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290・黒竜乱舞(レイアside)

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『ふ、二人ともあの姿になっちゃったけど……』
『ふむ。アルフ・ジェンドが【化身解放】を使える事は知っていたが……まさか、レイア・ルーフも使えるとはな』
『それってそんなに凄い事なの?』
『竜人族が真の力に目覚め時――竜神族となり、種族固有の魔法である【化身解放】が扱える。現在は魔導として昇華され、イメージによって己の想う強き竜に姿を変える事が出来るのだが……』

 扱えるのは竜神族のみ。つまり『覚醒』しなければ扱う事の出来ない魔導だ。それを二人とも使い、死闘を繰り広げている。そこから導き出された答えはたった一つだった。

『えっと、つまり……二人とも覚醒してるってこと?』
『それしかあり得ないだろう。流石今年の魔王祭は魅せてくれる。黒竜神族同士の決闘なぞ、中々見れるものではない』

 ガルドラは目の前で起こっている事に興味が尽きない様子だった。それほど珍しい光景だという事は、オルキアが黙ったまま嬉しそうに眺めているのを見ればわかる事だろう。

 観客が口々に応援している中、レイアとアルフは、互いの爪による攻撃の応酬を繰り広げていた。魔導によって放たれた雷撃。無数の炎球。熱線に氷の刃。数々の魔導の華が咲き乱れる。

『ふっ、はは、ははは! まさかここまでの力とは! それでこそ……それでこそあの御方の側にいるに相応しい』
『古臭い考え方は私は好まない。その思考事……矯正してやろう!』

 常人の反射神経を遥かに超える攻防戦を繰り広げる彼らの言っている内容が『女の事』だとは、普通の人は思うまい。
 白熱している戦いの中、レイアは冷静に今の現状を分析していた。

(アルフはまだ、人造命具を出してこない。現状は膠着こうちゃく状態だし、彼の切り札である以上、絶対に使ってくるはず。なら――)

 自ら先に動くことを決めたレイアだったが……それについては少しアルフの方が早かった。

『【ドラゴティックロア】!』

 接近戦を行いながら、白黒の熱線魔導を横薙ぎに発動し、回避しにくい状況へと持っていく。
 完全に虚を突かれたレイアは、とっさに両腕を交差して、致命傷を避ける体勢を整える。

『【アムズプロテクト】!』

 更に発動に時間が掛からない系統の防御魔導を発動させ、自身の腕に魔力の膜を纏わせた。これによって被害を最小限に抑える。竜となったレイアの腕は、鱗も相まって彼女の命を奪うことなく、腕にダメージを与えるだけで留まった。しかし……それこそがアルフの狙いだった。

『【人造命剣・ドラゴニティソウル】!!』

 人型の竜となったアルフの手に、黒い片手剣が出現する。竜の翼の柄。少し分厚い刃に、剣自体が黒竜をイメージするかのように作られていた。自らの種族――黒竜人族である事に対する誇り。それが具現化した剣だった。

『やはり出てきたか……人造命具』
『これこそ我が命。我が魂。誇りを具現せし【ドラゴニティソウル】だ』
『誇り……そんな御大層な物を掲げるとはね』
『貴様にはわかるまい。我らが魂の在り方。気高く、清廉な誇りを』

 自らの答えに揺るぎない自信を持っているアルフに対し、吐き捨てるように嫌な顔をしているレイア。

『わからないな。生憎私は、自らの種族に対する誇りなど、持ち合わせていないからな。そのように価値のないものはそこらの駄犬にでも食わせてやったわ』

 その挑発に対し、アルフの心に荒波が起こる。互いに理解できないのも無理からぬ話だろう。
 レイアは落ちこぼれとして兄に虐められ続け、同じ黒竜人族の誰からも助けられることはなく、鬱屈とした日々を過ごしていた。
 対するアルフは国を担う皇子として、日々努力を重ねてきた。聖黒族の為に。竜としての誇りの為に勉学に、鍛錬に励み、その過程があるからこそ今この場に立っている。

 二人の歩んできた人生は対極と言ってもいい。だからこそ――

『ならば教えてやろう。誇りを失いし竜なぞに価値はないのだと!』

 互いに相容れる事は決してない。火と水のように受け入れられることはない。

『押しつけがましい。他人に強要しなければならない価値観など、必要ではないのよ! 【ドラゴニックフレア】!』

 大きな白い炎の塊がレイアの前に出現し、そこから細い熱線が発射される。それを小馬鹿にするように人造命剣を構え襲い掛かるアルフ。

『そのような付け焼刃の魔導など……この我には効かぬわ!』

 真っ直ぐ。何の躊躇ためらいもなくアルフのドラゴニティソウルがレイアの【ドラゴニックフレア】は斬り裂くように振り下ろす。しばらくぶつかり合ったそれは、アルフが刃の角度を変えながら自らの身体を逸らす。そのおかげでアルフの頬を多少掠めるだけで済んでしまった。

 迫りくる斬撃。それに対してレイアも魔導で応戦していく。
 それは先程までの戦いとはなんら変わらない。だが、アルフは何か思うところがあるかのように攻めあぐねていた。

 ――何かが違う。

 そんな風に思わせるほどの違和感が今のレイアにはあった。
 そして……それはまもなく現実のものとなる。アルフの疑問を確信へと繋いで行き、黒竜人族同士の間に決着をつけるかのように――
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