなさい」
「ユーリ、君に感謝される覚えもなければ、謝られる覚えもない。私は見習い竜騎士として、後輩指導したまでにすぎない」
ユーリは靴音を響かせて遠ざかっていく、相変わらず頑固なユージーンが、お祖父様に似ているような気がした。
「貴方のお兄さんのユージーンって悪い人じゃないけど、なんか苦手なの。他人なのに妙に私のお祖父様に似ているからかもしれない。威圧感のある目つきも似てるのよね」
同級生の何人かは問題をおこしたユーリと距離を置いたが、フランツは「馬鹿な事したね」と苦笑して、普段通りに付き合ってくれている。今日、校長室の前でユージーンと出会った件を話していたユーリはフランツが唖然としてるのに気づいた。
「え~、知らなかったの? 僕と君はマウリッツ公爵家の系図では従兄だけど、フォン・アリスト家の系図ではハトコだよ。僕達のお祖母様は、君のお祖父様の妹だからね。アリスト卿は僕達の大祖父様になるんだ。ユージーンはアリスト卿を崇拝しているから、似てると聞いたら喜ぶよ」
ユーリはフランツを初めて見たとき、パパに似ていると感じたのを思い出した。フランツの茶色の瞳はいつも笑いを含んでいて、人当たりの良さもパパに似ていると思う。
「あのう……でも、父と母が駆け落ちしたのでマウリッツ公爵は凄くお怒りだったと聞いたけど? それなのに、お祖父様の姪を息子の嫁に貰ったの?」
未だに老公爵の怒りはおさまらないので、ユーリは母方の親族はリューデンハイムで会ったフランツとユージーンしか会ってなかった。
「まぁ、お祖父様としてはアリスト卿の姪を貰ったとは認めたくないだろうね。サザーランド公爵のお嬢様をお嫁に貰ったと思ってるよ。サザーランド公爵家はメルローズ王女様もお興しいれされているし、名門だからね」
ユーリは、フォン・アリストの屋敷の自分の部屋の飾り付けをしてくれた、大祖母様のシャルロット・フォン・サザーランドを思い出して首をすくめた。
「では、貴方達のお母様はあのシャルロット様の娘なのね。なるほど! それでユージーンのシャツはいつもビラビラ……いえ、高そうなレースが付いているのね。それにしては、フランツはあっさりしたシャツを着てるわね」
ユーリの言葉にフランツは大爆笑した。サザーランド公爵家もマウリッツ公爵家も、祖母と母の少女趣味には閉口していたのだ。
「母が嫁いで一番にしたのは、気難しい老公爵をどうやって説得したのか、屋敷中のカーテンを柔らかな薔薇色の物に変える事だったそうなんだ。その時に、誰か止めとけば良かったんだよね。その後、少しずつ母の趣味で屋敷は変革を続け、今では御伽の国のお姫様が住まうようなロマンチックな屋敷になってて、居心地の悪いことったら。僕はハッキリ母にビラビラしたシャツは嫌いだと言ったけど、ユージーンは紳士だから言えないんだよね」
フランツは祖母と母の少女趣味のせいで、皆がどれほど迷惑しているか思い出して溜め息をついた。
サザーランド公爵に嫁いだメルローズ王女は、姑のシャルロットの少女趣味の被害者の筆頭だろう。嫁いだ当時、王妃様も皇太子妃も、メルローズ王女が王宮に着てくるドレスには頭を痛めていた。メルローズ王女は王妃に似て女性としては長身で、可愛らしいフリフリのドレスより、スッキリとした物の方が似合うし、本人も好みだと知っていた。
それなのに似合わないドレスを着ている王女を、姑の少女趣味につき合わされているのだと同情していたのだ。でも、実際はメルローズ王女の結婚相手のサザーランド公爵は母や姉のフリフリのドレスを見慣れていて、あっさりとした服よりも好み、結婚したての熱々の王女は夫の好みに合わせていたのだ。今でもサザーランド公爵夫妻は熱々だが、メルローズ夫人は少しフリルやレースをついたドレスを着こなしており、王妃もほっとしていた。
「母上は、サザーランドのお祖母様からユーリがロザリモンド姫に似ていると聞いて、凄く会いたがってるけど、お祖父様が頑固だからね。父上も姪の君に会いたがっているんだけど、お祖父様が会う前にはまずいだろうと我慢しているんだ。お祖父様はもともと頑固だったけど、お祖母様が亡くなって隠居してからは、ますます頑固さに磨きがかかってね。両親はご機嫌を損ねるのが嫌なんだと思う」
ユーリもフランツやユージーンの親である叔父夫婦には会ってみたいが、祖父の老公爵が自分を拒絶しているのなら会えないのも仕方ないと溜め息をつく。
「まぁ、母と会ったらフリフリドレス着さされるから、会わない方がユーリの為かもね。ところで、いつまで皇太孫殿下とユーリは罰を受けるの? もう罰を受けだして半月は経つよね?」
ユーリはフランツの言葉に「こちらこそ、いつまで罰を受けるのか知りたいわ」と二度目の溜め息をつく。そうこうするうちに夏至祭が近づき、期末試験が始まった。
リューデンハイムは夏至祭と、冬至祭の長期休暇前に期末試験が行われ、成績不良の生徒や、竜騎士になる素質が基準に満たない生徒は学校を去るという厳しい規則がある。
特に、見習い竜騎士に昇格する試験は厳しく、なかなか一回で合格する予科生はいない。見習い竜騎士試験は何回でも受けられるというのが建て前ではあったが、17才を過ぎて予科生というのは開校からまだ一人もいないと聞くと、15才から受けて4回以内に合格しないと見込みがないという事になる。
今回も5年生が見習い竜騎士の試験を受けたが、合格したのは一人だけで、15才で受験1、2回目の生徒は次の冬至祭前の試験に再チャレンジする事にしたが、16才の予科生はリューデンハイムを去っていった。
皇太孫殿下とユーリも無事に一年前半を合格した。
フランツはクラスで一番の成績で級友達を驚かせたが、ユーリは前から賢いのに気づいていたので当然だと思った。
「フランツは飛び級しないの? その成績なら、一年の後半飛ばして二年でもいけるでしょう」
「ユーリだって二年でもいけるだろ。飛び級しないのかい?」
成績は一番がフランツ、二番がユーリ、三番がグレゴリウスと三人が飛び抜けていた。
「私は前なら飛び級していたと思う。でも、私はまだ9才の子供なんだなぁと、この前問題をおこして実感したの。見習い竜騎士になったら、竜騎士ほどじゃないけど責任が生じるでしょ。まだ子供なんだから、当分は予科生で良いのよ」
ユーリの言葉に、フランツは我が意を得たりと頷く。
「そうだよね! 急いで、責任ある大人になる必要ないよ! それに、せっかくモテモテの見習い竜騎士の制服を着るなら、社交界に出られる年齢じゃなきゃ勿体ないよね」
後半の動機には賛同しかねるが、普通、この年頃の子供があまり持たない意見に共鳴する相手と巡り会えた幸運に二人は感謝した。
試験も終わり夏至祭前になると、ユーリはいつまで罰が続くのだろうと悩むようになった。地方出身の生徒達が夏至祭を故郷で過ごそうと荷物を作り出すと、無期限というのは一体いつまでなんだろうと落ち込んだ。
初めて過ごすユングフラウの夏は、北のヒースヒルよりもかなり暑く感じる。去年過ごしたフォン・フォレストの夏も、日中は暑かったが海風が気持ち良かった。それに都会のユングフラウには人が溢れてて、より暑く感じられる。
ユーリは無期限の外出禁止なので、週末もフォン・アリスト邸に帰れなかったので、ゆっくりと快適な空間で寛ぐ事もできなかった。
リューデンハイムの寮は各自個室でベットと勉強机と服のしまえる戸棚でいっぱいの大きさだ。夏のこの時期、窓を開けても風は吹き込まず夜も寝苦しかった。
ユーリは罰の竜舎の掃除がだんだんつらくなっていた。農家育ちで、慣れている敷き藁の入れ替えをすますと思わず「はぁ~」と溜め息をつく。
一緒に罰掃除していたグレゴリウスも、同じく「はぁ~」と溜め息をつき、二人は顔を見合って力なく笑う。
「もうすぐ夏休みだけど、いつまで罰が続くのかしら?」
「無期限って、いつまでなんだろう?」
二人で掃除道具を片付けながら、愚痴っていると、運悪く通りかかった校長先生に聞かれてしまった。
「まだまだ反省が足りないようだね。無期限は無期限だよ!」
校長先生は二人に喝をいれると、さっさと校舎の方に歩いて行った。
二人は歩き去る校長先生を呆然と見送る。
「もしかして、私たち夏休み無しなの?」
「無期限は無期限って? 夏休み中も罰掃除なのか?」
どっとその場に座りこむグレゴリウスとユーリだった。
36
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる