この広いセカイでもう一度貴方に出会えたら

ニノハラ リョウ

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もう離さない その5

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「あぁ、そりゃユエだよ。『月下の魔女』の」

 無事ドラゴン討伐を終えた後、ボス部屋の奥に設置されている転位陣を通って地上へと戻ってきた。

 この地上を行き来できる転位陣はダンジョンの十階層ごとに設置されていて、利用する為には同じく十階層ごとに配されているボスモンスターを討伐する必要がある。
 転位陣を解放すれば、各階層への行き来が楽になる為、前線組はせっせとボスを倒して転位陣を解放している。

「ん? リンにゃんはユエにゃんと会うの初めてだったにょ?」

 レアドロした魔石に何やら怪しげなスキルを埋め込みながら、猫娘が会話に交ざってきた。
 ここはクラン『ローズデヴァン』のクランハウスだ。
 何故かバーカウンターの様になっている一階の部分で、クランマスターの熊吉と、主要メンバーである殺気コロッケと肉球堕天使に、この間のボスレイドで俺達の窮地を救った彼女について聞いてみると、あっけなく答えは返ってきた。むしろ知らないのが信じられんみたいな反応に、こちらが困惑する。

「……ネコにゃん、そのスキル付与しちゃうと周りに被害が出そうナリよ」

「コロにゃんとクマにゃんなら避けられるにゃん!! 大丈夫にゃん!」

「いや、やめておけ。他に迷惑だ」

 熊吉に諭され、しぶしぶ猫娘がスキルを解除する。

「言われてみればリンにゃんがローズデヴァンうちに来たにょと、ユエにゃんが前線から下がったにょって同じくらいだったかもにゃ?」

「え?彼女もここのクランメンバーなのか?」

「そうナリよ。ちょっと前まで最前線一緒に走ってたけど、思うところあるって事でソロ転向したナリよ。で、沈黙の森でポーション屋してるナリ。と言っても、この前みたいなボスレイドになれば参戦してくれるナリよ。
 この前の一件で見ての通り、ユエ殿の実力は折り紙付きだから、助かってるナリ」

 殺気ころっけの言葉に同意を示す猫娘と熊吉の様子を見る限り、相当に優秀なのだろう。

「ふぅん。それはなんてーか、勿体ないな」

「当時も随分引き留めたナリなぁ。だけど、本人の意思も硬くって。と言っても最前線でダンジョン攻略をしなくなっただけで、ソロでダンジョン潜ってるし、そこでドロップした品で作るポーション類が一級品だしで、最前線組と変わらない実力者なのは変わりないナリ」

「だな。ウチのクランの連中に持たせてるポーション類は大体ユエが作ったもんだしな。ほら、お前がこの前絶賛してた解呪ポーション、アレもユエのだ」

「へぇ……」

 熊吉の言葉に彼女との邂逅を思い出す。

 あの時彼女が突き飛ばさなければ、俺は恐らくドラゴンのブレスにやられていただろう。
 痛みで死ぬ可能性のあるこの世界において、あの強烈なブレスを浴びて、無事であったかどうか、命があったかどうかも定かではない。

 俺を庇いドラゴンと対峙する彼女の後姿を思い出す。
 風にはためく黒いワンピースとロングヘア、振り返って見せたこちらを安心させるような柔らかい笑み。

 それを思い出して、再び今ここにないはずの心臓がどくりと跳ねた。

 月の光のようにこちらを淡く優しく包み込む彼女の笑顔を……。


 ぐちゃぐちゃに乱したい。
 ありとあらゆるところにぶっ掛けて白濁で汚したい。
 あの凛とした後ろ姿を組み伏せて、後ろ手になるよう腕を引きながらバックで突き上げたら、彼女はどんな嬌声こえで鳴くのだろう。
 愉悦に擦れるまで彼女をあえがせたい。
 ドロドロに溶けたアへ顔を見ながら、奥に思いっきり欲を吐き出したら、彼女はどんな風に堕ちるのだろう。


 流石に実装されていない股間のモノが痛いほどに勃ち上がる気がして、性的興奮に理性が焼き切れそうになる。

 そう。
 最初ユエに抱いていた想いは俺の性癖にぶっ刺さったと言うだけの、単なる肉欲でしかなかった。
 もちろん、そういった欲を解消する術のないこの世界では、胸に秘めるだけでどうあっても昇華できない想いだったはずだ。

 ユエと接する機会を経て、それ気持ちが変化するまでそう時間はかからなかった。

 ポーションを作るときに見せる真剣な表情とか。
 元の世界の話題が出ると浮かべる寂しげな笑みとか。
 俺がダンジョン攻略から帰ってきた時に浮かべる安堵の笑みとか。
 来客に告げる独特のイントネーションの『いらっしゃいませ』とか……。

 それら全てに何故か無性に惹きつけられた。
 特に、ダンジョン攻略が進んで、この世界の先が見えてきた頃から浮かべる諦念の表情が、俺の胸を騒つかせる。

 他のメンバー達が、元の世界でもある程度繋がりを求めて情報交換を進める中、彼女は何一つ漏らさなかった。
 それは、向こうの世界では、生身の己では俺達と関わりたくないという彼女の意思表示に他ならない。

 その事に、俺が切り捨てられようとしている事に、どうしようもなく胸が痛んだ時、俺は心を決めた。

 なんとしても、どうやってでも元の世界でも彼女を己のものにすると。

 この味覚も臭覚もない世界で、感触しかないキスを交わしながら、彼女の味を、匂いを求めてしまう。

 だから、彼女が時折無自覚に溢す、向こうの世界での彼女を取りこぼす事なく集めていく。
 それは闇夜に僅かに煌めく星の光のように儚かったが、周りの人間達にも協力してもらい、儚くとも輪郭を持った向こうの彼女の情報姿を模る程にはなっていた。

 そしてダンジョン攻略が佳境に入り、この世界の寿命が近づいてきた時、俺は一つの賭けに出た。

 もしこの世界が終わる時、彼女が全てを話してくれたなら、向こうでも俺との関係を続けると意思を示してくれるなら、彼女に見せていた頼りになる優しい男のままでいようと。

 ……もし彼女が俺を切り捨てるなら、その時は……もう二度と離さないように、逃げられないように、完膚なきまでに彼女を手に入れると。


 そして、この世界の終わりの鐘が鳴った時。
 彼女の選んだ道は……。

 儚く消え去った虚構の彼女を見送り、俺の意識も現実へと引き戻されていく。
 
 胸に秘めた彼女への仄暗く染まった想いを抱えながら。

 
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