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384・別れの言葉を

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 様々な情報を手に入れた。本を読みふけっていたせいで大分時間を使ったし、そろそろ一区切りをつけた方が良いだろう。

「アイビグ、ジュール、一度戻りましょう」
「宜しいのですか?」
「ええ。時間をかければ良い、という訳でもないしね。一度手に入れた情報を持ち帰って整理する。そうすれば今よりもより深く物事を考えることが出来るでしょう?」
「……そうだな。あまり一度に色々知ったとしても、大して覚えられるとは思えない。少し頭を冷やす時間が必要なのかも知れない」

 アイビグが私の意見に賛同してくれたのはいいけど、何故かジュールが悔しそうにしていた。もしかして、何か不満でもあったのだろうか。

「ジュールもそれでいい?」
「……もちろんです。一度戻りましょう」

 キリッとした表情で全く問題はないと力強く訴えて来そうなほどの表情をしていた。

「もうお帰りになられるのですか?」

 対して残念そうにヒューマは顔を伏せていた。彼はクーロ以外の相手に会った事自体久しぶりだったのだろう。
 顔を上げた彼はどこか寂しげだった。

「ひゅーま。だいじょうぶ?」

 いつもと違うのであろう彼の様子に心配そうな目を覗かせるクーロ。二人の視線が混ざり合って……ぽん、と彼女の頭に手を置いて慈しむように撫でた。

「ええ。大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「んぅー……」

 余程ヒューマの撫で方が上手いのか、気持ちよさそうに目を細めている。

「少し寂しいですが、いつまでも一緒にはいられませんからね。出口に案内いたします」

 気持ちを切り替えたのか、先程の寂しげな雰囲気はなくなり、私の知っているヒューマに戻っていた。

「ふふ、また来るからね」
「ええ。その時をお待ちしておりますよ。僕達はいつでもここにいますから」
「ん、いる」

 人見知りしていたクーロも少しは慣れたのか、私の服の裾をくいっと引っ張って頷いてくれた。
 ヒューマの案内で拠点の外に出ると――既に完全に陽が落ちていて、すっかり夜の闇に染まっていた。空には星空が広がっていて、月明かりも綺麗で美しい。この景色が予定よりもずっと長い時間ここにいた事を知らせてくれた。

「あー……これは野宿決定かもしれないな」
「……ですね。少し長居し過ぎたかもしれません」

 ぽつりと呟くアイビグに、ジュールは仕方ないとでも言いたげに肯定していた。
 いくら宿を抑えていてもこんなに夜も深まっているなら、既に意味がないだろう。

 ここで野宿するというのも選択肢の一つだけど、向こうに戻ることを前提にしていたから何の準備もしていない。
 炎は魔導で作れるからまだいいけれど……魔導で生み出された水は飲むのには適していないし、

「それなら、今日はここに泊まりませんか? 明日また戻られればよろしいかと」
「よろしーかと」

 せっかく『また来る』って言ったけれど、お言葉に甘えて泊めてもらったほうがいいかもしれない。北の地域のガネラは他の地域とは比べ物にならないほど冷える。雪だって北以外ではあまり見られないしね。

 この時期の北国はとても寒い。野宿は正直かなり危ない。だから二人の申し出はありがたい。だけど――

「アイビグ、スゥ、どう思う? 二人はここにあまり良い思い出はないのでしょう?」

 彼らはここの生まれで、色々と辛い思いもしてきたはずだ。
 そんな二人に何も言わずに勝手に決めることは出来なかった。

「……気を遣ってくれてありがとう。だけど大丈夫だ。俺達だって色々覚悟してここに来たんだからな。今更泊まることで何も言いはしないさ」
「アイビグちゃんの言う通り。泊まってもいいよ」
「……あのな、前からその『ちゃん付け』はやめろって言ってるだろ」

 疲れた声をあげてるけれど……前にもこんなやり取り見た事がかな。
 多分、深く思い出せばわかるんだろうけど、何となくそんな事をしている場合じゃない。

 ……二人の様子が変わったわけでもないし、いつも通りだ。無理をしている訳ではないみたいだ。気を遣ってくれているのは確かだろうけど、彼らなりに本気というのが伝わってきた。
 ここで『やっぱりやめよう』というのは、その覚悟を無駄にしてしまうだろう。

「わかった。それなら今日はここに泊まりましょう。ヒューマ、お願いできる?」
「お任せください! 寝室もダークエルフ族が使っていたのが余っております。料理の方は今から作りますので少々時間をいただきますが……」
「あ、でしたら私お手伝いします」
「それは助かります。よろしくお願いします」

 先程のやりとりがあったからかもだけど、やたらと喜びながらキッチンの方に向かうヒューマの後ろにクーロとジュールの二人がついていった。

「……任せて大丈夫なのか?」
「料理の手ほどきは受けてるから問題ないはずよ」

 自分が疑われていたからって、私にわざわざ聞く必要ないのに……なんて思っていると、アイビグは違うと首を横に振った。

「俺達は今まで料理なんかした事ない。ダークエルフ族の連中がいなくなって一年満たないはずだ。それでどれだけ料理のレパートリーがあるっていうんだ?」

 アイビグが心配している理由がようやくわかった。
 ダークエルフ族が拠点として使っていた間は当然料理なんてしないだろうし、まずまともな物が出るような環境ではないだろう。おまけにいつ管理人になったかわからない。少なくとも半年より後は考えにくい以上、下手をすれば酷い有様になるかもしれない。

 一つ不安要素が浮き上がると、立て続けに幾つも湧き上がってくる。だけど……多分、大丈夫だろう。
 最悪、ジュールもいるし、問題ないはずだ。

 ……大丈夫、よね?
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