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64・ストレスの溜まる戦い
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ジュールが圧倒的な暴力の雨に晒された後の事。敗北してすぐに、場は整えられた。
二回戦目――私と黒鬼は闘技場の中央で向かい合っていた。
互いに話す事もない。彼はその名の通り、短い黒い髪とほんの少し灰色に近い黒い目をしていた。あまり感情を見せないぼんやりとした瞳を私に向けていた。
『それでは続いて二戦目。エールティア選手対黒鬼選手と戦いを始めたいと思います。グレッセン決闘官』
『おう。それでは第二戦……開始じゃ!』
その瞬間、黒鬼は一気に私に向かって駆け出してきた。先程の雪雨と同じくらいの速さで迫って、一気に拳を振りかざす。
「……私を馬鹿にしているのかしら?」
あまりにも酷い戦い方に、私も思わず無造作に手で払い除けて足を引っ掛けてやった。
「……っ!?」
黒鬼の方も動きに対応される事は読んでいたのか、そのまま前のめりに転がって体勢を立て直した。
改めて対峙する私達だけれど……それだけで大体彼の思惑が透けて見えてきた。
要は私があの動きについて来れるかどうか試してきた、という訳だ。
黒鬼は私の実力を測ろうとしている。それは雪雨の動きをそのまま真似てきたところを見ると丸わかりだ。
――全く、私も舐められたものね。
この程度の動き、ついて来れない訳がない。いくらジュールが無様を晒したとはいえ、私まで同じ程度だと思うのは浅はかが過ぎるだろう。
「どうしたの? かかっていらっしゃいな。少し遊んであげましょう」
私の言葉の途中で鋭い突きが飛んできたけれど、それを涼しい顔で受け止めて、気にしていないように言葉を紡いだ。
幾度となく拳と蹴りの連携を繰り出す……のだけれど、その全てが私にとって遅い。雪雨ではないけれど、武器を使う必要すらない。
「……なるほど。御方が戦いを求められる理由がわかる」
ぽつり、と黒鬼は攻勢を続けながら呟いた。表情はあくまで変わらない。飛ぶように後ろに下がった黒鬼に向かって、私はあくまでゆっくりと歩み寄ってやる。
「『火土・地走り』」
黒鬼の魔法が発動して、地を走る大きな炎の刃が襲い掛かってきた。あれは……鬼人族だけが使える鬼道と呼ばれる類の魔法だ。魔導が中心となっているこの世の中でも種族のみが使える固有の能力はそれなりに有効らしい。
それに加えて魔導の基礎たるイメージの構築を行う事で、その威力を更に高めて発動させる事が出来るのは私も知ってる。多分、ハクロの『狐火』や『殺生石』も同じ類だと思う。
あっさり避けた私は、そろそろ決着をつけるべく一気に行動を移す事にした。身を屈めて、一気に駆け出す。
武器も魔導も必要ない。この拳のみで……終わらせる!
今まで黒鬼の速度に合わせた戦闘を行っていた私は、左右にジグザグに走ったり止まったり……激しい緩急を付けながら速やかに迫っていく。
「『火風・鎌鼬』」
生み出された複数の風と火が混ざったような刃が襲いかかってくるけど、それを難なく避け続け、黒鬼の目の前に躍り出る。
「『土土――』」
「ここで魔法を――」
ほとんど力を込めていない最速の一撃。ただ速さだけを追い求めた指で突くだけの攻撃だけれど、彼の喉に見事に当たり、詠唱を途中で止める事に成功した。
喉に受けた衝撃に、少し咳き込みながら私を睨んでるけど……そこで身体が動かないのが彼の限界と言えるだろう。
「おやすみなさい」
黒鬼が動きを止めている間に、私は彼の足を刈るように蹴りを繰り出し、再び倒れかけている姿を確認する。
受け身も取れずにいる黒鬼を追撃するべく足を振り上げて――
「ま、ってくれ!」
黒鬼から掠れた……だけど出来る限り大きな声を上げて私に訴えかけてきた。振り下ろされた足は、彼の顔に当たる寸前で動きを止める。別に彼に『待ってくれ』と言われたからじゃない。その顔を見て……次に何を言ってくるかがわかった。それだけだった。
「……参った。私の負けだ」
しばらくの間、沈黙が周囲に立ち込めたけれど……眼前に迫る踵に恐怖を感じたのか、会場に響くだけの声で黒鬼は自らの負けを宣言した。
『……試合、終了ですね』
『しょ、勝者、エールティア選手!』
グレッセン決闘官の声が響き渡ったと同時に割れんばかりの歓声をが響き渡る。
ゆっくりと私が足をどけると……黒鬼は相変わらずぼんやりとした表情を浮かべていて、そこに恐怖は何一つなかった。
「……どういうつもり?」
彼の声で怖がっているのかと思ったけど、そんな事は全くなかった。うまいものだと思うけれど、気に入らない。
「私の役目は貴女の力を見極め、御方の相手に相応しいか見定める事。そして、それは確かに証明された。これ以上、私が戦う理由はない」
それだけ言って、黒鬼はさっさと下がっていってしまった。
最初から、彼はその為だけに戦いにきた……という訳か。黒鬼は本気を見せずに、私の実力を垣間見た……そういう風に見てとれるだろう。
結果だけ見たら私の勝ちなんだけど、素直に喜ばないなぁ……。
まあ、でもいいか。まだ……メインディッシュが残ってるもの。
二回戦目――私と黒鬼は闘技場の中央で向かい合っていた。
互いに話す事もない。彼はその名の通り、短い黒い髪とほんの少し灰色に近い黒い目をしていた。あまり感情を見せないぼんやりとした瞳を私に向けていた。
『それでは続いて二戦目。エールティア選手対黒鬼選手と戦いを始めたいと思います。グレッセン決闘官』
『おう。それでは第二戦……開始じゃ!』
その瞬間、黒鬼は一気に私に向かって駆け出してきた。先程の雪雨と同じくらいの速さで迫って、一気に拳を振りかざす。
「……私を馬鹿にしているのかしら?」
あまりにも酷い戦い方に、私も思わず無造作に手で払い除けて足を引っ掛けてやった。
「……っ!?」
黒鬼の方も動きに対応される事は読んでいたのか、そのまま前のめりに転がって体勢を立て直した。
改めて対峙する私達だけれど……それだけで大体彼の思惑が透けて見えてきた。
要は私があの動きについて来れるかどうか試してきた、という訳だ。
黒鬼は私の実力を測ろうとしている。それは雪雨の動きをそのまま真似てきたところを見ると丸わかりだ。
――全く、私も舐められたものね。
この程度の動き、ついて来れない訳がない。いくらジュールが無様を晒したとはいえ、私まで同じ程度だと思うのは浅はかが過ぎるだろう。
「どうしたの? かかっていらっしゃいな。少し遊んであげましょう」
私の言葉の途中で鋭い突きが飛んできたけれど、それを涼しい顔で受け止めて、気にしていないように言葉を紡いだ。
幾度となく拳と蹴りの連携を繰り出す……のだけれど、その全てが私にとって遅い。雪雨ではないけれど、武器を使う必要すらない。
「……なるほど。御方が戦いを求められる理由がわかる」
ぽつり、と黒鬼は攻勢を続けながら呟いた。表情はあくまで変わらない。飛ぶように後ろに下がった黒鬼に向かって、私はあくまでゆっくりと歩み寄ってやる。
「『火土・地走り』」
黒鬼の魔法が発動して、地を走る大きな炎の刃が襲い掛かってきた。あれは……鬼人族だけが使える鬼道と呼ばれる類の魔法だ。魔導が中心となっているこの世の中でも種族のみが使える固有の能力はそれなりに有効らしい。
それに加えて魔導の基礎たるイメージの構築を行う事で、その威力を更に高めて発動させる事が出来るのは私も知ってる。多分、ハクロの『狐火』や『殺生石』も同じ類だと思う。
あっさり避けた私は、そろそろ決着をつけるべく一気に行動を移す事にした。身を屈めて、一気に駆け出す。
武器も魔導も必要ない。この拳のみで……終わらせる!
今まで黒鬼の速度に合わせた戦闘を行っていた私は、左右にジグザグに走ったり止まったり……激しい緩急を付けながら速やかに迫っていく。
「『火風・鎌鼬』」
生み出された複数の風と火が混ざったような刃が襲いかかってくるけど、それを難なく避け続け、黒鬼の目の前に躍り出る。
「『土土――』」
「ここで魔法を――」
ほとんど力を込めていない最速の一撃。ただ速さだけを追い求めた指で突くだけの攻撃だけれど、彼の喉に見事に当たり、詠唱を途中で止める事に成功した。
喉に受けた衝撃に、少し咳き込みながら私を睨んでるけど……そこで身体が動かないのが彼の限界と言えるだろう。
「おやすみなさい」
黒鬼が動きを止めている間に、私は彼の足を刈るように蹴りを繰り出し、再び倒れかけている姿を確認する。
受け身も取れずにいる黒鬼を追撃するべく足を振り上げて――
「ま、ってくれ!」
黒鬼から掠れた……だけど出来る限り大きな声を上げて私に訴えかけてきた。振り下ろされた足は、彼の顔に当たる寸前で動きを止める。別に彼に『待ってくれ』と言われたからじゃない。その顔を見て……次に何を言ってくるかがわかった。それだけだった。
「……参った。私の負けだ」
しばらくの間、沈黙が周囲に立ち込めたけれど……眼前に迫る踵に恐怖を感じたのか、会場に響くだけの声で黒鬼は自らの負けを宣言した。
『……試合、終了ですね』
『しょ、勝者、エールティア選手!』
グレッセン決闘官の声が響き渡ったと同時に割れんばかりの歓声をが響き渡る。
ゆっくりと私が足をどけると……黒鬼は相変わらずぼんやりとした表情を浮かべていて、そこに恐怖は何一つなかった。
「……どういうつもり?」
彼の声で怖がっているのかと思ったけど、そんな事は全くなかった。うまいものだと思うけれど、気に入らない。
「私の役目は貴女の力を見極め、御方の相手に相応しいか見定める事。そして、それは確かに証明された。これ以上、私が戦う理由はない」
それだけ言って、黒鬼はさっさと下がっていってしまった。
最初から、彼はその為だけに戦いにきた……という訳か。黒鬼は本気を見せずに、私の実力を垣間見た……そういう風に見てとれるだろう。
結果だけ見たら私の勝ちなんだけど、素直に喜ばないなぁ……。
まあ、でもいいか。まだ……メインディッシュが残ってるもの。
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