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07.カクテル言葉を知っているか?①
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「じゃあ東海林くん、さっき電話がかかって来て出て行った人が『出向先でお世話になった先輩』?」
つい数分前に「紛らわしいけど祥司は祥司で定着しているから、アナタは“東海林くん”って呼ぶわね!」と軽やかに宣言したアキから掛けられた言葉に、東海林はグラスを丁寧に置きながら小さく首を振った。
「いいえ、先ほど出て行った青木さんは同じチームの先輩ですね。今年の四月に出向先から本社に戻って来て以降面倒を見てもらっています」
「へえ~、因みに何処に出向してたか聞いても大丈夫~?」
軽い口調のアキが、作業をしつつも東海林の表情を確認しながら問う。
きっと東海林が少しでも言い淀んだり、踏み込まれるのを嫌がる素振りを見せれば即話題を変えるつもりなんだろう。
しかし東海林は穏やかな表情を一切崩すことなく、ゆったりとした雰囲気を維持したまま柔らかい声で答える。
「大阪です。二年間、現場を回って色々勉強していました」
「あらー、そうなの」
さらりと答えた東海林の言葉を受けて、アキは踏み込むのはここまでと決めたようだ。
そして会話をしていた東海林もアキの意図と気遣いに気付いたようで、心なしか嬉しそうに微笑む。
その会話を静かに眺めていた祥司は、中堅規模の広告代理店でプランナーとして勤めていることもあり、職業柄磨き上げた観察眼から東海林が鈍感な人間ではないことに気付いた。
――空気を読む力もある。
野暮ったい見た目に反して、鈍感なタイプではないようだ。
それに大阪に出向して東京の恐らく本社に戻って来たということは、それなりの会社に勤めているのだろう。
そんな分析をした祥司が何かを言うより先に、ふと東海林が顔を上げる。
「失礼します、お手洗いはどちらでしょうか?」
「トイレならあそこよ。あの突き当りにあるわ」
「すみません、少し失礼しますね」
手元のグラスを空にしてから小さく礼をして腰を上げた東海林が、迷いのない足取りで歩いていく背中を祥司はちらりとだけ見て、カウンター内の二人に視線を戻す。
戻して、口を開くより先にアキに声を掛ける男がいた。
「あの、すみません。先ほどまであのテーブル席で飲んでいた男は――もう帰りましたか?」
少し慌てた様子で言った男性を見てケイとアキ、そして祥司も「ああ」とすぐに察する。
――青木さん、だったか。
たまたま横に座っただけの自分より、店のスタッフである二人が対応した方が自然だと判断した祥司が様子を窺っていると、アキが愛想よく笑いながら答えた。
「東海林くんなら今お手洗いよ。すぐ戻って来ると思うわ」
「そうですか、それは良かった。でももう馴染んでいるんですね……流石だな」
はは、と人の良さそうな笑顔を浮かべる青木にケイが答える。
「物腰が柔らかくて、とても綺麗な飲み方のお客様ですね。是非今後とも贔屓にしてもらいたいものです」
「そうでしょう? ああ見えて切れ者で、何より意外とモテるんですよ」
椅子を勧められたが丁寧な仕草で断った青木を見ながら、アキは「なんか分かるわぁ~」と感情のこもった言葉を漏らした。
「東海林くんみたいなタイプって『彼の良さを理解出来るのは私だけ!』みたいなコに深く好かれそうなニオイがするわねえ」
「まさにそれですよ。告白してくる相手は皆、覚悟を決めた本気の子ばっかり。……でもまあ、何故か誰とも付き合ってないんですけどね」
アキさんの言ってること……なんか分かる気がするな、と祥司が無言のまま聞いているとトイレから話題の中心になっていた本人が戻って来る。
つい数分前に「紛らわしいけど祥司は祥司で定着しているから、アナタは“東海林くん”って呼ぶわね!」と軽やかに宣言したアキから掛けられた言葉に、東海林はグラスを丁寧に置きながら小さく首を振った。
「いいえ、先ほど出て行った青木さんは同じチームの先輩ですね。今年の四月に出向先から本社に戻って来て以降面倒を見てもらっています」
「へえ~、因みに何処に出向してたか聞いても大丈夫~?」
軽い口調のアキが、作業をしつつも東海林の表情を確認しながら問う。
きっと東海林が少しでも言い淀んだり、踏み込まれるのを嫌がる素振りを見せれば即話題を変えるつもりなんだろう。
しかし東海林は穏やかな表情を一切崩すことなく、ゆったりとした雰囲気を維持したまま柔らかい声で答える。
「大阪です。二年間、現場を回って色々勉強していました」
「あらー、そうなの」
さらりと答えた東海林の言葉を受けて、アキは踏み込むのはここまでと決めたようだ。
そして会話をしていた東海林もアキの意図と気遣いに気付いたようで、心なしか嬉しそうに微笑む。
その会話を静かに眺めていた祥司は、中堅規模の広告代理店でプランナーとして勤めていることもあり、職業柄磨き上げた観察眼から東海林が鈍感な人間ではないことに気付いた。
――空気を読む力もある。
野暮ったい見た目に反して、鈍感なタイプではないようだ。
それに大阪に出向して東京の恐らく本社に戻って来たということは、それなりの会社に勤めているのだろう。
そんな分析をした祥司が何かを言うより先に、ふと東海林が顔を上げる。
「失礼します、お手洗いはどちらでしょうか?」
「トイレならあそこよ。あの突き当りにあるわ」
「すみません、少し失礼しますね」
手元のグラスを空にしてから小さく礼をして腰を上げた東海林が、迷いのない足取りで歩いていく背中を祥司はちらりとだけ見て、カウンター内の二人に視線を戻す。
戻して、口を開くより先にアキに声を掛ける男がいた。
「あの、すみません。先ほどまであのテーブル席で飲んでいた男は――もう帰りましたか?」
少し慌てた様子で言った男性を見てケイとアキ、そして祥司も「ああ」とすぐに察する。
――青木さん、だったか。
たまたま横に座っただけの自分より、店のスタッフである二人が対応した方が自然だと判断した祥司が様子を窺っていると、アキが愛想よく笑いながら答えた。
「東海林くんなら今お手洗いよ。すぐ戻って来ると思うわ」
「そうですか、それは良かった。でももう馴染んでいるんですね……流石だな」
はは、と人の良さそうな笑顔を浮かべる青木にケイが答える。
「物腰が柔らかくて、とても綺麗な飲み方のお客様ですね。是非今後とも贔屓にしてもらいたいものです」
「そうでしょう? ああ見えて切れ者で、何より意外とモテるんですよ」
椅子を勧められたが丁寧な仕草で断った青木を見ながら、アキは「なんか分かるわぁ~」と感情のこもった言葉を漏らした。
「東海林くんみたいなタイプって『彼の良さを理解出来るのは私だけ!』みたいなコに深く好かれそうなニオイがするわねえ」
「まさにそれですよ。告白してくる相手は皆、覚悟を決めた本気の子ばっかり。……でもまあ、何故か誰とも付き合ってないんですけどね」
アキさんの言ってること……なんか分かる気がするな、と祥司が無言のまま聞いているとトイレから話題の中心になっていた本人が戻って来る。
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