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229・避けられぬ決闘
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毎日の学園生活は単調だけど、どこかとても穏やかで、こんな日々を生きていける自分に幸せを感じていたある日の放課後。
職員室に呼び出された私は、一人でベルーザ先生に会いに行った。
「先生?」
「……こっちだ」
いつにも増して緊張した口調で話しかけられた私は、思わず首を傾げてしまう。なんでそんな声を出しているんだろう?
「どうしました? 私に何の――」
「黙ってこれを見ろ」
ベルーザ先生のやけに強張った声に、疑問を感じながら受け取ったそれは、見慣れた決闘申請書だった。
これで呼び出されたって事は、私に挑んできた子がいるって事だ。
だけど、この頃の私は揉め事もあまり起こしてないし、転校してきたロスミーナともそれなりに打ち解けている。
レイアだって初めて会った時は警戒していたけれど、ロスミーナとそれなりに仲が良いし……なんて色々と考えながら目を通してみると、そこにはある意味予想外の事が書かれていた。
――
『決闘申請書』
対戦相手:エールティア・リシュファス対アルティーナ・エスリーア
決闘方式:魔王祭以上の大規模無死魔導具を展開し、互いのあらゆる力を用いた戦争。
勝敗条件:死亡・戦闘不能・降伏のいずれかに該当する場合。一度でも死んだ者は速やかに戦場から離脱する事。
ルール:戦力に上限は存在しないが、必ず対戦者本人の支持者である事。
エールティアが敗北した場合:王位継承権及び爵位剥奪。反抗があった場合、反逆者として一時的に隷属の腕輪の装着。主人はアルティーナと定める。
アルティーナが敗北した場合:エールティアと同条件。隷属の腕輪はエールティアを主人とする。
備考・決闘日時はペストラの1の日。その日より後にも先にもなる事はない。
――
「これはまた……随分なものが出てきたわね」
明らかに界法に違反していて、いっそ清々しい。しかもこれには反抗があった場合とだけ記載されている。
要は少しでも反抗的な行為を行なった瞬間、即座に隷属の腕輪を用いるという事を意味している。それが例え些細な事であっても。
「よくこんなモノを決闘委員会が許しましたね。彼らは界法を知らないのでしょうか」
「……知っているからこそ、だろうな。見ろ。『一時的に』と書かれているだろう。界法が認めていないのは『生涯的に』奴隷として扱う事だ。黒に近い灰色って事で押し倒すつもりなんだろう」
……確かに、立法全書にはそう記されている。つまり『一時的』だから、大丈夫だと。子供でもおかしいとわかるような理論を振りかざしてきた訳だ。そして隷属の腕輪は……凶悪な犯罪者に使う事は違法ではない。
まあ、相当面倒な手続きをしないといけないんだけどね。
「こんな直接的な手に出てくるなんてね。馬鹿らしい」
「……わかっているのか? アルティーナ様の奴隷になるという事は……あの公爵夫人の奴隷になる事に等しいんだぞ!?」
信じられないとでも言うかのような顔でベルーザ先生が私に詰め寄ってくるけど……そんな事がどうしたというのか? 誰の奴隷になろうと結末は変わらない。陰湿で凄惨ないじめの末に死を迎えるか、いいとこ子孫繁栄の名目を振りかざされて子供を産む道具扱いだろう。
これにはそんな悪意が透けて見える。そして『互いにあらゆる力を用いた』という部分。それはつまり、人質を取っても問題ないという事だ。平気でそんなことをしてきそうだ。
「勝てばいい。それだけじゃないですか?」
「……お前はわかっていない。エスリーア公爵夫人はやる時は徹底的にする。お前一人だけじゃない。周囲の者もズタボロにされるぞ」
「それでも……勝てばいい。それだけですよ」
逃げるなんて選択肢は最初から存在しない。私が取れる選択は、女王になるか家畜以下の畜生の存在になるか。
それに……どのみち私の周囲にいる人達は無事では済まない。勝たなければ、未来なんてない。
「……覚悟している目だな」
「先生。選択肢なんてないんですよ。殺すか殺されるか。そして私は……」
――常に殺す側で在り続ける。
守りたい場所が出来た。信じてくれる友達が、一緒に過ごしてくれる仲間が、大切な――本当に大切な両親の存在がある。
あの時なかったものが、今この手の中にある。絶対に零したくない。
「殺される側に回るつもりは、ありません」
「……わかった。なら僕もこれ以上何も言わない。お前の信じる道を行け」
「はい。……それと、一つ確認したいことがあるのですが」
「なんだ?」
決闘申請書は両者の同意がなければ通らない。それは例え、決定している事項であってもこれだけは避けて通れない。
「これに更に条件を付けて送り返す……というのは問題ありませんよね?」
「アルティーナ様の署名はまだ記載されていないみたいだし……決闘委員会に掛け合えば、多少の変更は不可能ではないだろう。だが……どうするつもりだ」
思わず笑みがこみ上げてくる。あちらが仕掛けてくるのならこちらも応じてあげるまでだ。
アルティーナをダシにして自分の野望を満たそうとしてくる者には……徹底的に思い知らせないといけない。私と戦いたいのなら、きちんと血を流して痛みを感じてもらわないとね。
職員室に呼び出された私は、一人でベルーザ先生に会いに行った。
「先生?」
「……こっちだ」
いつにも増して緊張した口調で話しかけられた私は、思わず首を傾げてしまう。なんでそんな声を出しているんだろう?
「どうしました? 私に何の――」
「黙ってこれを見ろ」
ベルーザ先生のやけに強張った声に、疑問を感じながら受け取ったそれは、見慣れた決闘申請書だった。
これで呼び出されたって事は、私に挑んできた子がいるって事だ。
だけど、この頃の私は揉め事もあまり起こしてないし、転校してきたロスミーナともそれなりに打ち解けている。
レイアだって初めて会った時は警戒していたけれど、ロスミーナとそれなりに仲が良いし……なんて色々と考えながら目を通してみると、そこにはある意味予想外の事が書かれていた。
――
『決闘申請書』
対戦相手:エールティア・リシュファス対アルティーナ・エスリーア
決闘方式:魔王祭以上の大規模無死魔導具を展開し、互いのあらゆる力を用いた戦争。
勝敗条件:死亡・戦闘不能・降伏のいずれかに該当する場合。一度でも死んだ者は速やかに戦場から離脱する事。
ルール:戦力に上限は存在しないが、必ず対戦者本人の支持者である事。
エールティアが敗北した場合:王位継承権及び爵位剥奪。反抗があった場合、反逆者として一時的に隷属の腕輪の装着。主人はアルティーナと定める。
アルティーナが敗北した場合:エールティアと同条件。隷属の腕輪はエールティアを主人とする。
備考・決闘日時はペストラの1の日。その日より後にも先にもなる事はない。
――
「これはまた……随分なものが出てきたわね」
明らかに界法に違反していて、いっそ清々しい。しかもこれには反抗があった場合とだけ記載されている。
要は少しでも反抗的な行為を行なった瞬間、即座に隷属の腕輪を用いるという事を意味している。それが例え些細な事であっても。
「よくこんなモノを決闘委員会が許しましたね。彼らは界法を知らないのでしょうか」
「……知っているからこそ、だろうな。見ろ。『一時的に』と書かれているだろう。界法が認めていないのは『生涯的に』奴隷として扱う事だ。黒に近い灰色って事で押し倒すつもりなんだろう」
……確かに、立法全書にはそう記されている。つまり『一時的』だから、大丈夫だと。子供でもおかしいとわかるような理論を振りかざしてきた訳だ。そして隷属の腕輪は……凶悪な犯罪者に使う事は違法ではない。
まあ、相当面倒な手続きをしないといけないんだけどね。
「こんな直接的な手に出てくるなんてね。馬鹿らしい」
「……わかっているのか? アルティーナ様の奴隷になるという事は……あの公爵夫人の奴隷になる事に等しいんだぞ!?」
信じられないとでも言うかのような顔でベルーザ先生が私に詰め寄ってくるけど……そんな事がどうしたというのか? 誰の奴隷になろうと結末は変わらない。陰湿で凄惨ないじめの末に死を迎えるか、いいとこ子孫繁栄の名目を振りかざされて子供を産む道具扱いだろう。
これにはそんな悪意が透けて見える。そして『互いにあらゆる力を用いた』という部分。それはつまり、人質を取っても問題ないという事だ。平気でそんなことをしてきそうだ。
「勝てばいい。それだけじゃないですか?」
「……お前はわかっていない。エスリーア公爵夫人はやる時は徹底的にする。お前一人だけじゃない。周囲の者もズタボロにされるぞ」
「それでも……勝てばいい。それだけですよ」
逃げるなんて選択肢は最初から存在しない。私が取れる選択は、女王になるか家畜以下の畜生の存在になるか。
それに……どのみち私の周囲にいる人達は無事では済まない。勝たなければ、未来なんてない。
「……覚悟している目だな」
「先生。選択肢なんてないんですよ。殺すか殺されるか。そして私は……」
――常に殺す側で在り続ける。
守りたい場所が出来た。信じてくれる友達が、一緒に過ごしてくれる仲間が、大切な――本当に大切な両親の存在がある。
あの時なかったものが、今この手の中にある。絶対に零したくない。
「殺される側に回るつもりは、ありません」
「……わかった。なら僕もこれ以上何も言わない。お前の信じる道を行け」
「はい。……それと、一つ確認したいことがあるのですが」
「なんだ?」
決闘申請書は両者の同意がなければ通らない。それは例え、決定している事項であってもこれだけは避けて通れない。
「これに更に条件を付けて送り返す……というのは問題ありませんよね?」
「アルティーナ様の署名はまだ記載されていないみたいだし……決闘委員会に掛け合えば、多少の変更は不可能ではないだろう。だが……どうするつもりだ」
思わず笑みがこみ上げてくる。あちらが仕掛けてくるのならこちらも応じてあげるまでだ。
アルティーナをダシにして自分の野望を満たそうとしてくる者には……徹底的に思い知らせないといけない。私と戦いたいのなら、きちんと血を流して痛みを感じてもらわないとね。
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