370 / 676
370・感じざるを得ない疲労感
しおりを挟む
張りつめた緊張感が漂う中で繰り広げられていた情報交換も無事に終わって、私はようやく城の外に出る事を許された。
久しぶりに肌で感じたあの空気に、必要以上に体力を削られてしまった気分だ。
ただ普通に話しているだけでも相手の隙や弱みを探ろうとしてくるのだもの。
まるで戦場で互いに一歩も引かずに斬り合っているような気分になる。いや……私は元来戦いに生きてきたのだから、むしろそっちの方がまだ居心地がいい気さえしてくる。
「はあ……」
門を通って兵士達に見送られながら、静かに息を吸って、身体の中の嫌な物を全て吐き出すように深呼吸を繰り返す。息を吐くたびに白いものが口から漏れるのがわかる。城の中と外ではこうも温度が違うものかと思うほどだ。
城から宿へと戻る道中。あの狐人族のように賢しいマンヒュルド王の相手は本当に疲れたけれど、それに見合った対価は得られただろう。
私の知らない複製体についての情報。これを元にしてアイビグやレアディにより追及する事が出来るというものだ。
アイビグはともかく、レアディは何も知らなければ足元を見てくるだろうしね。彼はマンヒュルド王よりはマシだけど、狡猾さを全く隠していないしね。
他の国にも複製体達は現れただろうし……実際どれくらいの人数がいるのかぐらいは把握しておきたい。
その点で言えば、マンヒュルド王の情報は役に立つだろう。……だからと言ってまた話をしたいとは思わないけれど。
やっぱり私はファリスや雪風に話すように自然体のままで話すのが性に合っている。
そう思ったら、不思議と彼女達の声が懐かしく感じる。まだ数日も経っていないのにね。
ちらほらと雪が降っている中をのんびりと歩いていると……見えてくるのは廃墟や瓦礫の山。家を失い、店を失い、兄弟を姉妹を両親を失って途方に暮れている者や、子供がいて、心が痛くなる。
ほんの少し前はまだこの辺りも活気に満ちていて、様々な人種が行き交っていた。
楽しそうにはしゃぎまわる声や笑顔。魔王祭も終わり、賑わいが落ち着く頃には、新年祭の準備が始まって……この国は更なる賑わいで盛り上がっていた。それなのに、この光景はどうだろう? あんなに綺麗な場所だったのに、今では見るも無残な姿になっていた。
美しくも綺麗な雪は、瓦礫の山に降り積もって……それが酷く無機質に見える。だけどそれは別の美を作り出していて……その空虚さが、寂しくも残酷に降り、白く埋め尽くす。無常さを感じる美しさ。
それを作り出したのはダークエルフ族や複製体の人達だけじゃない。
遠い昔――私も同じ光景を作り上げ続けていた。幾千の屍の上を歩いてきた。だから、こんな光景にも美しさを感じるのかも知れない。
「エールティア様!」
知っている声が私を呼んでいた。視線を向けると、雪風が走って来ていた。
「雪風、どうしてわかったの?」
「宿に向かったのですがお姿が見当たりませんでしたので……。探していると、ファリスがエールティア様は城にいると」
ファリスとはあまり仲が良くないと思っていたんだけど、意外とそうでもないのかも知れない。
もし嫌いだったら、私の居場所を教える事なんて無いだろうしね。あの子はそういう子だ。
「そう……それでどうしたの?」
「はい。エールティア様を知っているレアディと名乗った魔人族の男を宿に案内しております。それと……ジュールがエールティア様にお会いしたい、と」
「ジュールは大丈夫なの?」
「あの中身の無い鎧を追い払っていました。今は疲れて休んでいます。この国の兵士達の間ではかなり有名になっていたみたいですよ」
なるほど。つまりそれだけ敵と戦ったって事なのだろう。
「疲れているだけ? 傷ついたとかは……」
「安心してください。多少の擦り傷などはありますけど、魔力の消耗が激しくて疲れているだけです。僕も彼女と一緒に戦っていましたので、この目で見ていました」
雪風が共に戦ったというのなら間違いはないだろう。ジュールもかなりの激戦をくぐり抜けてきたに違いない。
なんにせよ怪我とかしていなくて良かった。アーマーゴーレムとの戦いも彼女にとって貴重な経験になっただろうしね。
「雪風の方はどう……って聞くまでもないわね」
「はい。あの鎧はどうにも装甲が薄かったですから、戦いやすかったです」
雪風は満面の笑みで言ってるけれど、もし私の知ってるアーマーゴーレムだったら、それなりに装甲が厚かったはずだ。少なくともこの国の兵士達の剣や槍があまり傷つかなかったと思う。
それをいとも容易く斬り裂いていたという雪風の剣は、更に磨きがかかっているに違いない。
「それじゃあ、レアディの元に行きましょうか。雪風もおいでなさい」
「はっ! 喜んで!」
雪風のおかげでジュールの安全も確認出来たし、彼女の疲れが癒えた頃合いを見計らって会いに行こう。
それまでは……レアディやアイビグ達から色々と話を聞いて、次にダークエルフ族がどう動くか予想するとしましょうか。
その前に――少し休もう。流石にちょっと疲れた。
久しぶりに肌で感じたあの空気に、必要以上に体力を削られてしまった気分だ。
ただ普通に話しているだけでも相手の隙や弱みを探ろうとしてくるのだもの。
まるで戦場で互いに一歩も引かずに斬り合っているような気分になる。いや……私は元来戦いに生きてきたのだから、むしろそっちの方がまだ居心地がいい気さえしてくる。
「はあ……」
門を通って兵士達に見送られながら、静かに息を吸って、身体の中の嫌な物を全て吐き出すように深呼吸を繰り返す。息を吐くたびに白いものが口から漏れるのがわかる。城の中と外ではこうも温度が違うものかと思うほどだ。
城から宿へと戻る道中。あの狐人族のように賢しいマンヒュルド王の相手は本当に疲れたけれど、それに見合った対価は得られただろう。
私の知らない複製体についての情報。これを元にしてアイビグやレアディにより追及する事が出来るというものだ。
アイビグはともかく、レアディは何も知らなければ足元を見てくるだろうしね。彼はマンヒュルド王よりはマシだけど、狡猾さを全く隠していないしね。
他の国にも複製体達は現れただろうし……実際どれくらいの人数がいるのかぐらいは把握しておきたい。
その点で言えば、マンヒュルド王の情報は役に立つだろう。……だからと言ってまた話をしたいとは思わないけれど。
やっぱり私はファリスや雪風に話すように自然体のままで話すのが性に合っている。
そう思ったら、不思議と彼女達の声が懐かしく感じる。まだ数日も経っていないのにね。
ちらほらと雪が降っている中をのんびりと歩いていると……見えてくるのは廃墟や瓦礫の山。家を失い、店を失い、兄弟を姉妹を両親を失って途方に暮れている者や、子供がいて、心が痛くなる。
ほんの少し前はまだこの辺りも活気に満ちていて、様々な人種が行き交っていた。
楽しそうにはしゃぎまわる声や笑顔。魔王祭も終わり、賑わいが落ち着く頃には、新年祭の準備が始まって……この国は更なる賑わいで盛り上がっていた。それなのに、この光景はどうだろう? あんなに綺麗な場所だったのに、今では見るも無残な姿になっていた。
美しくも綺麗な雪は、瓦礫の山に降り積もって……それが酷く無機質に見える。だけどそれは別の美を作り出していて……その空虚さが、寂しくも残酷に降り、白く埋め尽くす。無常さを感じる美しさ。
それを作り出したのはダークエルフ族や複製体の人達だけじゃない。
遠い昔――私も同じ光景を作り上げ続けていた。幾千の屍の上を歩いてきた。だから、こんな光景にも美しさを感じるのかも知れない。
「エールティア様!」
知っている声が私を呼んでいた。視線を向けると、雪風が走って来ていた。
「雪風、どうしてわかったの?」
「宿に向かったのですがお姿が見当たりませんでしたので……。探していると、ファリスがエールティア様は城にいると」
ファリスとはあまり仲が良くないと思っていたんだけど、意外とそうでもないのかも知れない。
もし嫌いだったら、私の居場所を教える事なんて無いだろうしね。あの子はそういう子だ。
「そう……それでどうしたの?」
「はい。エールティア様を知っているレアディと名乗った魔人族の男を宿に案内しております。それと……ジュールがエールティア様にお会いしたい、と」
「ジュールは大丈夫なの?」
「あの中身の無い鎧を追い払っていました。今は疲れて休んでいます。この国の兵士達の間ではかなり有名になっていたみたいですよ」
なるほど。つまりそれだけ敵と戦ったって事なのだろう。
「疲れているだけ? 傷ついたとかは……」
「安心してください。多少の擦り傷などはありますけど、魔力の消耗が激しくて疲れているだけです。僕も彼女と一緒に戦っていましたので、この目で見ていました」
雪風が共に戦ったというのなら間違いはないだろう。ジュールもかなりの激戦をくぐり抜けてきたに違いない。
なんにせよ怪我とかしていなくて良かった。アーマーゴーレムとの戦いも彼女にとって貴重な経験になっただろうしね。
「雪風の方はどう……って聞くまでもないわね」
「はい。あの鎧はどうにも装甲が薄かったですから、戦いやすかったです」
雪風は満面の笑みで言ってるけれど、もし私の知ってるアーマーゴーレムだったら、それなりに装甲が厚かったはずだ。少なくともこの国の兵士達の剣や槍があまり傷つかなかったと思う。
それをいとも容易く斬り裂いていたという雪風の剣は、更に磨きがかかっているに違いない。
「それじゃあ、レアディの元に行きましょうか。雪風もおいでなさい」
「はっ! 喜んで!」
雪風のおかげでジュールの安全も確認出来たし、彼女の疲れが癒えた頃合いを見計らって会いに行こう。
それまでは……レアディやアイビグ達から色々と話を聞いて、次にダークエルフ族がどう動くか予想するとしましょうか。
その前に――少し休もう。流石にちょっと疲れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
149
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる