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321・意外な結末
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雪雨とファリスの決闘――勝敗はある程度予想通りだったけれど、過程はかなり違っていた。
特にファリスのあの剣。確かローランも同じ種類の魔導で鎧を召喚していた。それと同じ類のものなのだろうけれど……。
「あの剣……恐ろしいですね。見たところ痛みもあまり感じていなかったみたいですけど――」
決闘の内容を振り返っていた雪風は、恐ろしいものをみるような目を会場に向けていた。そこには先程まで雪雨が倒れていたのだけれど、今は医務室に運ばれて誰もいない。戦いが終わってぼこぼこになったがらんとした会場があるだけだ。
「そうね。魔導にも攻撃する事が出来るし、まず第一に――」
あの一振りで複数の攻撃を放つ事が出来るのは脅威でしかない。しかも本当に軽く振っただけであれじゃ、どこから攻撃が来るかなんて見当もつかない。剣筋や斬撃の軌道じゃなくて、ほぼ直感で避けなければならない……という事だ。
敵意や殺意などといった害ある気配を敏感に感じ取って、ファリスの思考を可能な限り予測しても難しく思う。あんな攻撃が出来る武器なんて見たこともない。
雪風もそれを案じているからか、心配そうな表情を浮かべていた。
「そんなに不安そうな顔をしないで。私だって負けるつもりで戦うつもりはないから」
「……ですが」
「それに、あの子なら殺すまではいかないでしょう」
今回の決闘……ファリスの実力の一端を知れてよかったけれど、それ以上に意外だったのが、雪雨の命を奪わなかったということだ。決闘後も傷が残っていた事を考えると、あの剣は結界すら無力化する事が出来る。本当に仕留めるなら、わざわざ回りくどい攻撃なんてせず、さっさとあの剣でとどめを刺すはずだ。
それなのに、魔導で爪の部分だけを強化して止めを差していた。しかも、人として生きるのに致命的な傷をわざわざ治癒してあげるくらいだ。最初から雪雨を殺すつもりはなかったのだろう。
言動はともかく、思考は意外とまとものなのかもしれない。そう感じるような決闘内容だった。
「……わかりました。エールティア様がそう仰るのでしたら」
諭しても納得していないような顔をしていたけれど、やがて折れたようにため息をついた。何を言っても引っ込まないことはわかっているだろうし、ここは折れて諦めてもらうしかない。
「安心して。ちゃんと勝つための道筋は考えてるから」
雪風は気休めを言ってると思ってるだろうけど……生憎とそれは間違いだ。
あまりにも強すぎる力は、必ず反動や代償を支払わなければならない。
私の【エルノエンド】程の凶悪さは感じなかった。元々、魔導としての方向性が違うのだろう。その代わりに独特な神秘性を宿しているような感じがした。
比較対象としては【エアルヴェ・シュネイス】や【エンヴェル・スタルニス】なんだけど……この二つとはまるで違う、圧倒的な力を感じた。あれほどの力を行使するのなら、必ず相応のリスクがあるはずだ。
希望的な観測にしか過ぎないけれど、それでも全くないわけじゃない。どのみちあれと相対するには、覚悟を持って望まないといけないだろうしね。そう感じさせる程の力を秘めていた。
……それでも、勝つ道筋はある。
どんなにか細く途切れそうな道でも、諦めなければ道がある。
「それなら……良かったです。彼女の人造命具も、ローラン殿の鎧のように一筋縄ではいかなさそうでしたから」
「……あれ、本当に人造命具なのかしらね?」
疑問点としては、人造命具は必ず『人造命』と続いて武器の総称が入る。どんな形状であれ、剣なら『剣』で、槍なら『槍』だ。それが絶対のルールのようなものだ。
だけど、あの二人の魔導はどちらも違う。あれが本当に人造命具と言えるのだろうか?
「もしかしたら……神の領域に足を踏み入れているのかも……」
「彼らの武具が……ですか?」
思わず口に出してしまったけれど、改めて言葉にすると妙にしっくりくる。頭によぎった考えだけれど、不思議と胸の中に入る真実味があった。
「あくまで『かも』だけどね」
あんな光景を繰り広げた武器だもの。それくらいは当たり前と言っても言い過ぎじゃない。
人造命具に付与される能力からは明らかに逸脱している。どう考えても人智を超えているとしか思えない。
だけど、そこで湧き上がるのが一つの疑問。どうしてそんな魔導を彼らが所持しているのか? だ。
人として生きる以上、どれだけ魔導の道を歩んでも神の領域に足を踏み入れる事はできない。
考えれば考えるほど、思考の迷宮を彷徨うような、泥沼をもがくような気分になる。
……彼女に勝って決闘を終える事が出来れば、全部わかるのだろうか? このモヤモヤした気持ちが晴れるのだろうか?
「エールティア様、そろそろ宿に戻りましょう。続きはお茶でも飲みながら、心を落ち着けてからがよろしいかと」
「ありがとう」
本当に小間使いみたいな事をさせて申し訳ないけれど、今の私には静かに物思いに耽る事が出来る場所と、深紅茶が必要なようだ。
……昔はそんな事なかったんだけどね。初代魔王様も愛飲していたらしいし、血を強く引いているからなのかもしれない。
そういえば……初代魔王様も珍しい人造命具を扱っていたんだっけ。これを機に一度調べなおしてみるのも良いかもしれない。
特にファリスのあの剣。確かローランも同じ種類の魔導で鎧を召喚していた。それと同じ類のものなのだろうけれど……。
「あの剣……恐ろしいですね。見たところ痛みもあまり感じていなかったみたいですけど――」
決闘の内容を振り返っていた雪風は、恐ろしいものをみるような目を会場に向けていた。そこには先程まで雪雨が倒れていたのだけれど、今は医務室に運ばれて誰もいない。戦いが終わってぼこぼこになったがらんとした会場があるだけだ。
「そうね。魔導にも攻撃する事が出来るし、まず第一に――」
あの一振りで複数の攻撃を放つ事が出来るのは脅威でしかない。しかも本当に軽く振っただけであれじゃ、どこから攻撃が来るかなんて見当もつかない。剣筋や斬撃の軌道じゃなくて、ほぼ直感で避けなければならない……という事だ。
敵意や殺意などといった害ある気配を敏感に感じ取って、ファリスの思考を可能な限り予測しても難しく思う。あんな攻撃が出来る武器なんて見たこともない。
雪風もそれを案じているからか、心配そうな表情を浮かべていた。
「そんなに不安そうな顔をしないで。私だって負けるつもりで戦うつもりはないから」
「……ですが」
「それに、あの子なら殺すまではいかないでしょう」
今回の決闘……ファリスの実力の一端を知れてよかったけれど、それ以上に意外だったのが、雪雨の命を奪わなかったということだ。決闘後も傷が残っていた事を考えると、あの剣は結界すら無力化する事が出来る。本当に仕留めるなら、わざわざ回りくどい攻撃なんてせず、さっさとあの剣でとどめを刺すはずだ。
それなのに、魔導で爪の部分だけを強化して止めを差していた。しかも、人として生きるのに致命的な傷をわざわざ治癒してあげるくらいだ。最初から雪雨を殺すつもりはなかったのだろう。
言動はともかく、思考は意外とまとものなのかもしれない。そう感じるような決闘内容だった。
「……わかりました。エールティア様がそう仰るのでしたら」
諭しても納得していないような顔をしていたけれど、やがて折れたようにため息をついた。何を言っても引っ込まないことはわかっているだろうし、ここは折れて諦めてもらうしかない。
「安心して。ちゃんと勝つための道筋は考えてるから」
雪風は気休めを言ってると思ってるだろうけど……生憎とそれは間違いだ。
あまりにも強すぎる力は、必ず反動や代償を支払わなければならない。
私の【エルノエンド】程の凶悪さは感じなかった。元々、魔導としての方向性が違うのだろう。その代わりに独特な神秘性を宿しているような感じがした。
比較対象としては【エアルヴェ・シュネイス】や【エンヴェル・スタルニス】なんだけど……この二つとはまるで違う、圧倒的な力を感じた。あれほどの力を行使するのなら、必ず相応のリスクがあるはずだ。
希望的な観測にしか過ぎないけれど、それでも全くないわけじゃない。どのみちあれと相対するには、覚悟を持って望まないといけないだろうしね。そう感じさせる程の力を秘めていた。
……それでも、勝つ道筋はある。
どんなにか細く途切れそうな道でも、諦めなければ道がある。
「それなら……良かったです。彼女の人造命具も、ローラン殿の鎧のように一筋縄ではいかなさそうでしたから」
「……あれ、本当に人造命具なのかしらね?」
疑問点としては、人造命具は必ず『人造命』と続いて武器の総称が入る。どんな形状であれ、剣なら『剣』で、槍なら『槍』だ。それが絶対のルールのようなものだ。
だけど、あの二人の魔導はどちらも違う。あれが本当に人造命具と言えるのだろうか?
「もしかしたら……神の領域に足を踏み入れているのかも……」
「彼らの武具が……ですか?」
思わず口に出してしまったけれど、改めて言葉にすると妙にしっくりくる。頭によぎった考えだけれど、不思議と胸の中に入る真実味があった。
「あくまで『かも』だけどね」
あんな光景を繰り広げた武器だもの。それくらいは当たり前と言っても言い過ぎじゃない。
人造命具に付与される能力からは明らかに逸脱している。どう考えても人智を超えているとしか思えない。
だけど、そこで湧き上がるのが一つの疑問。どうしてそんな魔導を彼らが所持しているのか? だ。
人として生きる以上、どれだけ魔導の道を歩んでも神の領域に足を踏み入れる事はできない。
考えれば考えるほど、思考の迷宮を彷徨うような、泥沼をもがくような気分になる。
……彼女に勝って決闘を終える事が出来れば、全部わかるのだろうか? このモヤモヤした気持ちが晴れるのだろうか?
「エールティア様、そろそろ宿に戻りましょう。続きはお茶でも飲みながら、心を落ち着けてからがよろしいかと」
「ありがとう」
本当に小間使いみたいな事をさせて申し訳ないけれど、今の私には静かに物思いに耽る事が出来る場所と、深紅茶が必要なようだ。
……昔はそんな事なかったんだけどね。初代魔王様も愛飲していたらしいし、血を強く引いているからなのかもしれない。
そういえば……初代魔王様も珍しい人造命具を扱っていたんだっけ。これを機に一度調べなおしてみるのも良いかもしれない。
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