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492・四者会談

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 突然現れた私に対して最初は驚いていたお父様だったが、落ち着いて冷静さを取り戻したのかいつもの表情に戻っていた。

「どうしてお前がここに?」
「拠点攻略の途中で重要な情報を手に入れました。手紙にしたためるよりも直接お伝えした方がよろしいと判断した次第です」

 今はお父様ではなくリシュファス公爵閣下として話をしなければならない。お互い公務中なのだし、他の人が入ってきたら示しがつかない。家の中ではともかく、外でのお父様は常に格好良くいて欲しいのだ。

「ふむ、それは急を要する事か?」
「現在の国の状況次第によっては……」

 顎に手を当てて深く考え込んでいるようだったお父様は、何かを決断したような表情をした。

「まずは少し身体を休めなさい。使用人に言って着替えを持ってこさせよう」
「着替え?」

 一体なんで着替えが必要なんだろう? と不思議に思って服を見ると、裾がボロボロだったりスカート部分に僅かだけど破れた後があった。一応二回目の拠点攻略の際の服は着替えたから安心していたから、そこまで気が回らなかった。
 兵士の人達の視線がどこか困ったような感じになっていたのはこれが原因だったのか。

「……そうですね。一度身支度をして、改めて説明いたしましょう」
「それがいい。身を清めている間に軽い食事を用意させる。それが終わってから応接の間に来なさい」
「わかりました。お心遣いにありがとうございます」

 親としても上の者としても複雑そうな感情を見せているお父様に対し、努めて冷静に振舞うのだった。

 ――

 身を清め、新しく服を整えてサンドイッチとスープをお腹に入れた辺りで応接の間へと向かう事にした。部屋に入った私は、お父様と二人の男性が何やら難しい顔をしている光景を目撃した。三人とも何かの書類を見て真剣そうな目で沈黙している。

「お待たせしました」
「待っていた。そちらに座りなさい」

 声を上げた私にようやく気付いたお父様の指示されるままに向かい合うように座った私は、改めて二人の男性に視線を移す。
 一人はオーク族で筋骨隆々のその姿は初対面の私には圧倒的に見える。あまり性別がわかりにくい種族だけど、これで女の人だったら逆に恐ろしく思える。もう一人はいい年の狼人族だ。その目には知性が宿っていて、野性的な姿とはまた違った一面を教えてくれる。

「……? ああ、そうか。この二人はフォルー卿とオルク卿だ。爵位は二人とも伯爵。今は私の補佐をしてくれている」
「エールティア嬢。話はある程度聞いております」
「我らが同席する事にあまり気乗りはしないだろうが、そこは妥協してもらいたい」
「いえ、リシュファス公爵閣下が信の置ける方々だと判断されたのなら、是非とも聞いていただきたいのです」

 オルク卿はその見た目とは裏腹に礼儀正しく、口調も丁寧だ。私に対して恭しく礼を取るなど、紳士的な印象を抱かせる。フォルー卿は少し硬い感じだ。なんというか、お父様が信じているのもわかるような人選している。

「まず、私が拠点を攻略している最中の報告です。ルーセイド領のザインドを中心に四つの拠点が存在しているのを地図で確認した私達は、そこを攻略する事にしました」

 それを口火に私は今自分が知っていることを全て話した。クーティノスや学習する鎧。拠点を攻略中に降り注いだ謎の光。シルケットと雪桜花から使者がやってきた事などなど……思い出せる限りの事を三人に説明する。

「……学習する鎧とエールティア嬢を襲った謎の光。その二つが脅威になる。そう考えられる訳ですね」

 一通り私の説明を聞き終えたフォルー卿は神妙な面持ちで頷いていた。
 大体その二つを中心に詳しく話をしたのだから当然だ。

「……しかし、到底信じられる話には思いませぬ。我ら人のように成長する鎧などと――」
「現にエールティア嬢が見ているではないか。それとも疑うとでも――」
「まさか」

 とんでもない! とでも言いたげな表情を浮かべてフォルー卿は首を振っていた。

「事ここに至って嘘や記憶に薄いものを報告する為にわざわざ来る事はない。他にも何人か、その光が落ちてくるところを目撃している。間違いはないだろう」

 私の言葉を後押しするかのようにお父様が頷いていた。ここで信じてくれる辺り、やっぱりお父様だと思う。

「どこから発射されたか、などは分かりますか?」
「少なくとも国内から撃たれたようではなかった。そのような反応があれば、国の中でも騒がしくなるからな」

 それも当然か。国内で起きていれば必ず話題に登る。お父様がそれを見逃すような人ではない以上、国には存在しないと考えるべきで……そうなると国外からの超遠距離射撃ということになる。いずれにせよ、今絞れるような話ではないだろう。何を言っても憶測の域を出ない。それならば、可能な限り把握している情報を共有してもらいたい。

 それは三人とも同じ気持ちだったようで、あまり詳しく問い詰める事はしなかった。それ以降は段々鎧や兵器の話になっていった。
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