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294・再開した戦い

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 闘技場の整備に一日を費やして、次の日――は特に面白い事もなく、普通に終わってしまった。
 流石にレイアとアルフの決闘が終わった後ではどの戦いも見劣りしてしまうだろう。
 私の方も特に目立った印象もなく決闘を終わらせる事が出来たから、呆気なく雪風の思い通りに事が進んだ事になる。

 そうして気付けば二日後。四回戦も始まり、戦いも更に佳境を迎える。

 初めに戦うのは――ファリスとジュールだった。その瞬間、会場は少し白けたような……それでいて少し期待するような空気に包まれていた。
 またレイアの時のようにジャイアントキリングが起こるのかどうか、みんな気になると言う事だろう。

『さあて、お待たせしましたー! いよいよ魔王祭も中盤戦後半です! 実況は変わらず、シューリアちゃんがお送りするよー!』

 拡声する魔導具――マイクを持って、腕を振ってるシューリア。それと相変わらずの無愛想なガルドラと、胡散臭そうなオルキア。三人ともそれぞれ好き勝手にしている。

『それじゃ、今日最初の試合、いってみようかなー! まずは……ファリスちゃんの入場だよ!』

 画面の方では、ファリスが涼しい顔で会場に入っていった。相変わらず堂々とした入り方だ。強者の風格を感じる、というのはこういう事を言うのだろう。
 観客の声援に、何も返さずに歩く彼女に不満を言う人は誰もいない。

『続いて、ジュールちゃんの入場だよ!』

 ファリスの登場で盛り上がった場内に、ジュールは緊張した面持ちで入場した。

『緊張するなよー!』
『頑張れー!』

 あまりにもかちこちとした顔だったからか、観客の人達から笑顔で声援を送られていた。それに辛うじて返してはいるけれど……結構不味いかもしれない。

『あれ? 今まで誰も相手にしなかったファリスちゃんが、ジュールちゃんに話しかけてるね。なんて言ってるんだろう?』

 珍しく穏やかな表情でファリスがジュールの前に立って、何か話してるけれど……生憎小さく呟いているだけのようで上手く、聞き取れない。
 だけど、ジュールの表情が緊張とは違う意味で強張ってきたから、いい事ではないのだろう。

 そうこうしている内に準備が整ったようで、魔導具による結界が会場内に張り巡らされる。
 ファリスが楽しそうにジュールから離れて、定位置に戻った後も……ジュールの表情は曇ったままだ。

『両者、共に悔いの残る事ない戦いをするように……決闘開始』

『【サイクロンスクイーズ】!!』

 最初に仕掛けたのはジュールの方だった。外側から内側に絞るような動きをする竜巻を、ファリスの足元から発生させ、その後に怒涛の魔導の連撃を叩き込む。
 決して風の勢いを殺さないよう放たれた雷や風の刃は、竜巻をより凶悪なものへと成長させた。

 その様子に観客の方も二度目のジャイアントキリングを見ることが出来るのかと期待した声を上げているけれど……私達から見たら、それは全くの見当違いだった。

「……大分不味いですね。決闘前に何を言われたのか知りませんが、心を乱していては勝機は掴めません」

 現在のジュールの状態を、雪風は冷静に見ている。何を焦っているのかは知らないけれど、ジュールは完全に自分のペースを失っている。序盤からいきなり魔導の連発。しかも対戦相手を近づかせないくらいの激しさ。普段の彼女からはあまり考えられない動きだ。

 最初は拳を合わせるか軽めの魔導で牽制して、相手の実力を計る。それが彼女のやり方だったはずだ。
 もしも最初から本気を出して戦えば、後から引っ込みがつかなくなる。ジュールのやり方は中々理想的だと思っていたんだけれど……。

『す、すごい猛攻だぁ! これはレイアちゃんの時のように、なるかもしれないよ!』

 次々と魔導が発動し、花開くように竜巻が重なり、大きくなり……ファリスを壊そうとその全てが襲い掛かる。
 通常なら見ているだけでも恐ろしい光景だろう。決闘に本気になり過ぎて、見境を失っているように見える。

「ジュール……何をそんなに焦ってるの」

 考えていた事が口に出てしまうほど、今のジュールは冷静じゃなかった。そして――それはすぐに訪れる。

 ジュールの放った魔導の数々を飲み込んで、見覚えのある魔導が発動した。

「う、嘘……あれは……」

 竜巻が存在するはずなのに、まるで全ての時が止まってしまったかのようにそれらは動きを止め、空がひび割れる。なんの比喩でもなく、本当の意味で。

 そしてそれは目となり、一滴の黒い雫を零した。まるであらゆる罪が凝縮しているような色をした雫は、大地に吸い込まれると、その波紋が円を描いて周囲に伝達して……最後に現れるのは黒い太陽のような一撃。黒く塗り潰し、焼き払う。

「……【エンヴェル・スタルニス】」

 その魔導はかつての彼が使っていた物。それとほぼ同じ光景が広がり、あらゆるものを飲み込んでいく。
 全てを喰らい尽くしたそれが収まった時――立っていたのは昏い笑みを浮かべるファリス。そして、無惨な姿になったジュールだけだった。

 その光景に誰もが息を呑む。悪魔のように、天使のように微笑むファリスの姿は、この世のものとは思えない美を放っていたからだった――。
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