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160・準決勝の行方

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 普段は相手が先手を取って、ベルンがそれを冷静に対処するというのが彼の戦い方だった。

 だけど今回はベルンの方から仕掛けて行った。複数の雷の球体が彼の周りを浮いていて、更に鋭い槍のような氷雨がライニーに向けて降り注いでいく。

「最初から本気で決めるみたいね」
「お兄様……」

 いつもとは違う戦い方に不安を感じたのか、リュネーは祈るように両手を合わせて決闘を見ていた。

『ふーん。この程度でライニと戦うつもりなんだ。かわいいね』
『まだまだにゃー! 【ガンズ・レイ】〈フレアチェイス〉!』

 ベルンは宙から光の熱線を次々とライニーに向けて撃ち放つ。それを追いかけるように炎が【ガンズ・レイ】に纏わりついて、より強大になって襲い掛かった。

『【ネイチャーフォース】』

 それを迎え撃つようにライニーが魔導を発動させる。その瞬間に彼女の身体の周りから緑色の光が包み込んでいく。儚げに揺れる緑の光は、彼女と合わさって幻想的に見えた。

 恐らく強化系の魔導なんだろうけれど、ベルンの動きから繰り出されたそれは、数瞬遅い。目前に迫る魔導が問答無用で彼女を貫いて……通り過ぎていった。

『にゃっ!?』
『ライニの番だね! 【ナトゥレーザ・ランサ】』

 驚いてる私達を置いてけぼりにするように放ったそれは、風・地・木・水・雷・火の六つを槍として具現化したような魔導だった。

『負けないにゃ……! 【フレアサテライト】〈シューティングスター〉!』

 慌てて守りと同時に攻撃に入ったベルンだったけれど、雷と火の球は全て槍と相打ちになって、降り注ぐ光の星は全てライニーを通過する。
 あまりな光景に、私は言葉を失ってしまった。ベルンは手を抜いている訳じゃない。むしろ全力で戦っている。

 そしてそれは……全部ライニーのを貫いている。

「な、なんで……!? なんでお兄様の魔導が……!」

 驚愕に顔を歪めているリュネーは、なんとか声を絞り出していた。気持ちはわかる。自分の自慢の兄が、なす術もないのだから。

「あれは……どうなっているのでしょうか?」

 雪風が私に答えを求めるように顔を向けてきたけれど、ここで何かを言う事はしなかった。私の言葉を聞いたリュネーがもし、大声でそれをベルンに教えたら……事態が悪化しそうな、そんな気がしたのだ。

「【ナトゥレーザ・ランサ】……! そんな。あのまど……いや、あの魔法は……!」

『これは驚いた。現代の妖精族であの魔法をここまで扱える者がいるとは……!』

 ウォルカとガルドラの驚いた声が同時に上がったけれど、あれが魔法? にわかに信じられない。以前見せてもらったそれは、魔導に比べて明らかに威力が劣ったものだった。だけど、今ライニーが使っているそれは、魔導と比べてもなんら遜色のないものだ。多分……より強くイメージして魔導として再現しているのだろう。

『ガルちゃん。知ってるの?』
『遥か昔の戦いでとある妖精の王が使っていたと言われている魔法だ。自然を司る六つの槍が敵を貫くと記述されているものだったのだが……それを魔導に昇華して放つとは……』

 ガルドラの知識が披露されている間にも、ベルンとライニーの魔導合戦はどんどん苛烈になっていく。
 手数の多いベルンに対して、ライニーは火力で吹き飛ばすような戦法を取っている。

『くっ……』
『んー、つまんないよキミ。英猫族ってこの程度?』
『言わせておけば…….!』
『もう死んでいいよ。【フレグランススモーク】』

 激昂しかけたベルンに接近したライニーは魔導を発動させた。彼女を中心に周囲にピンク色の煙が広がっていく。

『けほっ、けほけほ、な、なん、にゃ……これ……』

 最初はむせこんでいたベルンは、急にふらふらと身体をよろけさせてしまう。多分、さっきの魔導のせいだろう。致命的な隙。それを逃すようなライニーではなかった。

『ばいばい。【ラム・トルナード】』

 別れを告げたライニーが発動したのは、大きな竜巻。風の刃が無数に入り乱れるそれを直撃したベルンは、なす術もなく斬り刻まれていく。悲痛の声を上げるリュネーが飛び出しそうになるのをレイアが必死に止めていた。そのままズタボロにされていくベルンに会場は静かになって……やがて竜巻が止んで、ベルンは地面に落ちていった。

「……ベルン」

 思わず彼の名前を呼んだのは、やっぱり面識があったからだろう。激しく地面に身体を打ち付け、転がったベルンの身体事態には傷がなくなっていた。流石決闘委員会が誇る魔導具だけはある。

『決闘終――』
『まだまだ。これからだよ』

 シューリアの終了宣言をしたと同時に、ライニーは更なる追撃を仕掛けようと、魔力を身体に漲らせていた。それを見た瞬間……私の身体は弾けるようにあの戦場へと飛び出していった。
 途中でベルーザ先生の声が聞こえたけれど、そういうのは全部無視して、まっすぐ――ベルンとライニーの間に割り込む様に姿を躍らせた。

「【ナトゥレーザ・ランサ】」

 私が乱入したにも関わらず、なんの躊躇ちゅうちょもなくライニーは魔導を発動させた。
 決闘の最中に見た様々な形をした六つの槍が、まっすぐに私に向かって襲い掛かる。

 殺意の篭った本当の一撃。それが降り注いでいる中、私は――
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