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317・鬼の戦い
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私がローランとの激戦を制してから二日後。闘技場はいつもの様相を取り戻して、もう一つの準決勝を行おうとしていた。
「エールティア様、動いて大丈夫なのですか?」
「大丈夫だから。心配性ね」
私が死ぬように眠りについてからずっとこんな感じだ。いい加減鬱陶しく思うんだけれど、心配させたのは事実だから仕方がないだろう。
まさか一日中眠ってしまうとは思っても見なかった。目を覚ましてまず見たのが宿の天井だから、本当に戸惑ったものだ。
やっぱり、あの魔導は常用するのは無理だろう。前世より魔力が増えた今なら……とも思ったけれど、それでも使ったら一日寝てしまうのは有り得ない。
昔は魔導で厳重に結界を構築してから発動して……三日くらい眠っていたことを思い出すと、進歩したとは思うけれどね。
「この決闘でエールティア様がどちらと戦うかはっきりするんですね」
少し興奮気味に語る雪風だけど、私はなんとなく、雪雨が負けるような……そんな気がするのだ。
ファリスは得体の知れない強さを感じる。ローランと戦って、余計にそう思う。
会場を映す魔導具――モニターは、盛り上がる会場とシューリアの実況を映していた。
『さあ、いよいよ準決勝第二試合! この決闘の勝者がエールティア選手と戦う事になります! それじゃ、張り切って入場してもらうよ! 雪雨選手とファリス選手、どうぞ!!』
二人が同時に会場に入って行って、ある程度の距離を置いて睨み合っている。雪雨は強敵と相見える事に対する喜びの笑みを。
対するファリスは……まるで彼を見ていないような感じがする。余裕というより、眼中に無いみたいだ。
「……随分と、甘く見ていますね」
雪風も彼女が何を見ていないかわかったのだろう。気に食わない、といった様子で顔をしかめていた。
ああいうのは基本的に足元を掬われやすいんだけど……ファリスに至ってはそういう事がないから余計に気に入らないのかもね。
雪雨もそのファリスの様子に気付いたのか、余計に笑みを深くしていた。
『俺は眼中にないってことか? これは俺も甘く見られたもんだな』
雪風と全く同じ反応なのがちょっと笑いを誘う。彼には悪いけれどね。
言い方とか態度とか考えたら、若干不良っぽい感じもする。
普通の人なら、きっと泣いて謝るだろう迫力を秘めている。
『本当の事じゃない。あなたじゃわたしに届かない。わかりきってることだもの』
それが当然なのだと――正しい事なのだと言わんばかりの態度だ。傲慢ではあるけれど、強者としてはありふれているのかもしれない。
『おおっと、二人とも早速火花が散ってるよ! これは……ガルちゃんはどう転ぶと思う?』
『一概にどちらが強い……とは言いにくいだろう。いずれにせよ、すぐに明らかになる事だ』
はっきりと口にすることを嫌ってか、あやふやに言葉を濁して、結界具を発動していた。
オルキアは……今回も観戦に徹するみたいだ。楽しそうに会場を眺めている。
最初の方は交代で結界を張っていたけれど、決闘が激しくなるにつれ、ガルドラに任せるようになっていったっけ。
多分、いざとなった時に動ける人がいた方がいいからだろう。
まだ結界を張っている最中なのに、今にでも飛び出しそうな人がいるくらいだしね。
『結界は問題なく完成した。それでは両者、存分に戦うが良い。決闘……開始!』
開始宣言を待ち侘びていたかのように、雪雨は自らの大刀――金剛覇刀を抜き放って飛び出していく。
風のように早く飛び出した彼は、瞬く間に刀を振り下ろす。
ファリスはそれを危なげなく身体を横に動かすように避けて、雪雨の顎に拳を振り上げる。
もちろん、そんな単調な攻撃に引っかかる雪雨ではない。
あまりにもおざなりな攻撃。だけど――
『【ガイストート】』
避けられるのは織り込み済みだったようだ。残った片腕が雪雨の腹を捉えていた。
そっと添えられた手から黒い刃が雪雨の身体を蹂躙して……苦痛に顔を歪めた雪雨がファリスから距離を取る。
「……今の一撃。特に外傷があるようには見えませんでしたが…….」
不思議そうに雪風が決闘の様子を眺めている。確かに、魔導の直撃を受けたはずの雪雨の身体は、一切の傷がない。
だけど確かに痛みは感じているようだった。今は何ともない顔をしているから、恐らく身体の内部に攻撃するような魔導じゃない。
恐らく、精神的なダメージを負わせる魔導なのだろう。こういう魔導はかなり陰湿で厄介だ。
腕を切られる痛みを感じても、実際に切られた訳じゃない。何度も何度も痛めつける事が可能という訳だ。
「結構エグい魔導使うわね」
だけど、なんであのタイミングであの魔導を発動させたのだろう? 適当な攻撃系の魔導を発動すれば、それだけで勝敗は決しなくても、かなりの痛手を合わせることは出来ただろうに……。
わからない以上、この決闘からは目を離せない。どちらが勝つにせよ、この決闘の勝者が対戦相手になるんだし、情報を集めるのは決して悪い事じゃないだろう。
「エールティア様、動いて大丈夫なのですか?」
「大丈夫だから。心配性ね」
私が死ぬように眠りについてからずっとこんな感じだ。いい加減鬱陶しく思うんだけれど、心配させたのは事実だから仕方がないだろう。
まさか一日中眠ってしまうとは思っても見なかった。目を覚ましてまず見たのが宿の天井だから、本当に戸惑ったものだ。
やっぱり、あの魔導は常用するのは無理だろう。前世より魔力が増えた今なら……とも思ったけれど、それでも使ったら一日寝てしまうのは有り得ない。
昔は魔導で厳重に結界を構築してから発動して……三日くらい眠っていたことを思い出すと、進歩したとは思うけれどね。
「この決闘でエールティア様がどちらと戦うかはっきりするんですね」
少し興奮気味に語る雪風だけど、私はなんとなく、雪雨が負けるような……そんな気がするのだ。
ファリスは得体の知れない強さを感じる。ローランと戦って、余計にそう思う。
会場を映す魔導具――モニターは、盛り上がる会場とシューリアの実況を映していた。
『さあ、いよいよ準決勝第二試合! この決闘の勝者がエールティア選手と戦う事になります! それじゃ、張り切って入場してもらうよ! 雪雨選手とファリス選手、どうぞ!!』
二人が同時に会場に入って行って、ある程度の距離を置いて睨み合っている。雪雨は強敵と相見える事に対する喜びの笑みを。
対するファリスは……まるで彼を見ていないような感じがする。余裕というより、眼中に無いみたいだ。
「……随分と、甘く見ていますね」
雪風も彼女が何を見ていないかわかったのだろう。気に食わない、といった様子で顔をしかめていた。
ああいうのは基本的に足元を掬われやすいんだけど……ファリスに至ってはそういう事がないから余計に気に入らないのかもね。
雪雨もそのファリスの様子に気付いたのか、余計に笑みを深くしていた。
『俺は眼中にないってことか? これは俺も甘く見られたもんだな』
雪風と全く同じ反応なのがちょっと笑いを誘う。彼には悪いけれどね。
言い方とか態度とか考えたら、若干不良っぽい感じもする。
普通の人なら、きっと泣いて謝るだろう迫力を秘めている。
『本当の事じゃない。あなたじゃわたしに届かない。わかりきってることだもの』
それが当然なのだと――正しい事なのだと言わんばかりの態度だ。傲慢ではあるけれど、強者としてはありふれているのかもしれない。
『おおっと、二人とも早速火花が散ってるよ! これは……ガルちゃんはどう転ぶと思う?』
『一概にどちらが強い……とは言いにくいだろう。いずれにせよ、すぐに明らかになる事だ』
はっきりと口にすることを嫌ってか、あやふやに言葉を濁して、結界具を発動していた。
オルキアは……今回も観戦に徹するみたいだ。楽しそうに会場を眺めている。
最初の方は交代で結界を張っていたけれど、決闘が激しくなるにつれ、ガルドラに任せるようになっていったっけ。
多分、いざとなった時に動ける人がいた方がいいからだろう。
まだ結界を張っている最中なのに、今にでも飛び出しそうな人がいるくらいだしね。
『結界は問題なく完成した。それでは両者、存分に戦うが良い。決闘……開始!』
開始宣言を待ち侘びていたかのように、雪雨は自らの大刀――金剛覇刀を抜き放って飛び出していく。
風のように早く飛び出した彼は、瞬く間に刀を振り下ろす。
ファリスはそれを危なげなく身体を横に動かすように避けて、雪雨の顎に拳を振り上げる。
もちろん、そんな単調な攻撃に引っかかる雪雨ではない。
あまりにもおざなりな攻撃。だけど――
『【ガイストート】』
避けられるのは織り込み済みだったようだ。残った片腕が雪雨の腹を捉えていた。
そっと添えられた手から黒い刃が雪雨の身体を蹂躙して……苦痛に顔を歪めた雪雨がファリスから距離を取る。
「……今の一撃。特に外傷があるようには見えませんでしたが…….」
不思議そうに雪風が決闘の様子を眺めている。確かに、魔導の直撃を受けたはずの雪雨の身体は、一切の傷がない。
だけど確かに痛みは感じているようだった。今は何ともない顔をしているから、恐らく身体の内部に攻撃するような魔導じゃない。
恐らく、精神的なダメージを負わせる魔導なのだろう。こういう魔導はかなり陰湿で厄介だ。
腕を切られる痛みを感じても、実際に切られた訳じゃない。何度も何度も痛めつける事が可能という訳だ。
「結構エグい魔導使うわね」
だけど、なんであのタイミングであの魔導を発動させたのだろう? 適当な攻撃系の魔導を発動すれば、それだけで勝敗は決しなくても、かなりの痛手を合わせることは出来ただろうに……。
わからない以上、この決闘からは目を離せない。どちらが勝つにせよ、この決闘の勝者が対戦相手になるんだし、情報を集めるのは決して悪い事じゃないだろう。
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