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248・未熟な聖黒スライム②(ジュールside)

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 スキュスが【ダメージサンクチュアリ】を展開して以降、三人は更なる苦戦を強いられる羽目になった。
 まず、息を吸う度に身体に薄らと傷がつき、体力を消耗する。

「はぁ……はぁ」
「ふふ、ほら、もっと素敵な踊りを舞ってくださいな。見目麗しい少女達の命を賭けた踊り。うふ、うふふ、高ぶりますわぁ」

 うっとりと恍惚の表情を見せているスキュスのソレは、衆目に晒して良い表情ではなかった。

「人をなぶる事に興奮を覚えるなんて、変態のソレですね。流石の私もドン引きですよ」
「ジュールさん。それ、結構自分に返ってきてると思うのですが……」
「それ、言ったら駄目だと思うよ」

 昔のジュールが、エールティアに言い寄る連中に嫉妬して敵意を振りまいたり、誰彼構わず噛みつく野犬のような少女だったことは仲間の誰もが知っている事実。行動で考えれば、スキュスは敵にだけその嗜好しこうが向いている分、マシなのかもしれない。

 それを棚上げされれば、戦闘中であっても気が抜けるというものだ。

「ジュールちゃんのせいでちょっと気が抜けちゃったけど……準備は整ったよ。【リアリティスコープ】」

 リュネーの両目に、魔力で象られた眼鏡のようなものがぼんやりと出現する。
 そのまま周囲を探るように観察して、やがて何かを見つけたのか、じーっとある一点を見つめていた。

「雪風ちゃん! あそこ。あの大きな岩があるところに攻撃してみて」
「……あそこですね。わかりました」

 雪風は『吽雷うんらい』を抜いて、二つの刀に魔力を込めて同時に斬りかかる。
 すると――鈍い音を立てて『風阿ふうあ吽雷うんらい』の二対の刀が、空中に静止してしまった。

「これは……! なるほど……!!」

 妙に納得したような声を出した。今の雪風には、確かな手応えがあった。それはその場に何かある。ということだった。

「ふ、ふふ、よくわかりましたね。褒めて差し上げますわ」

「二人とも! 私がスキュスの本体を見つけるから、攻撃お願い!」
「任せてください!」
「わかりました!」

 今でもスキュスの姿は全く見えない。彼女が再び放った【イービルスフィア】も、偽物のスキュスが発動しているように見える。
 しかし、リュネーの視界にはしっかりと見えていた。偽物から少し離れた場所を移動している本物のスキュスの姿が。

「雪風ちゃん! スキュスちゃんから右斜め後方だよ!」
「わかりました!!」

 リュネーの指示によって雪風が動き、その通りに雪風が動く。

「【ウォータープレス】!」

 雪風が攻撃し、空中で刀の動きが止まったのを確認したジュールが、魔導を放つ。それと同時に雪風は離脱し、水で出来た物体が地面へと落ちる。

「良い連携ですわ。【ショック・オプスキュリテ】!」

 スキュス本体と偽物のスキュスから闇の波動が放たれ、三人に襲い掛かる。
 それらを上手くかわして詰め寄った雪風は、スキュスの魔導が放たれていた場所に斬撃を加える。

「くっ……ふふ、強い、ですわね。雪風さん、と言いましたかしら」
「……そうですが」
「貴女がこの三人の中で一番強いみたいですわ。それに心の芯も強い。ふふ、そういう子を屈服させるのは、なによりも楽しみですわ」
「生憎、僕の心は決して折れはしません。全ては主の為に。故に……本気で行かせてもらいます」

 雪風は内包している魔力の大半を『風阿ふうあ吽雷うんらい』に注いで、刀の力を完全に開放する。
 ビリビリとした空気が周囲に伝わって、圧倒的な力が二つの刀に宿った。

「まだそんな力を持っていましたか。ふふ、滾りますわね」

 スキュスの表情が恍惚こうこつに染まる。彼女の頭の中では、どういう風に料理をして、弄ぼうかという思考が巡っていた。

 ジュールはそれを羨ましく思っていた。リュネーのサポートもあるが、雪風は一人でスキュスと互角以上に渡り合っていた。
 魔導によるサポートに徹している彼女は、雪風のおまけのような気がしてならなかった。

 後から入ってきたはずの雪風に忠誠心でも強さでも負け……ジュールはどうしようもなく情けない気持ちになってしまう。

「はあぁっ!!」

 雷のように走り、風のように刻む。雪風の放つ複雑な斬撃の軌道を、スキュスは徐々にさばききれなくなってくる。

「くぅっ……わたくしが圧されるなんて……」
「僕と貴女とでは、積んできた経験が違うのですよ」

 片や侵入者を排除し、日々研鑽けんさんを積む者。片や自らの欲望の赴くまま力を誇示する者。どちらがより高みに登れるかは自明の理だった。

「私……だって……! 【フレアソニック】!」

 音の速度で放たれた炎の刃は、雪風の斬撃の合間を縫って、スキュスに命中する。雪風の斬撃に気を取られていたスキュスは、いきなり飛んできた【フレアソニック】に意識と魔力が乱れたのか、偽物が消え、本物が姿を現してしまった。

「あら……」
「ナイスだよ! ジュールちゃん!」
「え、えへへ」

 あてようと思って攻撃したのだけれど、まさかここまで効くとは思っていなかったジュールは、嬉しそうにはにかんだ。内心、喜びが爆発しそうなのだが、照れてしまって上手く表す事が出来ない。

「うふふ、中々やりますわね。こんなに楽しいひと時は、いつぶりでしょうか。でも……それも終わりですわね」
「……どういう意味ですか?」
「こういう意味ですわ」

 からん、と鞭を捨てて両手を挙げるスキュスの姿は、正に降参の意志の表れだった。
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