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336・光にある影
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流石副都と呼ばれるだけあって、抑えた宿は綺麗な場所だった。煌びやかとか豪奢とかそんなのとは無縁だけど、泊まる人の事をきちんと考えていて、手入れの行き届いている。好感が持てる部屋だ。
「それで、いつ行くの?」
部屋を二つほど抑えて、その内の一つに集まった私達は、今後の予定を話し合う事にした。
まずは宿を取る――その行動が染みついているような気がする。
私はまだ学生で、本来なら学園での生活を満喫している立場だと思うのだけど……そう思い通りにはいかないという訳か。
来年は後継者争いなんてくだらないものがない分、楽だろうと思った方が良い。前向きな思考こそ大事なんだしね。
「夜に動くのがベストだろう。シュタインもしばらくはここから動かないだろうし、昼は俺達も見つかりやすい」
「それは良いけれど……ファリスは大丈夫そうなの?」
私としては正面から突入する事は出来れば避けたい。ローランの考えには大体賛成……なんだけど、一刻の猶予もないとなるなら話は別だ。
私からはファリスの状況がわからない。ローランからの言葉が全てだ。だからこそ、少し不安を感じてしまう。
「それは大丈夫だ。飲み込まれてまだ三日……あの子の反応はまだ小さくなってない。エールティア姫との戦いに敗れた時の方がずっと小さかったくらいだ」
にやりと笑って言うのは良いけれど、こんな時に嫌味を言うのはやめて欲しい。あれは決闘だったんだしね。
「……あまりからかわない事ね。私だって、いつも穏やかって訳じゃないんだから」
「わかってるさ。だけど、少しは気が紛れただろう?」
確かに不安な気持ちは薄れたけれど……冗談にしても嫌味が過ぎる。だけどそれを伝える気にもならないし、このまま緊張した時間を過ごすよりはずっとマシ。そう思っておこうか。
――
夜が更けてきたころ、私はローランの案内されるがまま歩いていた。
王都程明るい夜ではないけれど、私達はそれすら避けるように暗闇の道を進む。
魔導を使わずにいるせいで、辛うじて見えているローランの背中を見失わないように付いて行く。光に背を向けて日陰者にでもなった気分だ。
「こういうところって兵士達は見回りとかしないのかしら……」
「巡回ルートは頭の中に叩きこんでる。任せておけ」
「それは頼もしいわね」
どおりで誰にも出会わなかったはずだ。最初からローランにはどう動けばいいかわかっていたということだ。
「だから言っただろう。夜に動くのがベストだ……ってな。伊達に雑用をこなしていた訳じゃないってことだ」
「……それ、自分で言ってて悲しくならない?」
若干呆れてるけれど、ローランはそれを気にしていないみたいだ。
なんというか……『彼』らしい。その行動・言動は彼の行く道の正しさを教えてくれているかのようだ。
「……そろそろつくぞ」
ここからは黙っていろ、と言うかのように口元に指をあてて静かにするようにポーズを取る。
それにこくりと頷くだけで返事をして、誰にも気取られないように息を殺す。
「【サーチホスティリティ】」
小声で魔導を展開して、手のひらに私達の周囲の地図を映し出す。これには僅かでも私に敵意を持っている者が赤色で映し出されるのだけれど……進んでいる先には真っ赤になっている。代わりに私の前を歩いているローランは青く光っている。敵意の無い証だ。
……まあ、当然か。ここで敵意を感じてしまったら一切信じられなくなる。そんな事の為にここに連れてくる姑息な男な訳がない。
だけど、ここまで綺麗な青だとは思わなかった。敵意は赤。好意は青で表示されるこの魔導は、より鮮やかな程強い感情を抱いている事になる。ただ、打算的だったり後で裏切ろうと画策していたりしてもわからないのが欠点だ。
それと好意を持っている上で殺そうとしてくる人にも無意味だ。ファリスとかが良い例かもしれない。彼女にとって、痛みを与える事は『愛』を与える事と同義みたいだからね。
移り変わりの激しい心を完璧に把握するなんて私には不可能だ。せいぜい今一番強い感情を読み取って、現時点で敵なのか味方なのか判断するだけの魔導を発動させるので精一杯だ。
「……なるほど、随分と厳重じゃない」
「わかるのか?」
驚いてるみたいだけど、私は一人で戦ってる歳月の方が長かったからね。こういう事でも出来ないと、何かと不便だった。動物も引っかかるから狩りにも使えたしね。
「これくらいはね。詳しい位置とかは無理だけど、大体ならなんとかね」
「それだけで十分だ。なら……隠れながら近づこう」
小声での話も終えて、静かにかつ迅速に行動に移す。
正々堂々と乗り込むのも良いけれど、今回はファリスを救出するのが最優先なのだ。
余計な事をして彼女を今まで以上の危険に晒すのは得策じゃない。
だけど……ただ息を殺し続けて隠れながらというのも私じゃない。良からぬ事を企んでいる輩は極力排除しておけば後々私達に有利に働くだろうし……気付かれなければ問題ないでしょう。
「それで、いつ行くの?」
部屋を二つほど抑えて、その内の一つに集まった私達は、今後の予定を話し合う事にした。
まずは宿を取る――その行動が染みついているような気がする。
私はまだ学生で、本来なら学園での生活を満喫している立場だと思うのだけど……そう思い通りにはいかないという訳か。
来年は後継者争いなんてくだらないものがない分、楽だろうと思った方が良い。前向きな思考こそ大事なんだしね。
「夜に動くのがベストだろう。シュタインもしばらくはここから動かないだろうし、昼は俺達も見つかりやすい」
「それは良いけれど……ファリスは大丈夫そうなの?」
私としては正面から突入する事は出来れば避けたい。ローランの考えには大体賛成……なんだけど、一刻の猶予もないとなるなら話は別だ。
私からはファリスの状況がわからない。ローランからの言葉が全てだ。だからこそ、少し不安を感じてしまう。
「それは大丈夫だ。飲み込まれてまだ三日……あの子の反応はまだ小さくなってない。エールティア姫との戦いに敗れた時の方がずっと小さかったくらいだ」
にやりと笑って言うのは良いけれど、こんな時に嫌味を言うのはやめて欲しい。あれは決闘だったんだしね。
「……あまりからかわない事ね。私だって、いつも穏やかって訳じゃないんだから」
「わかってるさ。だけど、少しは気が紛れただろう?」
確かに不安な気持ちは薄れたけれど……冗談にしても嫌味が過ぎる。だけどそれを伝える気にもならないし、このまま緊張した時間を過ごすよりはずっとマシ。そう思っておこうか。
――
夜が更けてきたころ、私はローランの案内されるがまま歩いていた。
王都程明るい夜ではないけれど、私達はそれすら避けるように暗闇の道を進む。
魔導を使わずにいるせいで、辛うじて見えているローランの背中を見失わないように付いて行く。光に背を向けて日陰者にでもなった気分だ。
「こういうところって兵士達は見回りとかしないのかしら……」
「巡回ルートは頭の中に叩きこんでる。任せておけ」
「それは頼もしいわね」
どおりで誰にも出会わなかったはずだ。最初からローランにはどう動けばいいかわかっていたということだ。
「だから言っただろう。夜に動くのがベストだ……ってな。伊達に雑用をこなしていた訳じゃないってことだ」
「……それ、自分で言ってて悲しくならない?」
若干呆れてるけれど、ローランはそれを気にしていないみたいだ。
なんというか……『彼』らしい。その行動・言動は彼の行く道の正しさを教えてくれているかのようだ。
「……そろそろつくぞ」
ここからは黙っていろ、と言うかのように口元に指をあてて静かにするようにポーズを取る。
それにこくりと頷くだけで返事をして、誰にも気取られないように息を殺す。
「【サーチホスティリティ】」
小声で魔導を展開して、手のひらに私達の周囲の地図を映し出す。これには僅かでも私に敵意を持っている者が赤色で映し出されるのだけれど……進んでいる先には真っ赤になっている。代わりに私の前を歩いているローランは青く光っている。敵意の無い証だ。
……まあ、当然か。ここで敵意を感じてしまったら一切信じられなくなる。そんな事の為にここに連れてくる姑息な男な訳がない。
だけど、ここまで綺麗な青だとは思わなかった。敵意は赤。好意は青で表示されるこの魔導は、より鮮やかな程強い感情を抱いている事になる。ただ、打算的だったり後で裏切ろうと画策していたりしてもわからないのが欠点だ。
それと好意を持っている上で殺そうとしてくる人にも無意味だ。ファリスとかが良い例かもしれない。彼女にとって、痛みを与える事は『愛』を与える事と同義みたいだからね。
移り変わりの激しい心を完璧に把握するなんて私には不可能だ。せいぜい今一番強い感情を読み取って、現時点で敵なのか味方なのか判断するだけの魔導を発動させるので精一杯だ。
「……なるほど、随分と厳重じゃない」
「わかるのか?」
驚いてるみたいだけど、私は一人で戦ってる歳月の方が長かったからね。こういう事でも出来ないと、何かと不便だった。動物も引っかかるから狩りにも使えたしね。
「これくらいはね。詳しい位置とかは無理だけど、大体ならなんとかね」
「それだけで十分だ。なら……隠れながら近づこう」
小声での話も終えて、静かにかつ迅速に行動に移す。
正々堂々と乗り込むのも良いけれど、今回はファリスを救出するのが最優先なのだ。
余計な事をして彼女を今まで以上の危険に晒すのは得策じゃない。
だけど……ただ息を殺し続けて隠れながらというのも私じゃない。良からぬ事を企んでいる輩は極力排除しておけば後々私達に有利に働くだろうし……気付かれなければ問題ないでしょう。
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