スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

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第七章 忙しい夏休み

10  マウリッツ公爵家の別荘

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 ユーリは別荘に帰ると、ワッフルコーン作りが気になって離れに行ったが、ローズとマリーは侍女達と仲良く焼いている最中だった。

「こちらは私達に任せて下さい。ユーリ様は夕食のお着替えをなさらないと」

 侍女達は、家令からユーリ様が離れにべったりになると老公爵の機嫌を損なうとキツく命じられていたので、アイスクリームとワッフルコーン作りを手伝って、母屋にいる時間を長くしようとする。

 なんとなく仲間外れにされた気分で、ブツブツ言いながら母屋に歩いていくユーリを、ローズとマリーは複雑な気持ちで眺める。

「少し可哀想な気がするわ、ユーリは一緒に焼こうと言ってたから」

 マリーの言葉に、無口なローズも同意する。

「マリーさん、ローズさん、お二人は国王陛下がユーリ様の大伯父様だと、ご存知ないのですか? ユーリ様は気取らない方ですし、身分に無頓着ですが、将来の皇太子妃候補なのですよ。それに私達は公爵家をしくじるつもりはありませんから。ユーリ様が離れにべったりだと老公爵のご機嫌を損ねますもの」

「マウリッツ公爵家は召使いの質も良いし、お給金も最高ですから、絶対に老公爵を怒らせるようなことは避けませんとね。ユーリ様がいらっしゃると、老公爵のご機嫌が良くて、家令様や女中頭の機嫌も良くなるの」

 ローズもマリーも、信頼できる雇用先を失いたくない侍女達の気持ちは痛いほどわかった。

「わかったわ、ユーリをなるべく離れに引き止めないように気をつけるわ」

 仲良くなった四人は、和気藹々とワッフルコーン作りにいそしんだ。


 ユーリが初めてストレーゼンの別荘へ来た夕食は、和やかに進んだ。ユーリの旺盛な食欲に刺激されて、少し夏バテ気味だった老公爵も、いつになく食が進んでいる様子に家族は安堵する。

 夕食後はサロンで寛いで、老公爵の要望で、ユーリはフランツとライラの楽曲を合唱する。

「まぁ、ユーリはライラそのものね」

 マリアンヌの感想に、ユーリ達三人は吹き出してしまう。不思議がる大人達に、ユージーンはエリザベート王妃も同じ感想だったのだと説明する。

「あら、エリザベート王妃様と同じだなんて僭越かしら」

 ころころと笑うマリアンヌを、全員で笑いながら見る。そうだ! と、ユージーンは母親にお願いをする。

「ユーリはライラの全幕を知らないのです。秋にオペラが始まったら、連れて行って下さい。ユーリはリューデンハイムで色々と学んでいますが、文化的教養はまだまだなので、母上にお願いしたいのです」

 元々、社交界にデビューしたユーリを伴ってオペラに行こうと考えていたマリアンヌは喜ぶ。

「私も身体の調子が良いときは、ユーリをオペラに連れて行こう。リュミエール、オペラハウスの一番良い桟敷を買い取りなさい」

 老公爵の機嫌が良いと公爵家は平穏なので、リュミエールは家令に早速手配させた。ユーリはオペラを観劇したことが無かったので、フランツに、面白いの? と尋ねる。

「う~ん? オペラを面白いと思うかどうかは、ユーリしだいだよ。オペラハウスでは、最高の演出と、演目、歌手が出ているから、勉強になると思うよ。あっ、目をつぶって聞くと良いかもね。太めのライラは、ちょっと戴けないからさ~」

 フランツの失礼な意見を、ユージーンは窘めたが、全員少し同感でもあった。

「太めのライラか~、でも歌は楽しみだわ。ライラのアリアを、エリザベート王妃様に所望されたけど、歌えなかったから」

「ユーリがライラを演じたら拍手喝采だよ。でも、ライラのアリアはテクニックより、心情が無理じゃないかな? 不実な恋人を疑いながらも、恋に殉ずるなんて、ユーリっぽくないもの。ユーリなら蹴り飛ばしそうだもんね」

「まぁ、酷いわ」

 ユーリが怒ってフランツに軽く殴りかかるのを、マリアンヌは笑いながら止める。

 公爵家の召使い達はサロンから賑やかな笑い声が聞こえるのを、珍しいと思って聞いている。お仕えする御主人様方のご機嫌が良いのは、召使い達にとっても喜ばしいので、ユーリがいると嬉しく感じるのだ。


 基本は早寝早起きのユーリと、老公爵が寝室に下がると、フランツは公園で子息達に紹介を求められた件を話す。

「ユージーンが心配した通りだったよ。ユーリが屋台なんか開いたら、子息達が群がるよ」

 ふ~っと深い溜め息を、全員がはいた。

「思慮深い王妃様らしくないわ。ユーリに屋台の許可を与えるだなんて」

 母親の憤りをユージーンが宥める。

「王妃様は毎年ユーリを離宮に招待して、断り続けられてますから。どうしてもユーリをストレーゼンに招きたかったのでしょう。王妃様は皇太子殿下をユーリと一緒に夏休みを過ごさせてあげたかったのですよ。他の子息達の事は考えてもおられなかったのでしょうが、皇太子殿下はユーリが屋台を開けばどうなるかわかっていらっしゃるから、付き添われるでしょうね。皇太子殿下の目の前でユーリを口説く度胸は無いでしょうから、私達は楽できます」

 ユージーンやフランツも、内心では皇太子妃に向いてないと思いながらも、国王の意志に背かれないので、グレゴリウスとユーリが親密になるのを容認する立場だ。

「でも、ユーリは皇太子殿下と距離を置きたいと言ってましたのに……」

 公爵夫妻は年頃の娘を持つ親の心境を存分に味わっていた。
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