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104・魔王祭の季節

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 無事夏休みの課題を終わらせて、港町アルファスに戻った私達は、始業式を終えていつもの日常に戻っていった。
 久しぶりにレイアとも会えて、夏休みの思い出を語ったり、お父様やお母様にシルケットの事についての話もした。

 学園の授業にも真面目にこなしながら、ファオラの11の日。その日は、少しいつもとは様子が違っていた。

 ――

「今日は授業を始める前に一つ知らせておくことがある」

 ベルーザ先生が、教壇についてまず最初に口にした言葉がそれだった。改まって何を言おうとしてるんだろう?

「お前達は魔王祭の事を知っているな? 正式には『魔導学園王者決闘祭』と呼ばれているそれは、パトオラの1の日から始まり、長くても二か月後のルスピラの1の日で終わる催しだ。世界中の学園の中からたった一人を決めるその祭は、ある意味では現代版の戦争ともいえる」

 ベルーザ先生の話を聞き流しながら、少しだけ考え事をする。

 ――『魔王祭』。

 それは最初、初代魔王様に捧げる戦いの儀式だったらしい。今は気軽に戦争を起こす訳にはいかないから、この戦いで優劣を決め、後の交渉の役に立てるらしい。
 団体戦と個人戦の二種類があって、それぞれ決闘内容の差異は違うけれど、どちらも戦闘によって勝敗をつける点は同じ。

 賭ける物がないと決闘は成立しないから、大体は自分に少額の金銭を賭けるのだけれど、時折出現する馬鹿が、自分自身を賭けたりもするらしい。
 もっとも……私達にはあまり関係のない事だけどね。魔王祭には、私達一年生は参加できない。資格があるのは二年生からだ。

「お前達は来年にならないと参加資格がない。通常であれば全く関係のない催しなのだが……」

 一旦区切るように口を閉ざしたベルーザ先生は、何故か私の事を見てきた。いきなりなんで私の事を見るんだろう? 全く理解できない。

「どういった祭か気になる者も中にはいるだろう。そこで、だ。今年から一年生の中でも優秀な者は、魔王祭の見学に連れて行く事となった。ちなみにその枠はエールティアを抜きにして、だ」
「せんせー、なんでエールティアさんは抜いてるんですかー?」

 ベルーザ先生の言葉がよっぽど不思議だったのか、ネズミの尻尾と耳をした獣人族の男の子――ロメルが手を挙げて質問した。クラスのみんなが気になっているのか、私とベルーザ先生に視線が集まっていく。

「なんで……って、最初から連れて行く奴に枠を与えたら。他の奴が可哀想だろう? エールティアは特別枠として連れて行く。他に質問は?」
「え、私が行く事は確定なのですか?」

 今のベルーザ先生の答えで、殆どの人物が納得していたけれど、私の方は全く納得出来ない。
 そういう事は、一度こちらに相談するべき事だと思うのだけれど……。

「既に貴女のお父上のラディン公爵閣下からお墨付きをもらってある。娘の教育にプラスになる事であれば……と喜んでおられたぞ」

 こういう時、お父様に先に許可を貰いに行くのはずるいのではないかと思う。これでは私に選択肢がない。

「行きたくないのなら――」
「誰もそんな事は言ってません」

 私の答えににやっと笑みを浮かべるところなんてかなりいやらしい。

「はーい、先生。見学に行く人の授業はどうなるんですかー?」
「余程の事がない限り免除になる。だが、その後の試験などは免除にならないぞ。実技だけ良くても、学力が低かったら意味がないからな」

 ベルーザ先生に文句を言ってるのは、免除目当てで頑張ろうとしていた子達だろう。勉強も実技も、どっちも大事だと思うんだけどね。

「近々行われる選抜試験で優秀だった順に連れて行く予定だから励むように。エールティアも、自分に関係ないからといって、『学力試験』では手を抜かないように」


 それは逆に、実技試験では手を抜いてもいい……そういう事なんだろう。ベルーザ先生もわざわざ学力試験を強調して言ってるからね。
 私は実技だけは二年生の特別教室で受けてるし、当然と言えば当然なのかもしれない。

「それでは連絡事項は以上だ。魔王祭は普通に観戦するのも中々難しい。世界中から客が来るからな。間近で観戦したいのであれば、頑張るように」

 ベルーザ先生はそれだけ言うと、教科書を開いて授業を始め出した。

 ――

 授業も終わって昼休み。私はレイア、リュネー、ジュールの三人と一緒に食事をすることにした。

「それで、レイアちゃんも魔王祭目指して頑張るんでしょ?」

 シルケットに滞在してた時の『にゃ』が抜けて、普通の話し方になってるリュネーの言葉に、レイアはもちろんだと言うかのように頷いた。

「私も魔王祭、興味あるしね。それに……ティアちゃんと一緒なら楽しいだろうし」

 照れるような笑顔で私を見てくるレイアの言葉に、どこか気恥ずかしさを感じる。

「ジュールさんは?」
「私はエールティア様の契約スライムですから、当然――」
「選ばれなかったら、連れて行かないからね」

 まるでこの世の終わりでも見たかのような表情をしているけれど、そんなのは当たり前だ。
 選ばれなかったけれど、契約スライムとしてついて行く……そんな事を許したら、それこそ生徒の間で不満が大きくなりかねない。

「だけどジュール。貴女なら出来るから、頑張ってね」
「……はい!」

 私と一緒に行きたいなら、ジュールにも相応に頑張ってもらわないといけない。私の側にいて恥ずかしくないような彼女でいて欲しいし、ね。
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