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止められない
しおりを挟む事の発端は数ヶ月前、この学園に転校生がやってきたこと。
顔が見えない程荒れたボサボサの髪。漫画のキャラクターのような分厚いレンズの眼鏡をかけた、いかにもな外見をした騒がしい奴。
名前は 天野 空と言うらしい。
まぁ別に俺はそういったタイプの人間は嫌いでは無い、好きでもない。
実害さえ無ければ何も言わず放置していただろう。
しかし、この状態はなんなんだ。一体どういうことだ。
俺以外の役員達の机の上には手をつけていない書類の山。うっすらと埃を被っている様子から、長い間役員達が手をつけるどころか生徒会室に来てすらいないことがわかる。
何故彼等が生徒会室に来ないかというと、全てあの転校生が関わっていた。
なんと、役員一人一人を虜にし惚れさせてしまっていたのだ。
まず副会長は愛想笑いを転校生に指摘されていた。
「そんな無理矢理作った笑顔を向けられたって嬉しくねぇよ!笑顔ってのは自然にできるもんだろ!」
最初はご自慢の作り笑いを指摘され苛立っていた様だが、次第に彼に絆されていた。
何やら偽物の愛想のいい自分ではなく本当の自分を見てくれたことが心底嬉しかったらしい。
長い間仮面を被り演じてきたようなものだから、素の自分を見てくれた転校生に惹かれたのだろう
会計は女遊びを。書記は話し方を。そしてとても似た双子の庶務を見事に何度も見分け当てることが出来ていた。本当の自分を見抜いてくれたと、嬉しそうに。彼と話している皆はとても楽しそうに笑っていた。
彼等も俺と同じ、媚びばかり売られ、人の気持ちを、好意を信じることが出来なくなっていたのだろう。きっと寂しい思いをしてただろう。
だからこそそんな彼等を、転校生のところに行く皆を、無理に引き止めることなんて俺には出来なかった。
何も、言うことが出来なかった。
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