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71・お祭りの日
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出雲屋敷での話し合いを終えた次の日の夕方頃。ペストラの13の日。ここに来る前から少し楽しみにしていた祭りが始まる。
「お嬢様。ご準備は出来ておりますか?」
「ええ。問題ないわ」
この日の為に用意した着物は私の黒い髪と相反するような白くて美しい物に仕上がっていた。薄い水色は流れる川のようになっていて、ほんのりピンクの桜が幾つか花を咲かせている。
着付けは鬼人族の女性にやって貰って……長い髪も上の方で丸く結って垂らしてる。自分で言うのもなんだけど、相当可愛く仕上がったのではないだろうか?
現にお母様にも「まあ……エールティアってば、こんなに綺麗になって……」なんて感激してたくらいだからね。
せっかく雪雨に案内させるんだし、ジュールにも楽しんでもらおうと思ったんだけど、やっぱりあんまり乗り気がしないみたいで、どこか寂しそうな笑顔を浮かべながら――
「エールティア様だけでお楽しみください。私には……不似合いな場所ですので」
なんて言って、全く聞く耳を持ってくれなかった。あの手この手で誘い方を変えても全く無駄。最終手段にも等しかった「ジュールと一緒に行きたかったんだけどなぁ……」って言葉も――
「……申し訳ございません」
って断られてしまった。結構感情が揺さぶられたみたいで、迷ってはいたんだけど……私と彼女の仲では、一度遠くなった距離を縮める事は中々出来ないみたいだ。こうなっては焦っても仕方がない。結局、今回は諦めて雪雨と二人きりで行くことにした。
お父様は男の子と二人で……なんて結構反対してたけれど、エルデはお父様に付いておかないとだし、お母様はお父様と一緒にいたそうだった。
それをわかっていても認めたくなかった様子のお父様は、最後には渋々頷いてくれた。それだけ心配されてるところ悪いのだけれど、雪雨に恋愛感情なんて一切ない。
むしろあの邂逅で下がったものが決闘で多少上がっても……ねぇ。
友人として付き合う分には全く構わないけれど、それ以上はあり得ない。
「またせた、な……」
昨日帰る前に約束の時間を決めておいたおかげか、丁度の時間に彼はやってきた。一瞬何か言いかけたけれど、惚けた表情でぼんやりとしてるものだから、私の方もどうしたのかな? と首を傾げた。
「雪雨?」
「――っ! い、いや、悪い。何でもねぇよ」
ハッとした表情をしたかと思うと、頭をがしがしと強く掻きながらどこか適当な空を見上げている。ちょっと顔が赤くなってたけど……やはり、彼の目からしてもこの着物の私は可愛いのかもしれない。
そんな風に思っていると、彼はいつの間にか正気を取り戻したような顔をしていた。
「お前、着物だと結構変わるものだな。似合ってるぞ」
「そう? ありがとう」
また少し顔を赤くした雪雨に、ちょっとした悪戯をしてみたくなってきた。
「もしかして……惚れた?」
「いや、それは無いわ」
急に真顔になって言ってくるんだから、今度は少し腹がたった。なにもそこまではっきりと言わなくてもいいのに、と思うくらいだ。
「お前さ、俺が惚れたなんて本気で思ってたのか?」
「いえ、全く」
「だろうが。確かにお前は可愛いけどよ……どっちかっていうと妹だな」
はっはっはっ、と笑ってくる雪雨の言ってる事にはどうも納得が出来ない。
「どっちかと言うとお姉さんじゃない?」
「ないな。ないない」
気軽に否定してくるけど、彼が兄というのもちょっと――いや、かなり違和感があると思うんだけど。
「それよりさ、行こうぜ。祭り、もう始まってるからさ」
雪雨は親指をくいっとさせて行く方向を指し示しながらにやり、と笑ってきた。確かに、ひとしきり馬鹿な話もしたし……そろそろ行くとしようか。
「そうね。あ、ところで……今やってる祭りってどういう祭りなの?」
歩き出した雪雨の少し後ろをついて行くようにしながら、お祭りについて聞いてみると、雪雨は意気揚々と答えてくれる。
「雪桜花には死んだ者はこの世界に留まり、ペストラの13~15の日の送魂祭に参加する。生者と最期に飲んで食って大騒ぎして、この国にある川に草や木で作った小さな船を流す『霊船流し』で死者を黄泉幽世って呼ばれてる死者の世界に送り出すお祭りだ」
「それって葬式と何か違うの?」
「葬式は静かに行うものだろう。送魂祭は出来るだけ派手に見送る為にやるものだ。肉体は葬式で地に還り、魂は送魂祭で死者の世界に逝く。雪桜花の常識だ」
へぇー、とか言いながら感心した声を上げてしまった。雪雨がそれだけ色々知ってるのが意外だった……というのもあるけど、そんな重要な意味がこもったお祭りだとは知らなかった。
「そんなお祭りに私みたいな他国の人が入ってもいいの?」
「鬼人族ってのは騒がしい方が好きなんだよ。色んな奴らに見送られて黄泉幽世に逝けるんなら、本望だろうよ」
その言葉には、自分もいずれそうなるんだ……っていう響きが入っているように感じたのは、私が少し感傷的になったかもしれない。
「お嬢様。ご準備は出来ておりますか?」
「ええ。問題ないわ」
この日の為に用意した着物は私の黒い髪と相反するような白くて美しい物に仕上がっていた。薄い水色は流れる川のようになっていて、ほんのりピンクの桜が幾つか花を咲かせている。
着付けは鬼人族の女性にやって貰って……長い髪も上の方で丸く結って垂らしてる。自分で言うのもなんだけど、相当可愛く仕上がったのではないだろうか?
現にお母様にも「まあ……エールティアってば、こんなに綺麗になって……」なんて感激してたくらいだからね。
せっかく雪雨に案内させるんだし、ジュールにも楽しんでもらおうと思ったんだけど、やっぱりあんまり乗り気がしないみたいで、どこか寂しそうな笑顔を浮かべながら――
「エールティア様だけでお楽しみください。私には……不似合いな場所ですので」
なんて言って、全く聞く耳を持ってくれなかった。あの手この手で誘い方を変えても全く無駄。最終手段にも等しかった「ジュールと一緒に行きたかったんだけどなぁ……」って言葉も――
「……申し訳ございません」
って断られてしまった。結構感情が揺さぶられたみたいで、迷ってはいたんだけど……私と彼女の仲では、一度遠くなった距離を縮める事は中々出来ないみたいだ。こうなっては焦っても仕方がない。結局、今回は諦めて雪雨と二人きりで行くことにした。
お父様は男の子と二人で……なんて結構反対してたけれど、エルデはお父様に付いておかないとだし、お母様はお父様と一緒にいたそうだった。
それをわかっていても認めたくなかった様子のお父様は、最後には渋々頷いてくれた。それだけ心配されてるところ悪いのだけれど、雪雨に恋愛感情なんて一切ない。
むしろあの邂逅で下がったものが決闘で多少上がっても……ねぇ。
友人として付き合う分には全く構わないけれど、それ以上はあり得ない。
「またせた、な……」
昨日帰る前に約束の時間を決めておいたおかげか、丁度の時間に彼はやってきた。一瞬何か言いかけたけれど、惚けた表情でぼんやりとしてるものだから、私の方もどうしたのかな? と首を傾げた。
「雪雨?」
「――っ! い、いや、悪い。何でもねぇよ」
ハッとした表情をしたかと思うと、頭をがしがしと強く掻きながらどこか適当な空を見上げている。ちょっと顔が赤くなってたけど……やはり、彼の目からしてもこの着物の私は可愛いのかもしれない。
そんな風に思っていると、彼はいつの間にか正気を取り戻したような顔をしていた。
「お前、着物だと結構変わるものだな。似合ってるぞ」
「そう? ありがとう」
また少し顔を赤くした雪雨に、ちょっとした悪戯をしてみたくなってきた。
「もしかして……惚れた?」
「いや、それは無いわ」
急に真顔になって言ってくるんだから、今度は少し腹がたった。なにもそこまではっきりと言わなくてもいいのに、と思うくらいだ。
「お前さ、俺が惚れたなんて本気で思ってたのか?」
「いえ、全く」
「だろうが。確かにお前は可愛いけどよ……どっちかっていうと妹だな」
はっはっはっ、と笑ってくる雪雨の言ってる事にはどうも納得が出来ない。
「どっちかと言うとお姉さんじゃない?」
「ないな。ないない」
気軽に否定してくるけど、彼が兄というのもちょっと――いや、かなり違和感があると思うんだけど。
「それよりさ、行こうぜ。祭り、もう始まってるからさ」
雪雨は親指をくいっとさせて行く方向を指し示しながらにやり、と笑ってきた。確かに、ひとしきり馬鹿な話もしたし……そろそろ行くとしようか。
「そうね。あ、ところで……今やってる祭りってどういう祭りなの?」
歩き出した雪雨の少し後ろをついて行くようにしながら、お祭りについて聞いてみると、雪雨は意気揚々と答えてくれる。
「雪桜花には死んだ者はこの世界に留まり、ペストラの13~15の日の送魂祭に参加する。生者と最期に飲んで食って大騒ぎして、この国にある川に草や木で作った小さな船を流す『霊船流し』で死者を黄泉幽世って呼ばれてる死者の世界に送り出すお祭りだ」
「それって葬式と何か違うの?」
「葬式は静かに行うものだろう。送魂祭は出来るだけ派手に見送る為にやるものだ。肉体は葬式で地に還り、魂は送魂祭で死者の世界に逝く。雪桜花の常識だ」
へぇー、とか言いながら感心した声を上げてしまった。雪雨がそれだけ色々知ってるのが意外だった……というのもあるけど、そんな重要な意味がこもったお祭りだとは知らなかった。
「そんなお祭りに私みたいな他国の人が入ってもいいの?」
「鬼人族ってのは騒がしい方が好きなんだよ。色んな奴らに見送られて黄泉幽世に逝けるんなら、本望だろうよ」
その言葉には、自分もいずれそうなるんだ……っていう響きが入っているように感じたのは、私が少し感傷的になったかもしれない。
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