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19.合いますよ、きっと。①
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ご一緒させて頂いてもよろしいですか? と東海林は軽い口調で言ったが、あくまでも祥司が自分で選ぶ作業に口を出すつもりは無い様子だ。
その証拠に陳列されている様々なデザインのボトルたちを、まるで記憶しながら品定めするような視線で眺めている。
相手が付けている香水ですら、コミュニケーションのきっかけに使ってしまうようなスマートさがなんだかとても憎たらしい。
「(でもまあ……ドクターって変わっているというか、個性的な人も多いしな)」
様々な病院に日常的に顔を出していたであろう東海林よりは遥かに少ないが、祥司だって医師との関りが無いわけではない。
医師という絶大な肩書きは、社会的な地位と自信を与える。
高級外車に乗りながら、足元は履き潰したサンダル――そんな個性的な医師を何人も見てきた。
他者の評価に依存しない分、好みや自分の快適さだけを堂々と出せるのだろう。
「(気苦労とストレス……すごかったんだろうな)」
仕事で接する圧倒的な上下関係のある相手と上手くやっていく術を、東海林は恐らく完璧に近いレベルで既に身に着けている。
だからこそ、彼自身『出世コースに乗った』と判断されている地位に祥司と同い年で立てているのが分かった。
ふと。
本当にふと、最近はめっきり思い出すこともなかった元カレのことが脳裏に浮かんだ。
祥司の元カレは、決して悪い人間ではなかった。
職を転々とするようなこともなかったし、遅刻や欠勤をする怠惰な面もなかった。
酒癖が悪いとか、付き合いでたまに行く以上のギャンブルをするわけでもない。
しょっちゅう飲み歩いて帰って来ないことも、別れる最後の最後まで他の誰かに心を移すこともなかった。――でも、仕事の愚痴は多い男だった。
「上司は分かってない」
「仕事のやり方が古い」
「尊敬出来る人間が職場にいない」
そんなことを言う割に、キャリアアップするタイプの転職や資格の取得、環境の改善への行動は全くしない。
だから、昇進も昇給もしない。
それなのに、祥司に向かってこう言うのだ。
――祥司は良いよな。祥司はすごいよな。って、すごく軽い調子で。
時代が変わっても、男は社会的なステータスで価値を測られる現実は残っている。
それが分かっているから、祥司は祥司なりに努力した。いや、し続けている。
でも元カレの中で祥司の努力は可視化されておらず「祥司は自分とは違うすごい人間だから、当然だ」でずっと止まっていた。
……一緒に暮らしていて、祥司が持ち帰った仕事や勉強をしている姿を見ていないはずがないのに。
「祥司さん、どうしました? 固まってますけど、何かと何かで迷っているんですか?」
いつの間にか近くに戻って来ていた東海林から声を掛けられて、まさか祥司は「元カレのことを思い出していました」なんて言えるはずもなく、口から慌てたように取り繕う言葉が出た。
「いや、あの……なんかもう、見れば見るほど分からなくなって来て」
咄嗟に出た言葉にしては、現状に適していたと思う。
だって実際何を選べばいいのか分からなくなっているのは事実だ。
すると、それを聞いた東海林が「そうですか……」と小さく呟いてから、控えめな口調で提案して来た。
「もし宜しければ、『私の中で勝手に思っている祥司さんに合いそうな香水』トップ3をご提案させて頂いても宜しいですか?」
にこり、と完璧なビジネスマンスタイルで笑う祥司の顔を見て、祥司は素直に頷いた。
「あ、因みにご予算は?」
歩き出そうとした東海林がぱっと振り向いたのを見て、祥司はふっと笑う。
「劣化する前に使い切りたいので、一番小さなボトルを選ぶつもりです。だから値段は気にしないでください」
「了解です」
そう言って歩き出した背筋の伸びた男の背を、祥司はなんとなく見続けていた。
***
その証拠に陳列されている様々なデザインのボトルたちを、まるで記憶しながら品定めするような視線で眺めている。
相手が付けている香水ですら、コミュニケーションのきっかけに使ってしまうようなスマートさがなんだかとても憎たらしい。
「(でもまあ……ドクターって変わっているというか、個性的な人も多いしな)」
様々な病院に日常的に顔を出していたであろう東海林よりは遥かに少ないが、祥司だって医師との関りが無いわけではない。
医師という絶大な肩書きは、社会的な地位と自信を与える。
高級外車に乗りながら、足元は履き潰したサンダル――そんな個性的な医師を何人も見てきた。
他者の評価に依存しない分、好みや自分の快適さだけを堂々と出せるのだろう。
「(気苦労とストレス……すごかったんだろうな)」
仕事で接する圧倒的な上下関係のある相手と上手くやっていく術を、東海林は恐らく完璧に近いレベルで既に身に着けている。
だからこそ、彼自身『出世コースに乗った』と判断されている地位に祥司と同い年で立てているのが分かった。
ふと。
本当にふと、最近はめっきり思い出すこともなかった元カレのことが脳裏に浮かんだ。
祥司の元カレは、決して悪い人間ではなかった。
職を転々とするようなこともなかったし、遅刻や欠勤をする怠惰な面もなかった。
酒癖が悪いとか、付き合いでたまに行く以上のギャンブルをするわけでもない。
しょっちゅう飲み歩いて帰って来ないことも、別れる最後の最後まで他の誰かに心を移すこともなかった。――でも、仕事の愚痴は多い男だった。
「上司は分かってない」
「仕事のやり方が古い」
「尊敬出来る人間が職場にいない」
そんなことを言う割に、キャリアアップするタイプの転職や資格の取得、環境の改善への行動は全くしない。
だから、昇進も昇給もしない。
それなのに、祥司に向かってこう言うのだ。
――祥司は良いよな。祥司はすごいよな。って、すごく軽い調子で。
時代が変わっても、男は社会的なステータスで価値を測られる現実は残っている。
それが分かっているから、祥司は祥司なりに努力した。いや、し続けている。
でも元カレの中で祥司の努力は可視化されておらず「祥司は自分とは違うすごい人間だから、当然だ」でずっと止まっていた。
……一緒に暮らしていて、祥司が持ち帰った仕事や勉強をしている姿を見ていないはずがないのに。
「祥司さん、どうしました? 固まってますけど、何かと何かで迷っているんですか?」
いつの間にか近くに戻って来ていた東海林から声を掛けられて、まさか祥司は「元カレのことを思い出していました」なんて言えるはずもなく、口から慌てたように取り繕う言葉が出た。
「いや、あの……なんかもう、見れば見るほど分からなくなって来て」
咄嗟に出た言葉にしては、現状に適していたと思う。
だって実際何を選べばいいのか分からなくなっているのは事実だ。
すると、それを聞いた東海林が「そうですか……」と小さく呟いてから、控えめな口調で提案して来た。
「もし宜しければ、『私の中で勝手に思っている祥司さんに合いそうな香水』トップ3をご提案させて頂いても宜しいですか?」
にこり、と完璧なビジネスマンスタイルで笑う祥司の顔を見て、祥司は素直に頷いた。
「あ、因みにご予算は?」
歩き出そうとした東海林がぱっと振り向いたのを見て、祥司はふっと笑う。
「劣化する前に使い切りたいので、一番小さなボトルを選ぶつもりです。だから値段は気にしないでください」
「了解です」
そう言って歩き出した背筋の伸びた男の背を、祥司はなんとなく見続けていた。
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