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62・始まりし宴
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決闘申請書を提出して数日が経ったペストラの11の日。私はジュールと一緒に雪桜花が誇る闘技場へとやってきた。
あの申請書を提出して僅か三日の出来事。かなり早い時間に成立したそれは、選ばれた決闘官が単純に近くにいたから……そういう理由だったらしい。
「なんだか、ドキドキしてきましたね」
緊張しているのか、いつもと違って覇気のないジュールは、視線を彷徨わせながら闘技場を眺めていた。
ここのところずっとそうだ。私の顔を見たら犬がぶんぶん尻尾を振って喜ぶように駆け寄ってくるのに、最近の彼女は妙に萎んでいた。
私の顔を見ると何故か複雑そうな顔をしてくるのだもの。嬉しさと悲しさがないまぜになっているような、そんな感じ。
私としては余りべたべたとしなくなって嬉しかったけど、いつもと違う彼女の様子は奥歯に物が挟まったような感じがしてならない。
「ジュール、少しは落ち着きなさい。もうすぐ決闘の時間。心を平静にして望まないと、勝てる試合も勝てないわよ?」
「……はい」
私の言葉に辛うじて頷いたジュールの顔を見て、今は何を言っても無駄だろうなと悟った。実際戦えば変わるかもしれない。それでもダメなら……私がなんとかすれば良い。これが先に二回勝った方が勝者という三回勝負で本当に良かったと改めて思った。
そうじゃなかったら負けたたかもだからね。
どうにも緊張が解れないジュールと一緒に闘技場の中を通って、進んでいく。ティリアースの学園にある決闘場よりも、ここはずっと広い……のだけれど、似た感じの構造で、結構わかりやすかった。
――ジュールはあんな感じだし、私がしっかりしないといけないわね。
あまりやる気のない者に期待する事はできない。それでも、彼女は私の契約スライムなのだもの。きっと……多分大丈夫なはずだ。
――
『まもなく決闘の時間を迎えようとしている中、会場である闘技場には多くのお客様が集まっておりますね。ああ、申し遅れました。本日決闘の司会をやらせていただきます、わたくしは花夏・飯綱と申します』
司会は珍しく淡い黄色の髪の鬼人族で、角は一本。どこか幼さと大人の魅力を備えている女性だ。その隣にいるのは……白い髪に髭を蓄えた筋肉――もとい、ドワーフ族の男性だった。服の上からでもわかる程の肉体だけで、よく訓練されてるのが伝わってくる。彼自身もそれなりの実力者なのだろう。
『今回の決闘はアルドロ・グレッセン決闘官によって執り行われる予定となっております。グレッセン決闘官』
『おう! あー、紹介された通り、わしが決闘官のアルドロ・グレッセンじゃ。今回は一風変わった戦いになりそうじゃからな。どうなるか、今から楽しみじゃわい!』
『それでは、決闘を行う方々を紹介したいと思います。まずは――』
がっはっは、と笑い声を上げ自己紹介を終えると、司会の飯綱は私達の名前を順々に読み上げていく。その度に歓声が湧き上がって、とうとう私の番になった。
堂々と闘技場の中に入ると、やっぱり学園の決闘場を大きくしたような感じの光景が広がった。あの時よりも観客は熱狂的で、その大半が鬼人族だ。流石、喧嘩好きな種族なだけはある。
「ようやく、戦えるな」
私達に向かい合うように立っていたのは雪雨と……あの時、目立たないように部屋の隅に座っていた男だった。飯綱に呼ばれた名前は……黒鬼と呼ばれていた。
「あの時と、随分と顔つきが違いますね」
私の言葉に雪雨は獰猛な笑みを隠そうともせずに殺気を放っていた。凄いプレッシャーを感じる。これは……明らかにハクロよりも上の存在だった。
あの時の嫌な男とは全く違う。血に飢えた狼のような鋭さを宿しているそれを見た私はある程度理解した。これが彼の本当の姿なんだったのだと。
「ああ。どれほどこの時を待ち焦がれていた事か……! 早くやりたくてうずうずしている……けどよ、その前にやらなきゃならねぇ事があるよな」
雪雨の視線に射抜かれたジュールは、明らかに臆していた。この様子じゃ……満足な戦いはまず出来ないだろうね。
それを見た雪雨は心底がっかりしたような表情で改めて私の事を見てきた。
「ここまで来たら、もうわかってるよな? 俺を退屈させたらどうなるか……」
「さあてね。貴方は私の事、少し買い被ってるかもしれないわよ?」
「はっ、抜かせ。俺の威圧を受けて涼しい顔で立ってる奴はそうそういねぇよ」
「あら、子供が睨んでるだけかと思ったんだけど……一生懸命威圧してたのね」
両手を軽く合わせてにこやかに笑ってあげると、一瞬ぽかんとした雪雨はより一層牙を剥くような笑いを見せてきた。
『それでは、ジュール選手と雪雨選手以外のお二人は、後ろに下がってください!』
私達がたわいない舌戦をしている間に、時間になった事を飯綱司会者が知らせてくれた。
雪雨の方に軽く視線を向けて……特に何もいう事なく私は後ろに下がった。
……後は、ジュール次第だ。頑張らなくて良い。無理をしないでくれればそれで……それだけで、いい。
あの申請書を提出して僅か三日の出来事。かなり早い時間に成立したそれは、選ばれた決闘官が単純に近くにいたから……そういう理由だったらしい。
「なんだか、ドキドキしてきましたね」
緊張しているのか、いつもと違って覇気のないジュールは、視線を彷徨わせながら闘技場を眺めていた。
ここのところずっとそうだ。私の顔を見たら犬がぶんぶん尻尾を振って喜ぶように駆け寄ってくるのに、最近の彼女は妙に萎んでいた。
私の顔を見ると何故か複雑そうな顔をしてくるのだもの。嬉しさと悲しさがないまぜになっているような、そんな感じ。
私としては余りべたべたとしなくなって嬉しかったけど、いつもと違う彼女の様子は奥歯に物が挟まったような感じがしてならない。
「ジュール、少しは落ち着きなさい。もうすぐ決闘の時間。心を平静にして望まないと、勝てる試合も勝てないわよ?」
「……はい」
私の言葉に辛うじて頷いたジュールの顔を見て、今は何を言っても無駄だろうなと悟った。実際戦えば変わるかもしれない。それでもダメなら……私がなんとかすれば良い。これが先に二回勝った方が勝者という三回勝負で本当に良かったと改めて思った。
そうじゃなかったら負けたたかもだからね。
どうにも緊張が解れないジュールと一緒に闘技場の中を通って、進んでいく。ティリアースの学園にある決闘場よりも、ここはずっと広い……のだけれど、似た感じの構造で、結構わかりやすかった。
――ジュールはあんな感じだし、私がしっかりしないといけないわね。
あまりやる気のない者に期待する事はできない。それでも、彼女は私の契約スライムなのだもの。きっと……多分大丈夫なはずだ。
――
『まもなく決闘の時間を迎えようとしている中、会場である闘技場には多くのお客様が集まっておりますね。ああ、申し遅れました。本日決闘の司会をやらせていただきます、わたくしは花夏・飯綱と申します』
司会は珍しく淡い黄色の髪の鬼人族で、角は一本。どこか幼さと大人の魅力を備えている女性だ。その隣にいるのは……白い髪に髭を蓄えた筋肉――もとい、ドワーフ族の男性だった。服の上からでもわかる程の肉体だけで、よく訓練されてるのが伝わってくる。彼自身もそれなりの実力者なのだろう。
『今回の決闘はアルドロ・グレッセン決闘官によって執り行われる予定となっております。グレッセン決闘官』
『おう! あー、紹介された通り、わしが決闘官のアルドロ・グレッセンじゃ。今回は一風変わった戦いになりそうじゃからな。どうなるか、今から楽しみじゃわい!』
『それでは、決闘を行う方々を紹介したいと思います。まずは――』
がっはっは、と笑い声を上げ自己紹介を終えると、司会の飯綱は私達の名前を順々に読み上げていく。その度に歓声が湧き上がって、とうとう私の番になった。
堂々と闘技場の中に入ると、やっぱり学園の決闘場を大きくしたような感じの光景が広がった。あの時よりも観客は熱狂的で、その大半が鬼人族だ。流石、喧嘩好きな種族なだけはある。
「ようやく、戦えるな」
私達に向かい合うように立っていたのは雪雨と……あの時、目立たないように部屋の隅に座っていた男だった。飯綱に呼ばれた名前は……黒鬼と呼ばれていた。
「あの時と、随分と顔つきが違いますね」
私の言葉に雪雨は獰猛な笑みを隠そうともせずに殺気を放っていた。凄いプレッシャーを感じる。これは……明らかにハクロよりも上の存在だった。
あの時の嫌な男とは全く違う。血に飢えた狼のような鋭さを宿しているそれを見た私はある程度理解した。これが彼の本当の姿なんだったのだと。
「ああ。どれほどこの時を待ち焦がれていた事か……! 早くやりたくてうずうずしている……けどよ、その前にやらなきゃならねぇ事があるよな」
雪雨の視線に射抜かれたジュールは、明らかに臆していた。この様子じゃ……満足な戦いはまず出来ないだろうね。
それを見た雪雨は心底がっかりしたような表情で改めて私の事を見てきた。
「ここまで来たら、もうわかってるよな? 俺を退屈させたらどうなるか……」
「さあてね。貴方は私の事、少し買い被ってるかもしれないわよ?」
「はっ、抜かせ。俺の威圧を受けて涼しい顔で立ってる奴はそうそういねぇよ」
「あら、子供が睨んでるだけかと思ったんだけど……一生懸命威圧してたのね」
両手を軽く合わせてにこやかに笑ってあげると、一瞬ぽかんとした雪雨はより一層牙を剥くような笑いを見せてきた。
『それでは、ジュール選手と雪雨選手以外のお二人は、後ろに下がってください!』
私達がたわいない舌戦をしている間に、時間になった事を飯綱司会者が知らせてくれた。
雪雨の方に軽く視線を向けて……特に何もいう事なく私は後ろに下がった。
……後は、ジュール次第だ。頑張らなくて良い。無理をしないでくれればそれで……それだけで、いい。
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