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25・卑怯者への鉄槌 後

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『おおっと!? これはどうした事だ! クリムの攻撃がエールティアに全く届かない! 先程までのギリギリ回避しきれていない動きとはかなり違うぞ!!』

 クリム先輩の斬撃と炎や雷の魔導が放ってくるのを避け続けながら、彼に相応しい魔導を考えていく。今までと違ってそっちに意識を集中させてるから、クリム先輩には最低限の動きで対応している。

「くそっ……くそっ……なんでだ……!」

 呟きながら焦りが徐々に攻撃が雑になってきてる。集中が乱れて来てる証拠ね。今までとは違って精彩に欠いた動きの彼は、更に焦る。

「動きが悪くなってるわよ? クリム先輩」
「黙れ! 『ヒートブレイド』!」

 相変わらず稚拙な魔法を繰り出す彼が次に放ってきたのは炎の剣。襲ってくるそれに身が包まれて……何喰わない顔で出てくる私にクリムはより一層苛立ちを露わにしていく。

「畜生……! なんで……なんで効かない!」
「貴方程度の魔法が通じる訳、ないでしょう? でも、そろそろ良い頃合いね。貴方に相応しい終幕は決まったわ」

 炎の魔法を好んで扱う彼に終わりを与える一撃を……。

 イメージするのは氷の地獄。流れてくる嘆きの水が対象を凍らせ、その重すぎる罪を氷の棺へと封じ込める。地の獄。凍てつく深き闇の底へ――

「『コキュートス・プリズン』」

 氷の牢獄をしっかりとイメージしたけど、練り上げる魔力は最低限発動出来るだけに抑える。そうしないと確実にクリム先輩は凍死しちゃうだろうからね。

『な、なんですかねこれ……さ、寒い……! 寒いですよ!!』

 ゴブリン族の司会が寒さに震えてるけれど、仕方ない。だって、これで一番低威力なんだもの。
 会場全体が寒さで包まれて、クリム先輩の頭上には氷の檻が構築されていってる。それは彼もわかってるようで、どうにかしようとしてるみたいだけど――

「く、くそっ……足が……! 『フレイ……ム、イン……パクト』!」

 クリム先輩の足は地面に縫い付けられるように凍って、逃げる事すら一切出来ない。炎のちゃちな魔導を使って溶かそうとしてるけれど、全く効果がない。

「ちっ……く……しょう……!」

 完成した氷の檻は、クリム先輩を閉じ込めるように降りて行って……彼は見事に囚われの身になった。しーんと静まり返った会場の中で、私は一人、佇んでいた。クリム先輩は――寒さのあまり言葉を口にすることすらできないだろうね。今も少しずつ彼の身体を凍らせていってるんだから。

「さて、クリム先輩。降参されますか?」

 負けを認めるように訴えかけてみたけど、クリム先輩は反抗的な目で私の事を見てきている。この期に及んで、彼は諦めてないみたいだ。

「そう……決闘のルールでは死んでも負け、だったわよね?」
『……ええ。その通りです』

 決闘官の方を向いて、大きな声で質問すると、彼はただ淡々と頷いて答えてくれた。なら……私のとるべき道は決まってる。

「なら、このままクリム先輩が死ぬのを待ちましょう。それで……私の勝ちね」

 クリム先輩の顔をしたから覗き込んで、凍るような冷たい笑みを浮かべてあげると、今までの反抗的な態度が嘘のように収まって……彼の目には死の恐怖への怯えだけが残った。騒然としてる観客の事なんか知ったことじゃない。元々クリム先輩が提案したルールだからね。

「先輩。一つだけ教えてあげましょう」

 観客には聞こえないようにそっと氷の檻に近づいて、小声で話しかけてあげる。努めて優しく。母親が子供に言い聞かせるように。

「殺し合いっていうのはですね……おままごとでは済まされないんですよ」

 クリム先輩は今、じわじわと身体の感覚がなくなっていく苦しみを味わっているはず。少しずつ死に近づいていく……。常人にそれが耐えられる訳がない。だからこそ……じっくりと恐怖の味を愉しんだ彼を氷の檻から出してあげた。会場に一気に温かさが戻ってくる。四つん這いになってぜいぜい息を切らせているクリム先輩の前に立つと、彼は腰を抜かしたように私を見上げていた。

「まだ……続けますか?」
「い、いや……僕の――いや、俺の……負けだ……」
「そうですか。では……私の勝ちで、間違いないですね?」

 項垂れるように負けを認めた彼に念押しするように確認した私に、クリム先輩は静かに頭を縦に振った。わざと会場中に聞こえるように言った私の声は、静まり返った会場響いて――

『今回の決闘。クリム・アレフの降伏によって、勝者をエールティア・リシュファスとします』

 ――アルデ決闘官の言葉によって、今回の決闘は私の勝利で幕を降ろした。

 静かだった会場は、割れんばかりの歓声に包まれた。私の名前が響き渡る。

『決まったぁぁぁぁぁっっ!! エールティアのか・ん・ぜ・ん・勝利ぃぃぃぃっっ!! この新入生の強さは、一級品だぁぁぁっっ!』

 司会がさらに煽って、会場は一層盛り上がっていく。

「……本当は目立ちたくなかったんだけど――」

 やっぱり、私の性分的にそういう訳にはいかないみたい。半ば諦め状態になった私は、この歓声の雨に向かって笑いかける事でとりあえずこの場を取り繕うことにした……。
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