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177・『風阿・吽雷』
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雪風は、新たに二つの刀――『風阿・吽雷』を手にして、お父様に向かって駆け出した。
薄緑色を帯びた刀から解き放たれて荒れ狂う風は、雪風の身体を包み込んで、最初の時とは比べ物にならない程の加速を彼女にもたらした。さっきとは目を見張る程の速さで突撃した雪風だけれど……それでもお父様を驚かせるほどではなかったみたいだ。
私が見えているように、お父様の方も雪風の動きが見えている。だけどそれは、彼女にも理解できている事だった。
「僕の力……『吽雷』!!」
鼓動した薄黄色を帯びた刀から雷が発生して、纏わりついた。なるほど、これでお父様はさっきのように紙一重で回避することも、指でつまむことも不可能になった。そんな事をしたら、手痛い反撃に遭う事は目に見えてるからね。
「これで……!!」
「一見良い手のように見える……が、それは完全に悪手というものだ」
お父様は雪風の懐に飛び込み、その速度を利用するようにカウンター攻撃を仕掛けてきた。あの時したのと同じように、雪風の『吽雷』を握っている方の腕を握るか防ぐかするつもりだろう。
「――『風阿』!!」
雪風の呼びかけと共に今度はもう一本の刀から風が……いや、彼女の身体が風に包まれて消えてなくなった。
「……! ほう――」
お父様から感心するような声が漏れたその瞬間、その背後から雪風が風の中から姿を現して、迷うことなく斬撃を放つ。その一閃はさっきの雷を纏った『吽雷』の方で、普通ならば完全に決まったと思える場面だ。雪風の表情は見えないけれど、太刀筋の方には迷いや驕りといった類のものは存在しなかった。
「良いだろう。合格だ。【アームズ・サポーター】」
お父様の魔導が発動したと同時に後ろを振り向いて――さっきと同じように、なんの躊躇いもなく『吽雷』を指でつまむ様に斬撃を防いだ。魔導名からして多分、手や腕を保護する魔導なんだろうけれど……まさかさっきの状況を再現するためだけに使うとは思わなかった。
「そんな……」
「ふふふ、いくら刀を替えても、こうすれば問題ない。両手持ちだった時も受け止められたのだから、もう少し考えないとな」
いや、あの状況でまた指でつまんでくるなんて、私でも想像できなかった。それだけ繊細に魔力を扱えるって事なんだろうけれど……ちょっとその言い分は酷いものがある。
少なくとも、私では真似出来ない行動だ。
「流石……エールティア様の父君です! この雪風 桜咲……感激しました!」
納得するような声音で、興奮しているけれど、本当にそれでいいのか? と疑問を覚えてしまう。
……まあいいか。私はわからないけれど、二人が通じ合っているならそれで。
「お父様、雪風。お疲れ様です」
「……ありがとうございます。エールティア様」
「ああ、いい運動になった。偶には外で汗を流すのもいいものだな」
雪風はかなり頑張った方だとは思うけれど、お父様にとっては運動と同じくらいのようだ。
……って言っても、あまり動いていないような気がしないでもない。
まあ、何はともあれ、無事に雪風が認められてよかった。知った顔が不合格って言われるのは、やっぱり思うところがある。
「それでは、お父様。雪風は――」
「ああ。今日からこの子はお前の下につく。それで構わないな?」
「ええ。ありがとうございます」
これで雪風は正式に私の家臣という事になった。彼女の方を見ると、嬉しさを噛み締めているようだ。
「雪風。改めてよろしくね」
「はい! 精一杯頑張ります!」
ぐっと両手を握りしめてる姿はとても可愛い。
それに和んでいる私に近寄ってきたお父様は、やけに真面目な表情をしていた。普段のお父様はあまり怒らないし、私には穏やかな笑顔をみせてくれる。
それだけに、この表情は何か嫌な予感がした。
「お父様? どうされましたか?」
「いや、お前の選択した事ならば仕方ないと思ってな」
「それはどういう……」
「ジュールはお前についていけなかった事を随分悔やんでいた。魔王祭が終わって帰ってくるまで、必死に勉学や武術に励むほどにな」
私がいない間に、ジュールがどれだけ自分を磨いてきたか伝わってはくるんだけど……お父様が何を言いたいのかがいまいちわからない。
そんな私の乏しい反応にため息を漏らしたお父様は、呆れた笑顔を浮かべていた。
「あまりジュールを放置するな。雪風にばかり構ってないで、ちゃんとあの子とも接してあげなさい。私やアルシェラの次にお前の帰りを待っていたのだから」
「……申し訳ありません」
別に蔑ろにした訳じゃないのだけれど……お父様や他の人から見てそう映っているのは不味い。特にジュールがそう思っていたら尚更だ。
館でゆっくりとした日常を過ごしたい――そんな感情を優先した結果どうなるかなんて、あまり考えたくないものだし、近いうちにジュールと一緒にどこかに出かけよう。
雪風には悪いが、出来るだけ二人っきりになるのが理想かもね。
内心でお父様に感謝しながら、ジュールと二人でどこに行こうかと思案する事にした。
薄緑色を帯びた刀から解き放たれて荒れ狂う風は、雪風の身体を包み込んで、最初の時とは比べ物にならない程の加速を彼女にもたらした。さっきとは目を見張る程の速さで突撃した雪風だけれど……それでもお父様を驚かせるほどではなかったみたいだ。
私が見えているように、お父様の方も雪風の動きが見えている。だけどそれは、彼女にも理解できている事だった。
「僕の力……『吽雷』!!」
鼓動した薄黄色を帯びた刀から雷が発生して、纏わりついた。なるほど、これでお父様はさっきのように紙一重で回避することも、指でつまむことも不可能になった。そんな事をしたら、手痛い反撃に遭う事は目に見えてるからね。
「これで……!!」
「一見良い手のように見える……が、それは完全に悪手というものだ」
お父様は雪風の懐に飛び込み、その速度を利用するようにカウンター攻撃を仕掛けてきた。あの時したのと同じように、雪風の『吽雷』を握っている方の腕を握るか防ぐかするつもりだろう。
「――『風阿』!!」
雪風の呼びかけと共に今度はもう一本の刀から風が……いや、彼女の身体が風に包まれて消えてなくなった。
「……! ほう――」
お父様から感心するような声が漏れたその瞬間、その背後から雪風が風の中から姿を現して、迷うことなく斬撃を放つ。その一閃はさっきの雷を纏った『吽雷』の方で、普通ならば完全に決まったと思える場面だ。雪風の表情は見えないけれど、太刀筋の方には迷いや驕りといった類のものは存在しなかった。
「良いだろう。合格だ。【アームズ・サポーター】」
お父様の魔導が発動したと同時に後ろを振り向いて――さっきと同じように、なんの躊躇いもなく『吽雷』を指でつまむ様に斬撃を防いだ。魔導名からして多分、手や腕を保護する魔導なんだろうけれど……まさかさっきの状況を再現するためだけに使うとは思わなかった。
「そんな……」
「ふふふ、いくら刀を替えても、こうすれば問題ない。両手持ちだった時も受け止められたのだから、もう少し考えないとな」
いや、あの状況でまた指でつまんでくるなんて、私でも想像できなかった。それだけ繊細に魔力を扱えるって事なんだろうけれど……ちょっとその言い分は酷いものがある。
少なくとも、私では真似出来ない行動だ。
「流石……エールティア様の父君です! この雪風 桜咲……感激しました!」
納得するような声音で、興奮しているけれど、本当にそれでいいのか? と疑問を覚えてしまう。
……まあいいか。私はわからないけれど、二人が通じ合っているならそれで。
「お父様、雪風。お疲れ様です」
「……ありがとうございます。エールティア様」
「ああ、いい運動になった。偶には外で汗を流すのもいいものだな」
雪風はかなり頑張った方だとは思うけれど、お父様にとっては運動と同じくらいのようだ。
……って言っても、あまり動いていないような気がしないでもない。
まあ、何はともあれ、無事に雪風が認められてよかった。知った顔が不合格って言われるのは、やっぱり思うところがある。
「それでは、お父様。雪風は――」
「ああ。今日からこの子はお前の下につく。それで構わないな?」
「ええ。ありがとうございます」
これで雪風は正式に私の家臣という事になった。彼女の方を見ると、嬉しさを噛み締めているようだ。
「雪風。改めてよろしくね」
「はい! 精一杯頑張ります!」
ぐっと両手を握りしめてる姿はとても可愛い。
それに和んでいる私に近寄ってきたお父様は、やけに真面目な表情をしていた。普段のお父様はあまり怒らないし、私には穏やかな笑顔をみせてくれる。
それだけに、この表情は何か嫌な予感がした。
「お父様? どうされましたか?」
「いや、お前の選択した事ならば仕方ないと思ってな」
「それはどういう……」
「ジュールはお前についていけなかった事を随分悔やんでいた。魔王祭が終わって帰ってくるまで、必死に勉学や武術に励むほどにな」
私がいない間に、ジュールがどれだけ自分を磨いてきたか伝わってはくるんだけど……お父様が何を言いたいのかがいまいちわからない。
そんな私の乏しい反応にため息を漏らしたお父様は、呆れた笑顔を浮かべていた。
「あまりジュールを放置するな。雪風にばかり構ってないで、ちゃんとあの子とも接してあげなさい。私やアルシェラの次にお前の帰りを待っていたのだから」
「……申し訳ありません」
別に蔑ろにした訳じゃないのだけれど……お父様や他の人から見てそう映っているのは不味い。特にジュールがそう思っていたら尚更だ。
館でゆっくりとした日常を過ごしたい――そんな感情を優先した結果どうなるかなんて、あまり考えたくないものだし、近いうちにジュールと一緒にどこかに出かけよう。
雪風には悪いが、出来るだけ二人っきりになるのが理想かもね。
内心でお父様に感謝しながら、ジュールと二人でどこに行こうかと思案する事にした。
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