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153・渇望する魂(雪雨side)
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雪雨はアルフの【オーバーアビリティ】を警戒しながらも、果敢に攻撃を仕掛けていく。二つの大刀の内、一つを攻撃に。もう一つを防御に回しながら、巧みに攻めていくその姿勢に、アルフは少しずつ押され始めていた。
(馬鹿な……何故、その傷でここまで動ける……!?)
魔導で酷使した身体の反動に加え、困惑と動揺が内心を揺さぶるアルフの形勢は明らかに不利だったが、それは簡単に覆る程の物だった。
雪雨は既に気を失っていてもおかしくないぐらい出血と傷が出来ていて、冷静に判断する事が出来れば死に体だと一目でわかる程、弱っていた。
それを補い隠すように鋭い斬撃。素早い動きでアルフの目を誤魔化しているだけだった。叫ぶ体力すら温存して、一心不乱に目指すのは勝利ただ一つ。意識が朦朧としていても、身体がいくら傷つこうとも……例えこの身が朽ちて滅びようとも、彼にとっては些細な事だった。
(勝つ……! 俺は、勝つ! 絶対に!!)
「くっ……しつこい! 【サンダーケージ】!」
アルフが焦って放った魔導によって、雷の檻に閉じ込められた雪雨は、『飢渇絶刀』を振り回して無理やりにこじ開ける。
「【オーバーアビリティ】!!」
先程の【ドラゴティックロア】を囮にした戦法を再び取ったアルフは、再度自身の限界を突破して一気に決着をつけようとした。
「【焔嵐……業火一閃】!!」
それを見透かすように雪雨は、アルフが近づく前に魔導を発動させた。
雪雨の目前から鋭く疾る炎が線となって襲い掛かる……が、それを引き上げた身体能力で無理やりに避けたアルフが再び【ドラゴティックロア】を放ち、同時に攻勢を仕掛けていく。
それを迎え撃つ雪雨は、襲い掛かる熱線を斬り捨て、飛んで来るアルフに向かって刃を振り下ろす。
一切の迷いもなく、強い光をその目に抱いて……互いの一撃が交差する。
――ザンッッ!
刃同士がぶつかり合うような鋭く重い音は聞こえず、どちらかの斬撃が確かに相手を切り裂いたのだという確信が周囲に広がった時、雪雨は静かにアルフの方に振り返り、堂々立ち塞がるようにアルフを睨んでいた。
対するアルフは、雪雨が振り返るより早くその身を翻し、トドメの一撃を加えようと自らが生み出した剣を振り上げ――
「そこまでだ!」
ガルドラは大声を上げると同時にアルフの目の前に立ちふさがり、装備していた小手でそれを防いだ。
『え? え? ガルちゃん??』
さっきまで隣にいたはずのガルドラがいつの間にか二人の決闘に割り込んでいた事に驚いて目を真ん丸にするシューリア。
「なぜ止める!? 決闘はまだ――」
「愚か者め。決闘など、当に終わっておるわ」
止めの一撃を止められたアルフは、内心の憤りを隠そうともせずに噛みつくように向かっていくが、それを一睨みするだけで受け流すガルドラ。
「よく見ろ。そこの鬼神族の姿を」
「……なんだと?」
少しは冷静さを取り戻したアルフが改めてじっくりと雪雨を見てみる。燃えるような感情を内面に宿したその瞳は、今でも自らの敵をしっかりと見据え、闘志を剥き出しにするその姿は……未だにアルフの心の波を荒立てる。
その様子を見て、アルフが全く分かっていないことを悟ったガルドラは深いため息を吐いた。
「わからぬか? 既に私の結界具は発動している。そして、雪雨 出雲は意識を失っている……勝敗は決した」
「……気を失っているだと? ふざけるな! あの男の目を見ろ! まだ戦いは終わっていない!」
「ならば確かめてみるといい。万が一、勝敗が決していなかったその時には……決闘官として、それ相応の責任を取ろう」
ガルドラと視線を交差させ、静かに頷いたアルフは、ゆっくりと雪雨に近寄る。今にも動き出しそうな彼に注意しながら緩やかな動きで剣先を顔に突き付ける。しかし、彼は一切動く様子はない。
軽く振り上げた【ドラゴニティソウル】を振り下ろし、寸止めをするが……それでも雪雨は一切動く気配がない。
目の奥に燃え上がるような色を宿しているように見える雪雨は、確かに気を失っていた。既に満身創痍。最後の攻防を行った時、既にその身体が限界を遥かに超えていた。それでも辛うじて保っていた意識を、アルフは確かに奪い取っていたのだ。
その事実を知ったアルフは、全身から力が抜けていくような錯覚を覚えた。倒れそうになりそうな彼の身体を支えたのは、彼自身の誇り。そして雪雨は最後まで倒れなかったのに、自分が情けない姿を晒すわけには行かないという意地だった。
「理解出来たな? 彼は結界の中で致命傷を負い、そのショックで意識を失った。勝者は……アルフ・ジェンド。お前だ」
ガルドラがはっきりと勝利宣言をしたのだが、アルフはどうにも素直に喜ぶことが出来ない。視線を向けると、そこには今なお襲い掛かってきそうなほどの迫力を秘めた雪雨が立っているのだから。
(雪雨・出雲。その名前、覚えておこう。我が好敵手として、次は必ず決着をつける。それまでは……この勝利、預かっておこう)
既に二度の【オーバーアビリティ】の使用で限界を迎えつつあった意識を無理やり保たせながら、アルフは静かに会場を後にした。そこには確かに……男として最後の一滴まで死力を尽くして産まれた思いがあった。
その後、雪雨は医療室に運ばれ、しばらくの間目覚める事はなかった……が、目覚めた瞬間、敗北を悟った彼は不満そうに文句を言いながらも、強敵に巡り合えた喜びの笑みを浮かべていた。
(馬鹿な……何故、その傷でここまで動ける……!?)
魔導で酷使した身体の反動に加え、困惑と動揺が内心を揺さぶるアルフの形勢は明らかに不利だったが、それは簡単に覆る程の物だった。
雪雨は既に気を失っていてもおかしくないぐらい出血と傷が出来ていて、冷静に判断する事が出来れば死に体だと一目でわかる程、弱っていた。
それを補い隠すように鋭い斬撃。素早い動きでアルフの目を誤魔化しているだけだった。叫ぶ体力すら温存して、一心不乱に目指すのは勝利ただ一つ。意識が朦朧としていても、身体がいくら傷つこうとも……例えこの身が朽ちて滅びようとも、彼にとっては些細な事だった。
(勝つ……! 俺は、勝つ! 絶対に!!)
「くっ……しつこい! 【サンダーケージ】!」
アルフが焦って放った魔導によって、雷の檻に閉じ込められた雪雨は、『飢渇絶刀』を振り回して無理やりにこじ開ける。
「【オーバーアビリティ】!!」
先程の【ドラゴティックロア】を囮にした戦法を再び取ったアルフは、再度自身の限界を突破して一気に決着をつけようとした。
「【焔嵐……業火一閃】!!」
それを見透かすように雪雨は、アルフが近づく前に魔導を発動させた。
雪雨の目前から鋭く疾る炎が線となって襲い掛かる……が、それを引き上げた身体能力で無理やりに避けたアルフが再び【ドラゴティックロア】を放ち、同時に攻勢を仕掛けていく。
それを迎え撃つ雪雨は、襲い掛かる熱線を斬り捨て、飛んで来るアルフに向かって刃を振り下ろす。
一切の迷いもなく、強い光をその目に抱いて……互いの一撃が交差する。
――ザンッッ!
刃同士がぶつかり合うような鋭く重い音は聞こえず、どちらかの斬撃が確かに相手を切り裂いたのだという確信が周囲に広がった時、雪雨は静かにアルフの方に振り返り、堂々立ち塞がるようにアルフを睨んでいた。
対するアルフは、雪雨が振り返るより早くその身を翻し、トドメの一撃を加えようと自らが生み出した剣を振り上げ――
「そこまでだ!」
ガルドラは大声を上げると同時にアルフの目の前に立ちふさがり、装備していた小手でそれを防いだ。
『え? え? ガルちゃん??』
さっきまで隣にいたはずのガルドラがいつの間にか二人の決闘に割り込んでいた事に驚いて目を真ん丸にするシューリア。
「なぜ止める!? 決闘はまだ――」
「愚か者め。決闘など、当に終わっておるわ」
止めの一撃を止められたアルフは、内心の憤りを隠そうともせずに噛みつくように向かっていくが、それを一睨みするだけで受け流すガルドラ。
「よく見ろ。そこの鬼神族の姿を」
「……なんだと?」
少しは冷静さを取り戻したアルフが改めてじっくりと雪雨を見てみる。燃えるような感情を内面に宿したその瞳は、今でも自らの敵をしっかりと見据え、闘志を剥き出しにするその姿は……未だにアルフの心の波を荒立てる。
その様子を見て、アルフが全く分かっていないことを悟ったガルドラは深いため息を吐いた。
「わからぬか? 既に私の結界具は発動している。そして、雪雨 出雲は意識を失っている……勝敗は決した」
「……気を失っているだと? ふざけるな! あの男の目を見ろ! まだ戦いは終わっていない!」
「ならば確かめてみるといい。万が一、勝敗が決していなかったその時には……決闘官として、それ相応の責任を取ろう」
ガルドラと視線を交差させ、静かに頷いたアルフは、ゆっくりと雪雨に近寄る。今にも動き出しそうな彼に注意しながら緩やかな動きで剣先を顔に突き付ける。しかし、彼は一切動く様子はない。
軽く振り上げた【ドラゴニティソウル】を振り下ろし、寸止めをするが……それでも雪雨は一切動く気配がない。
目の奥に燃え上がるような色を宿しているように見える雪雨は、確かに気を失っていた。既に満身創痍。最後の攻防を行った時、既にその身体が限界を遥かに超えていた。それでも辛うじて保っていた意識を、アルフは確かに奪い取っていたのだ。
その事実を知ったアルフは、全身から力が抜けていくような錯覚を覚えた。倒れそうになりそうな彼の身体を支えたのは、彼自身の誇り。そして雪雨は最後まで倒れなかったのに、自分が情けない姿を晒すわけには行かないという意地だった。
「理解出来たな? 彼は結界の中で致命傷を負い、そのショックで意識を失った。勝者は……アルフ・ジェンド。お前だ」
ガルドラがはっきりと勝利宣言をしたのだが、アルフはどうにも素直に喜ぶことが出来ない。視線を向けると、そこには今なお襲い掛かってきそうなほどの迫力を秘めた雪雨が立っているのだから。
(雪雨・出雲。その名前、覚えておこう。我が好敵手として、次は必ず決着をつける。それまでは……この勝利、預かっておこう)
既に二度の【オーバーアビリティ】の使用で限界を迎えつつあった意識を無理やり保たせながら、アルフは静かに会場を後にした。そこには確かに……男として最後の一滴まで死力を尽くして産まれた思いがあった。
その後、雪雨は医療室に運ばれ、しばらくの間目覚める事はなかった……が、目覚めた瞬間、敗北を悟った彼は不満そうに文句を言いながらも、強敵に巡り合えた喜びの笑みを浮かべていた。
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