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213・始竜の黄泉返り

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 あまりに唐突な決闘。最初は何かの冗談だと思ったけれど、数日後に実際に先生が決闘申請書を持ってきて、私もようやく本気なのだと悟った。

「お前な。帰ってまだ時間も経っていないのに、なんで決闘なんて事になる」
「そんな事……私が聞きたいですよ」

 受け取った決闘申請書の内容は、私にとっても衝撃的な物だった。

 ――

『決闘申請書』
 対戦相手:エールティア・リシュファス対レイア・ルーフ。
 決闘方式:一対一による武力的戦闘。
 勝敗条件:気絶・降参宣言・死亡・明らかな戦闘不能のどれかに該当した場合。
 ルール:当事者以外の第三者の介入の禁止。
 エールティアが敗北した場合:七日程夕方以降の時間をレイアと共に過ごす。
 レイアが敗北した場合:五日後に対象の国外追放の権利をエールティアに与える。それを行使しなかった場合、今後一ヶ月の自由を勝者に差し出す。

 ――

「え? な、なにこれ」

 以前の決闘申請書よりきっちりとした書き方がされていて、明らかに洗練されている……けれど、問題はそこじゃない。

「これって、認められたって事? おかしくないですか?」
「……考えてもみろ。夕方以降をあの子と過ごすとしか記載されていない。つまりレイアの側を離れてはならないという事だ。本来ならそれでも足りないくらいだ」
「だったら――」
「だが申請は通った。国外追放かひと月のレイアの所有権……この二つが効いたんだろう。取りようによっては『殺しても良い』とも取れるしな」
「そ、そんな……」

 それだけでこんな条件が通るとは思えない。公爵の娘と一般人の女の子。言いたくはないが格が違いすぎる。何か裏があったようにしか思えない。
 だけど今はそれについて考えている時間はないだろう。レイアは何を考えてこんな申請書を……でも、これで私がサインしなければこれは効力を持たない。
 ならいっそ――

「……お前、本当にわかってるのか? 冗談では済ませられないのだぞ?」

 私の名前をサインした申請書をベルーザ先生に手渡すと、真顔でこっちを様子を窺うようだった。

「生まれてこの方、こんな真面目な時に冗談を言った事はありませんよ」
「いくら友達だからと言って、彼女のあの様子が普通じゃないことぐらいわかるだろう?」

 やっぱり、ベルーザ先生もレイアの事に気付いていたみたいだ。逆によくそれで止めなかったな……とも思うけれど、それについて追及するのはやめておこう。

「わかってます。だからこそ、今のあの子を止めないとと思うんです。レイアは、私の大切な友達だから」

 この世界に来て、親しくしてくれる人達は多かった。でも、公爵家の娘ということで、どうしても一歩引いた対応をしてくるから、明確に友達だと呼べる子はいなかった。
【学園では、身分の差など関係ない】この規律のおかげで、友達が出来た時は純粋に嬉しかった。リュネーが最初で、レイアが二人目。大切な友達だ。だから……あの子が普通じゃなくなったんなら、助けないと。

「……あの子は『始祖返り』が強く出ているのだろう」
「始祖返り?」

 初めて聞く言葉だ。思わず首を傾げてしまった。

「竜人族は源流を遡れば始竜の一柱である火竜の子供であることは知っているだろう?」
「……確か、授業でも教えてましたね」
「火竜から受け継いだ血が濃い程、高い能力を宿しているのだが……極稀にあまりに強すぎて、おかしくなった者がいたのだとか」
「でも、レイアは黒竜人族だし……正直、目立って凄い能力もなかったはずだけど……」

 あの子はどっちかというと、あまり強くない部類の方だ。言いたくないが、弱いと言っても良い。今は一生懸命訓練しているようだけれど……それでも、アルフにはまだまだ及ばない。そんな子が火竜の血を濃く継いでいるなんて、有り得ない。

「さあね。だけど『竜』の血を引く種族が急におかしくなった……。その理由はこれ以上考えられない。恐らく……今のレイアは、お前が知っているあの子とは比べ物にならない程強くなっていると思うぞ。それでもやるのか?」

 ベルーザ先生の言葉が本当なら、確かに私の想像を超えてくるだろう。だけど、決して退くことはしない。

「やります。最強の種族である聖黒族として、この地を治める偉大なお父様の血を引く娘として。挑まれた勝負に逃げ出すことは出来ません」

 どれだけ強い人物が目の前に立ち塞がっても、私は一歩も引く事はしない。例えそれが仲の良かった友達だったとしても……折れるつもりは全くない。

「……わかった。これは間違いなく受理しよう。それで問題ないな?」
「ええ」

 念を押すように確かめてきたベルーザ先生に、同じように真剣な表情で頷いた。
 ……これで、いよいよ後に退けなくなった感じがする。元々退けるようなものでもないけれど。

「レイア……私が必ず元に戻してあげるからね」

 ベルーザ先生が決闘申請書を持っていくのを眺めながら、誰にも聞こえないように呟いた。
 どうしてあの子があんな風になったのかはわからないけれど、必ず元に戻して見せる。
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