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348・満足なの?
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昼食を十分に楽しんだ私達がたどり着いたのはジュールが抑えている宿だ。
闘技場の医務室から病院に移され、しばらく眠っていた彼女だけど、魔王祭決勝が終わったころに目を覚まして宿の自室に戻ったそうだ。
本当はもっと早くに来たかったんだけど……その後ローランから助けを請われて、副都に向かう事になった。
ファリスを助けた後は部屋で手紙を書くことに専念していたし、あまり言い訳したくはないがやる事が多かったのだ。
……いくら色々と思い浮かべても、行かなかった事に変わりはない。
罪悪感が胸の底から湧き上がる。ここに来る途中でお見舞いに花と茶葉を買ってきたけれど、それで良かったのかどうにも迷ってしまう。
「ここに何か用があるの?」
きょとんとした表情を浮かべているファリス。彼女には目的地を告げずに来たのだから当然だろう。
……私はファリスとジュールに仲良くしてもらいたかった。
同じように私のところに集った仲間達。みんな大切だからこそ、どんなものでもいいから絆を作ってもらいたかった。
傲慢な事だとはわかっている。ファリスはあまり他人と触れ合う事をしないし、あんなにズタボロにされたジュールが彼女を許すのは難しい事だろう。
だけど……もし……そんな感情が頭の中から湧き上がって、自然と足をこの宿へと向けさせた。
それに、これからもファリスは私のところにいるだろう。遅かれ早かれ対面する事になる……なんて、結局言い訳がましい事を考えてしまう。戦いの時もそうだけど、色んなことを考えてしまうのは私の悪い癖だ。
「ここには私が【契約】したスライム族の女の子がいるの」
「ふーん……それってあの子? わたしと戦った赤い髪の」
頷いて肯定すると、ファリスは微妙に嫌そうに宿に視線を向けていた。やっぱり、彼女はあまりジュールに良い印象を持っていないみたいだ。
「嫌なら私一人で行くけど……」
「ううん、一緒に行く。言いたい事もあるし」
「……あまり喧嘩しないでよ?」
嫌な予感はあまりしないけど、不満そうな顔を見てしまうとそう言わざるを得ない。
「努力する。……けど、ティアちゃんはあの子に満足してるの?」
どういう事だろう? と首を傾げてしまう。満足も何も……ジュールが自分らしく振る舞う事は悪くないと思う。
しっかりと成長してくれているし、今後が楽しみに感じるくらいには強くなっている。
もちろん悪い癖はあるけれど、それも愛嬌だと笑えるくらいのものだ。
「満足……っていうのとは違うけれど、彼女は少しずつだけれど前へ進んでくれている。それがとても嬉しいし、楽しみでもあるの」
嘘偽りない本心を口にした……んだけれど、なぜか訝しむようにこちらをファリスはこちらを見てくる。
なんでそんな顔をされないといけないんだろう? と首を傾げると――
「……そう? でも、あの子はそう思ってないと思うよ」
どこか冷めた目でこちらを流すように見て、そのまま宿の中へと入っていってしまった。
……何か悪い事でも言ったのだろうか? まさかむすっとしてそのまま行ってしまうとは思わなかった。
少しの間呆然と宿の入り口を見つめて――冷静に戻った私は、彼女を追いかけるように宿の中に入るのだった。
――
ファリスに追いついたのは彼女がジュールの部屋に入る少し前だった。
ドアノブに手を掛けていて、あと数秒あったら間違いなくなんの躊躇もなく部屋の中に入っていただろう。
「ファ、ファリス。ちょっと待って」
「……どうしたの?」
少し……いや結構不満そうに振り向いた彼女は、ドアを開きかけた状態で止まってくれた。
「いきなり貴女が入ってきたらあの子も驚くでしょう? それに、顔もみたいし……まずは私だけで入りたいの」
ファリスと対面したら間違いなく面倒な事になる。それじゃなくても不穏な空気になる事は間違いない。
出来れば、少しだけ彼女の元気な姿をちゃんと確認してからファリスと引き合わせたい。
本当はまず私が最初に会って、後日ファリスを連れてくるというやり方をしたかったんだけれど、いつシュタインが攻めてくるかわからない。
新年祭りと同時に……というのが濃厚だけど、気を抜いているところをというのも十分に考えられる。
必然的にこんな行き当たりばったりにならざるを得なかったのだ。
「ふーん……くすくす、だったらどうぞ」
何か含みのある笑いを浮かべて譲ってくれたファリスを横目に、そっと扉を開く。
すると――
「あ……」
そこには既にこちらの様子を見にやってきたジュールが戸惑うように立っていた。
「えっと……ティア様、お久しぶりです」
どう反応していいのかわからないといった様子で、私とファリスを交互に見つめていた。
ちらっと視線をファリスに向けると……そこには悪戯好きな子供が浮かべるような悪い笑みをしている彼女がいて、私もようやく全てを理解した。
騒ぎを聞きつけたジュールが既に扉の前にいて、私とファリスの会話を聞いていた、ということに。
時すでに遅し。思わず乾いた笑いが零れてしまった。まさかこんな事になるなんて……。
裏目に出てしまったけど、元から会わせる予定だった。そう考えておこう。問題はこれからどうするか、だ。
闘技場の医務室から病院に移され、しばらく眠っていた彼女だけど、魔王祭決勝が終わったころに目を覚まして宿の自室に戻ったそうだ。
本当はもっと早くに来たかったんだけど……その後ローランから助けを請われて、副都に向かう事になった。
ファリスを助けた後は部屋で手紙を書くことに専念していたし、あまり言い訳したくはないがやる事が多かったのだ。
……いくら色々と思い浮かべても、行かなかった事に変わりはない。
罪悪感が胸の底から湧き上がる。ここに来る途中でお見舞いに花と茶葉を買ってきたけれど、それで良かったのかどうにも迷ってしまう。
「ここに何か用があるの?」
きょとんとした表情を浮かべているファリス。彼女には目的地を告げずに来たのだから当然だろう。
……私はファリスとジュールに仲良くしてもらいたかった。
同じように私のところに集った仲間達。みんな大切だからこそ、どんなものでもいいから絆を作ってもらいたかった。
傲慢な事だとはわかっている。ファリスはあまり他人と触れ合う事をしないし、あんなにズタボロにされたジュールが彼女を許すのは難しい事だろう。
だけど……もし……そんな感情が頭の中から湧き上がって、自然と足をこの宿へと向けさせた。
それに、これからもファリスは私のところにいるだろう。遅かれ早かれ対面する事になる……なんて、結局言い訳がましい事を考えてしまう。戦いの時もそうだけど、色んなことを考えてしまうのは私の悪い癖だ。
「ここには私が【契約】したスライム族の女の子がいるの」
「ふーん……それってあの子? わたしと戦った赤い髪の」
頷いて肯定すると、ファリスは微妙に嫌そうに宿に視線を向けていた。やっぱり、彼女はあまりジュールに良い印象を持っていないみたいだ。
「嫌なら私一人で行くけど……」
「ううん、一緒に行く。言いたい事もあるし」
「……あまり喧嘩しないでよ?」
嫌な予感はあまりしないけど、不満そうな顔を見てしまうとそう言わざるを得ない。
「努力する。……けど、ティアちゃんはあの子に満足してるの?」
どういう事だろう? と首を傾げてしまう。満足も何も……ジュールが自分らしく振る舞う事は悪くないと思う。
しっかりと成長してくれているし、今後が楽しみに感じるくらいには強くなっている。
もちろん悪い癖はあるけれど、それも愛嬌だと笑えるくらいのものだ。
「満足……っていうのとは違うけれど、彼女は少しずつだけれど前へ進んでくれている。それがとても嬉しいし、楽しみでもあるの」
嘘偽りない本心を口にした……んだけれど、なぜか訝しむようにこちらをファリスはこちらを見てくる。
なんでそんな顔をされないといけないんだろう? と首を傾げると――
「……そう? でも、あの子はそう思ってないと思うよ」
どこか冷めた目でこちらを流すように見て、そのまま宿の中へと入っていってしまった。
……何か悪い事でも言ったのだろうか? まさかむすっとしてそのまま行ってしまうとは思わなかった。
少しの間呆然と宿の入り口を見つめて――冷静に戻った私は、彼女を追いかけるように宿の中に入るのだった。
――
ファリスに追いついたのは彼女がジュールの部屋に入る少し前だった。
ドアノブに手を掛けていて、あと数秒あったら間違いなくなんの躊躇もなく部屋の中に入っていただろう。
「ファ、ファリス。ちょっと待って」
「……どうしたの?」
少し……いや結構不満そうに振り向いた彼女は、ドアを開きかけた状態で止まってくれた。
「いきなり貴女が入ってきたらあの子も驚くでしょう? それに、顔もみたいし……まずは私だけで入りたいの」
ファリスと対面したら間違いなく面倒な事になる。それじゃなくても不穏な空気になる事は間違いない。
出来れば、少しだけ彼女の元気な姿をちゃんと確認してからファリスと引き合わせたい。
本当はまず私が最初に会って、後日ファリスを連れてくるというやり方をしたかったんだけれど、いつシュタインが攻めてくるかわからない。
新年祭りと同時に……というのが濃厚だけど、気を抜いているところをというのも十分に考えられる。
必然的にこんな行き当たりばったりにならざるを得なかったのだ。
「ふーん……くすくす、だったらどうぞ」
何か含みのある笑いを浮かべて譲ってくれたファリスを横目に、そっと扉を開く。
すると――
「あ……」
そこには既にこちらの様子を見にやってきたジュールが戸惑うように立っていた。
「えっと……ティア様、お久しぶりです」
どう反応していいのかわからないといった様子で、私とファリスを交互に見つめていた。
ちらっと視線をファリスに向けると……そこには悪戯好きな子供が浮かべるような悪い笑みをしている彼女がいて、私もようやく全てを理解した。
騒ぎを聞きつけたジュールが既に扉の前にいて、私とファリスの会話を聞いていた、ということに。
時すでに遅し。思わず乾いた笑いが零れてしまった。まさかこんな事になるなんて……。
裏目に出てしまったけど、元から会わせる予定だった。そう考えておこう。問題はこれからどうするか、だ。
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