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310・余計な事(ローランside)

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 公園でエールティアと出会い、改めて準決勝を戦うと話し合ったローランは、出入り口までたどり着くと深いため息を吐いた。

「……いつからいたんだ?」

 呆れた口調と視線は、出入り口で誰かを待ち構えるように腕を組んで睨んでいた少女に向けられていた。

「途中からよ。あなたがティアちゃんと楽しそうにしてるところから」

 唇を尖らせて不満を口しているのはエールティアがローラン以上に気にしていた少女――ファリスだった。

「盗み見とはあまり感心しないな」
「別にあなたにどう思われても構わないもの。それに……あなたのあの言葉。あれをあいつらが聞いたらどう思うかしら?」

 ファリスのその言葉に、ローランは言葉に詰まったかのようななんとも言えない顔をする。
 彼にはファリスがどの人物の事を指しているのかよく理解していたからだ。

「……怒られるどころか、あの施設に逆戻りされるだろうな」

 自然と自らの首に指が触れ、腕に手が触れる。そこに何があって、彼は何をされていたか……その記憶が脳内にフラッシュバックして――トラウマになった記憶を掘り返されてしまった。

「わかってるのにあんな事言うなんて、本当にお優しいのね。涙が出てきそうなほど感動するわ」

 大げさに両手を広げているファリスは、小馬鹿にするように笑っている。短気な人なら間違いなく怒っているであろう行為だが、ローランはどこか仕方がないものを見るような目をしていた。
 その事が面白くなかったのか、ファリスは不満そうな視線を向ける。

「……普通、もう少しない? 『嫌だ』とか『それだけは勘弁して』とか」
「お前がそんな事するような人間じゃないって、俺が一番よくわかってるからな」

 ファリスは上の連中の事は嫌いだ。だからこそ、ファリスがローランの事を売るような事はしないとわかっていた。だからこそ表情では出ても、止めようとはしなかったのだ。

「……事実だけど、あなたに言われるとむかつくわね」
「あははは、ファリスは俺があまり好きじゃないからな」
「むしろ嫌いよ。大っ嫌い。わざわざティアちゃんにあんな事言うなんて信じられない!」

 あまりにと良い笑顔で笑ったローランに対し、ファリスは蔑むような視線を向けていた。
 エールティアと戦う事を誰よりも待ち望んでいるであろう彼女にとって、彼女との決闘を奪われるのはなによりも我慢できない事だった。

「……俺は、みんなに笑って暮らしてもらいたいだけだ。それが甘ったるい理想だってわかっててもな。決闘でお前の力を見せ付ける……その為だけにエールティア姫と決闘させられるのを、お前は納得しているのか?」

 疑問を投げかけたローランだったが、それがファリスの逆鱗に触れたのか、烈火の如く怒り、駆け寄って胸ぐらをつかまれてしまう。
 もっとも、小さな子が大人の胸ぐらを背伸びして掴んでいるようにしか見えないのだが。

「むしろ貴方に聞きたいわ。彼女の声を聞いて、魔力を視て、戦い方を感じて……それでなんで止めようなんて言葉が口から出るの? 私がどれだけあの子に焦がれているか……知らないとは言わせない」

 感情的に怒鳴る事は簡単だ。しかし、それを抑えたファリスは努めて冷静に言葉を投げかけた。

「わかっているさ。だけど……俺達は戦う為に生まれた訳じゃない。平和に生きていけたなら――」
「だから! そんなのだから!! あんな終わり方をしたんじゃない!!」

 強く突き飛ばされたローランは、たまらず地べたに尻を付いてしまう。周囲に人がいたら、何事かと視線を集めてしまう程に強く怒鳴ったファリスは肩で息をしていた。

「わたしはね、もう二度と間違えない!! 絶対に!! 欲しいものが目の前にあるのに、手が届く場所にあるのに! それに手を伸ばさないなんてしない!」
「……それで色んな人が犠牲になってもか」
「それをわたしに言うの? 他の誰よりも誰かの為に頑張ってきたわたしに!!」
「それはお前じゃない!」
「いいえ、わたしよ!!」

 言い合いがヒートアップして、互いに睨み合った……のだが、それはすぐに冷めてしまった。
 二人とも相手が決して曲げない事をわかっていたし、気持ちも理解できたからだ。
 それはファリスとローラン――この二人だからこそとも言えるだろう。

「……あなたは精々、その生き方を貫きなさいよ。でもね、わたしはそうじゃない。せっかくの自由ですもの。もうわたしを縛り付ける物はなにもない。もう……昔のわたしじゃないの」

 言いたいことだけ言って、ファリスはさっさと行ってしまった。自分の歩む道を真っ直ぐ信じて歩み続けるその姿を、ローランはどこか羨むような視線で見送っていた。

「ファリス……それはお前の――俺達の思い出じゃないんだよ。人は他の誰にもなれない。俺達は――」

 去っていくファリスに聞こえないように、小さく呟いたローランは、内心で同情していた。
 彼女の痛みがわかるからこそ……闇の奥底にあり、曲がりくねった自らの道を進むしかないのだと、改めて思うのだった。
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