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297・素早く撃ち抜く者

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 最初の時に見せた決闘とは違って、カイゼルは二丁拳銃を自在に操り、瞬時に次々と魔弾を連射してくる。
 あれだけの早撃ちをしていれば狙いが甘くなるものなんだけれど……カイゼルにはそういう常識は通用しないみたいだ。
 あまりにも正確無比な射撃が私の足や身体を狙って、頭を吹き飛ばそうと襲い掛かってくる。

『エールティア選手、防戦一方ーー! カイゼル選手の早撃ちに回避するのがやっと……って感じだけど、ガルちゃんはどう思う?』
『いや、あれはいつものエールティア・リシュファスの行動だ。相手の戦い方を観察して、力量差を計っているのだろう。今までの者達は既に知っている者か、あまりにも実力が離れていた者のどちらかだった……と考えれば合点もいくだろう』

 実況・解説席にいる二人が何か話しているけれど、大体ガルドラ決闘官の言う通りだ。
 今は様子見。彼の実力なら、人造命具を手にしていてもおかしくない。なら、それまでしっかりと見ないといけないだろう。

「どうした? 攻撃してこないのか? それとも……やっぱり避けるのがやっとって事か?」
「随分と軽い挑発ね。貴方の攻撃のようだわ」

 同じように挑発をしてみたけれど、カイゼルには全く効果がなかった。流石、揺るがない精神を持っている男は格好良い。もっと、彼の本気を見たくなってくる。

「これならどうだ……! 【ラピッドショット】!」

 カイゼルの魔導銃から放たれたのは、先程よりもかなり速度を上げた魔導による弾丸だった。
 常人なら影すら見えないかもしれない速さだけれど……私としてはようやく当たっても不思議じゃない速度になってきた程度だ。
 それでも単発や連射程度なら、まだ当たるわけにはいかないけれどね。

「ははっ、この速さにも付いて行けるのかよ。流石聖黒族ってところか」

 種族の能力っていうより、私の経験と実力のお蔭なのだけれど……面白くなってきた、と好戦的な笑顔を向けて来ているから、まあいいか。

「なら……【バウンドショット】」

 今度は私から狙いを逸らして、全く違うところに射撃をして――それが地面に当たったと同時に、変な方向に二度三度と跳ね返って多い掛かってくる。

 なるほど。高速弾と反射弾。両方を組み合わせて使用する事で、相手の動きを制限して、命中率を上げているわけか。
 面白い戦い方だけど、及第点ってところだろう。

「ちっ……これも避けるのか」

 舌打ちをして苛立つように声を荒げるけれど……それでも全然悔しそうに見えない。
 むしろ、より楽しそうに笑ってくる。ここまできたら是が非でも当ててやる――そんな意気込みが伝わってくるほどに。

 だけど、地面や壁に当たって飛んでくる弾と、まっすぐ飛んでくる弾。更にそれらより速い三種類の弾が自由自在に襲いかかってくるけれど、落ち着いて広く物事を見れば避けられる。
 確かにこの連携は脅威だけど、まだまだ避けられる。

「【チェイサーシェル】」

 カイゼルは更に弾幕を加えてきた。
 危うげなくそれを避けると、いつもはまっすぐ通り過ぎる弾が、旋回して私を追尾するように狙ってくる。

 なるほど、当たるまで追跡するなら、確かにいつかは当たるだろう。だけどそれなら――

『エールティア選手、カイゼル選手に向かって猛然と走っていくぅぅぅぅ! これは――』

 カイゼルが魔導銃を構え、私に向かって撃つ。だけれど、それは既に見切った。最小限の回避で彼に向かって、彼を小馬鹿にするように笑ってあげる。いくら動じないとはいっても、完全に無視できる程、彼は冷静ではない。

「【バウンドショット】!」

 再び跳弾系の魔導を使ってくると思った。私の動きを先読みした完璧に近い一撃。それを同じようにギリギリでかわした私の眼前には、既に魔弾が頭を吹き飛ばそうと迫りつつある。

 ――上手い。だけど、それが逆に弱点になる。

 髪の毛を少々犠牲にして避け切った私に、更なる跳弾と弾丸が飛んできて……それを避けると同時に追跡してきた弾とぶつけてやる。

「っ、それを狙っていたのか……!」
「まだまだ甘いわね。でも、少し興が乗ってきたわ」

 近づいている私に銃を構えてきたけれど――生憎そこは私の手が届く範囲だ。
 撃とうとした瞬間、銃を掴んで地面の方に向けさせる。もう一丁の方も空に向けて空撃ちさせてやり、無防備の状態を作ってやる。

 普通の人ならここで魔導が飛んでくるんだけど……カイゼルの場合、それはまずない。
 彼の魔導は常に銃を通してでしか発動されない。今までの戦いでそれははっきりとわかっていた。

 カイゼルの腕を掴んだまま引き寄せて無防備な腹に膝蹴りを入れてあげる。普通なら悶絶する程の一撃。それを苦悶の表情一つ浮かべることなく、魔導銃の銃口をこっちに向けてきた。

 最初はそんな微妙な体勢で撃てる訳がないと思っていたけれど……彼の並外れた技量を思い出して、手を離すと同時に後ろに下がる事にした。
 すると、先程まで私がいた場所に銃弾が交差するように飛んでいくのが見えた。

 一瞬視線を魔導銃の方に向けると、カイゼルは親指で引き金を引いているようだった。
 よくあれで正確な射撃が出来るものだ。恐れ入る。

「ふふっ、面白くなってきたじゃない」
「……そうだな。なら、これからもっと面白くしてやるよ! 【人造命銃・ラフレンスタル】!」

 このままでは勝てないと判断したのか、カイゼルは人造命具で勝負をかけてくる事にしたみたいだ。
 良いじゃない。どこまでやれるか、しっかりと見せてもらおう。

 私は強者。貴方は――挑戦者なのだから。
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