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第59話 国王からの勅命
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私とエレノーラ様は近衛兵に先導され、重く装飾の施された扉がゆっくりと開かれる。その先に広がる謁見の間は、荘厳な静寂と威圧的な空気感に満ちていた。
玉座の間には、重臣達が列をなし、その奥で国王クラヴェール五世が微動だにせず座している。その横にはすでに呼び出されていた勇者イグノールの姿があった。
私とエレノーラ様は玉座の前まで進み出ると、静かに跪いた。
「聖女エレノーラ、大賢者タクト、只今参上仕りました」
国王はゆったりと頷き、柔らかな声音で話す。
「……急な召喚となったこと、詫びよう。面を上げよ」
「はっ」
私とエレノーラ様は静かに顔を上げる。国王の瞳は一見すると穏やかだが、その奥にかすかな冷たさが潜んでいるように思えた。
「そなたらを呼んだのは、魔王軍討伐について最終の決定を伝えるためだ。我がクラヴェール王国は近々大軍を整え、魔王国領へと進軍する。本格侵攻は六の月より開始、順次大隊を発たせる」
「……ついに、その時が……」
私の呟きを無視するように、国王は淡々と続ける。
「勇者イグノールの一行も、この大軍の中核として討伐に参加させる。――そこでだ」
国王は視線を横のイグノールに移し、すぐに私へと鋭く向ける。その目はわずかに笑っているのに、血の気を奪われるような冷たさがある。
「勇者より、タクト殿がパーティーへの加入を拒んでいると聞いた。……相違ないか?」
「……はい。間違いございません」
「理由は、すでに別任務に就いていること。並びに勇者側・タクト殿双方の力不足――これも相違ないか?」
「はい、仰せの通りです」
国王は瞳を伏せ、わずかに玉座の上で笑みを浮かべる。臣下達は息を呑み、その場の空気がひやりと凍り付くのが分かる。
「……しかし儂には、時間がない」
低く吐かれたその一言に、空気が張り詰めた。
「よって――タクト殿。そなたは直ちに勇者イグノールのパーティーに加わり、討伐の準備に尽力せよ。これは――王国の名による、勅命である」
一瞬、頭の奥がしんと冷えた。勅命。それは拒めぬ鎖。
「勅命にございますか……」
無意識に呟く私に、国王はにこやかに微笑みかけた。
「そうだ。これは儂の声ではなく、王国クラヴェールの声だ。従わねばならぬ」
その笑みの奥に、私だけに向けられた何か冷たいものが潜んでいる気がした……。
「……承知いたしました。勅命とあらば、全力を尽くしお応えいたします」
「うむ、よくぞ申した」
国王は視線を横に移し、勇者へと問いかけた。
「勇者よ。異論はあるか?」
イグノールは一歩前に進み出ると、胸に手を当てて即座に応じる。
「はっ。何の異論もございません。タクト殿の加入により、我が剣はより鋭く振るえましょう」
「……ふふ……頼もしいことだ」
国王の笑い声は小さく、しかし底知れぬ不気味さがある。
重たい空気の中、沈黙を破ったのはエレノーラ様だった。彼女は一歩進み出ると、静かに跪いた。
「陛下、僭越ながらお願いがございます」
「申してみよ」
国王の声はあくまで柔らかく、それがかえって場を締め付けた。
「はっ。タクトは未だ修行の途上にございます。このままでは、勇者パーティーの足を引く恐れが……。どうか、完全合流までに一週間の猶予を賜れませんでしょうか……」
国王は目を伏せ、かすかに笑った。その笑みの奥に潜む、相手の言葉を値踏みするような影。
「……なるほど。……よかろう。聖女エレノーラ、そなたが責任を持って鍛え上げよ。加えて勇者パーティーの監督も許す」
「寛大なるお心遣い、痛み入ります」
国王の目が一瞬、私を刺すように向けられた。
「……魔王軍討伐に弱者は要らぬ。我が望みは魔王軍の完全なる殲滅だ――忘れるな」
誰に向けたのか分からぬ低い声が、私の耳に絡みつくようだった。エレノーラ様が丁重に答える。
「かしこまりました」
国王は一同を見渡し、声を張る。
「これにて閉廷とする。各自、遅れなく事を進めよ」
私とエレノーラ様は玉座に深く一礼し、静かにその場を後にした。謁見の間の扉が重く閉じられた後、待っていたイグノールが無言で私達を見つめていた。その瞳は自信に満ちている。
「タクト殿、聖女エレノーラ様。お話がございます。……共に来て頂けますか」
「わかりました。参りましょう」
エレノーラ様が頷き、私もそれに続いた。
「こちらで転移を」
イグノールが両の拳をを合わせると、私達の足元に淡い光の魔法陣が広がり、空気が揺らめく。視界が白く弾け――私達は一瞬で、その場からかき消えた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここまでお読みいただきありがとうございます!
急転直下、タクトの勇者パーティー入りが強制的に決定してしまいました……。
そして救出以来のパーティーメンバーとの対面の時を迎えます。
果たしてタクトは面々に受け入れられるのか。それとも……。次回の展開をお楽しみに。
玉座の間には、重臣達が列をなし、その奥で国王クラヴェール五世が微動だにせず座している。その横にはすでに呼び出されていた勇者イグノールの姿があった。
私とエレノーラ様は玉座の前まで進み出ると、静かに跪いた。
「聖女エレノーラ、大賢者タクト、只今参上仕りました」
国王はゆったりと頷き、柔らかな声音で話す。
「……急な召喚となったこと、詫びよう。面を上げよ」
「はっ」
私とエレノーラ様は静かに顔を上げる。国王の瞳は一見すると穏やかだが、その奥にかすかな冷たさが潜んでいるように思えた。
「そなたらを呼んだのは、魔王軍討伐について最終の決定を伝えるためだ。我がクラヴェール王国は近々大軍を整え、魔王国領へと進軍する。本格侵攻は六の月より開始、順次大隊を発たせる」
「……ついに、その時が……」
私の呟きを無視するように、国王は淡々と続ける。
「勇者イグノールの一行も、この大軍の中核として討伐に参加させる。――そこでだ」
国王は視線を横のイグノールに移し、すぐに私へと鋭く向ける。その目はわずかに笑っているのに、血の気を奪われるような冷たさがある。
「勇者より、タクト殿がパーティーへの加入を拒んでいると聞いた。……相違ないか?」
「……はい。間違いございません」
「理由は、すでに別任務に就いていること。並びに勇者側・タクト殿双方の力不足――これも相違ないか?」
「はい、仰せの通りです」
国王は瞳を伏せ、わずかに玉座の上で笑みを浮かべる。臣下達は息を呑み、その場の空気がひやりと凍り付くのが分かる。
「……しかし儂には、時間がない」
低く吐かれたその一言に、空気が張り詰めた。
「よって――タクト殿。そなたは直ちに勇者イグノールのパーティーに加わり、討伐の準備に尽力せよ。これは――王国の名による、勅命である」
一瞬、頭の奥がしんと冷えた。勅命。それは拒めぬ鎖。
「勅命にございますか……」
無意識に呟く私に、国王はにこやかに微笑みかけた。
「そうだ。これは儂の声ではなく、王国クラヴェールの声だ。従わねばならぬ」
その笑みの奥に、私だけに向けられた何か冷たいものが潜んでいる気がした……。
「……承知いたしました。勅命とあらば、全力を尽くしお応えいたします」
「うむ、よくぞ申した」
国王は視線を横に移し、勇者へと問いかけた。
「勇者よ。異論はあるか?」
イグノールは一歩前に進み出ると、胸に手を当てて即座に応じる。
「はっ。何の異論もございません。タクト殿の加入により、我が剣はより鋭く振るえましょう」
「……ふふ……頼もしいことだ」
国王の笑い声は小さく、しかし底知れぬ不気味さがある。
重たい空気の中、沈黙を破ったのはエレノーラ様だった。彼女は一歩進み出ると、静かに跪いた。
「陛下、僭越ながらお願いがございます」
「申してみよ」
国王の声はあくまで柔らかく、それがかえって場を締め付けた。
「はっ。タクトは未だ修行の途上にございます。このままでは、勇者パーティーの足を引く恐れが……。どうか、完全合流までに一週間の猶予を賜れませんでしょうか……」
国王は目を伏せ、かすかに笑った。その笑みの奥に潜む、相手の言葉を値踏みするような影。
「……なるほど。……よかろう。聖女エレノーラ、そなたが責任を持って鍛え上げよ。加えて勇者パーティーの監督も許す」
「寛大なるお心遣い、痛み入ります」
国王の目が一瞬、私を刺すように向けられた。
「……魔王軍討伐に弱者は要らぬ。我が望みは魔王軍の完全なる殲滅だ――忘れるな」
誰に向けたのか分からぬ低い声が、私の耳に絡みつくようだった。エレノーラ様が丁重に答える。
「かしこまりました」
国王は一同を見渡し、声を張る。
「これにて閉廷とする。各自、遅れなく事を進めよ」
私とエレノーラ様は玉座に深く一礼し、静かにその場を後にした。謁見の間の扉が重く閉じられた後、待っていたイグノールが無言で私達を見つめていた。その瞳は自信に満ちている。
「タクト殿、聖女エレノーラ様。お話がございます。……共に来て頂けますか」
「わかりました。参りましょう」
エレノーラ様が頷き、私もそれに続いた。
「こちらで転移を」
イグノールが両の拳をを合わせると、私達の足元に淡い光の魔法陣が広がり、空気が揺らめく。視界が白く弾け――私達は一瞬で、その場からかき消えた。
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ここまでお読みいただきありがとうございます!
急転直下、タクトの勇者パーティー入りが強制的に決定してしまいました……。
そして救出以来のパーティーメンバーとの対面の時を迎えます。
果たしてタクトは面々に受け入れられるのか。それとも……。次回の展開をお楽しみに。
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