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547・奮闘するオルド(ファリスside)

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 最初の二人を皮切りにファリス側に向かってくる兵士達が増えてくる。三人、四人と続々と増えてきた。

「さっきの魔導でなんとかならない?」
「ちょっと待ってください……。【チェンジ・オブ・マインド】」

 再び放たれた魔導は先程と同じ二つの球体が襲い掛かる。

「【シールドバッシュ】!」

 兵士の一人が発動した魔導は盾の形状を取ったそれは突進するように狐型の球体を弾き飛ばしてしまった。
 もう一つも同じように迎撃されたのだが……そこで変化がある。兵士は一人が先程と同じように熱に浮かされ、他の兵士へと襲い掛かったのだが、もう一人はなんともない様子だった。

(……なるほど。何か条件があるみたいだけど、効かない事もある訳ね)

「【エクスウィンド】!」

 今の状態では全員を同士討ちさせるなんて不可能だろう。結論を出したファリスは風を圧縮した球体を飛ばす。聖黒族だとわかっている彼女の魔導。それを脅威に思わないはずもなく、大きく避けるように風の球体から離れる。……が、それは彼女の思い通りだった。

「【ガイストート】!」

 ファリスの足元から影の鎌が複数出現し、一斉に兵士達に襲い掛かる。それまで【エクスウィンド】を避けるのに気を取られていた彼らは、回避行動を一切取れずに影の鎌に切り裂かれた。

「――ぎゃああああああ!?」

 大きな声を上げてごろごろと無様に転がる兵士達。

「剣を」
「え? はい」

 ユヒトになんでもいいから剣をくれと催促したファリス。一瞬戸惑いながらも彼は持っていた短剣を渡すと、ファリスは迷うことなく転がっている兵士達の首を掻っ切った。

「うわ……えげつない……」

 ぽつりと呟いたワーゼルだったが、彼らは戦いに重きを置いている面がある。それを一切無視するようなやり方に戦慄するのも当然の話だろう。

「こっちがこうされないだけましでしょう」

 ククオルの方はむしろ当然だというような顔をしている。ユヒトも何も言わないがククオルやファリスの考えに比較的同意している様子だった。

「まあ、今は合流する事を考えておきましょう」

 孤立していたワーゼルは若干落ち込んでいたが、それを無視するように先に進む。事は一刻を争う。一人の感情に左右される訳にもいかないのだから。
 しばらく走っていたファリス達は、ようやく食糧庫の屋根が見えてくる。そこまでくると大騒ぎになっているのがわかり――そちら側に向かっているダークエルフ族の兵士達も次々とファリス達に気付き始める。

「誰だお前達は!! 総員、攻撃用意――」
「【フラムブランシュ】!!」

 リーダー格であるダークエルフ族の居場所は食糧庫がある場所を逸れていた為、思いっきり魔力を込めて解き放った。
 放たれた炎の熱線はまっすぐリーダー格の男を消し炭にしてしまった。ついでに周辺も巻き込んであっという間に何十人もの人を焼いてしまった。

「た、隊長!!?」
「き、さまぁぁぁぁ!! 【アイススピア】!」

 何人かは恐れていたが、当然反撃する者も現れた。氷の槍が敵を穿たんと襲いかかる。しかし、そんな単調な攻撃に反応できないファリスではない。

「【エクスウィンド】」

 一人の兵士の攻撃を皮切りに、続々と放たれる魔導を遮るように風の球体が飛んでいき、中間あたりで破裂する。凄まじい風圧に兵士達が放った魔導は逸れてしまう。辺りに散った魔導の残滓を掻き消すように畳みかける。

「【フレスシューティ】!」

 炎球を空に打ち上げ、破裂すると同時に雨のように降り注ぐ熱を持った燃える雨粒。顔や身体に直撃して皮膚が焼け、悲鳴をあげる。それに歩み寄るユヒトやククオルが止めを差していく。ワーゼルはリュネーを守りながらそれを見守っているが、完全に作業になって内心複雑な気分になっていった。

 数々の魔導を撃ち込んでも後から次々と湧いて出てくる兵士達に若干げんなりしてきたファリスだったが、目的地が少しずつ見えてくるから尚更気合を入れなければと思い先に進む。どうやらオルド側もファリスが暴れまわっているのを気付いたのか、少しずつ道を切り拓こうとしている様子がわかってきた。

「ファリス様、あそこです」
「わかってる。だけど――」

 食糧庫の入り口付近から敵兵の悲鳴や身体が飛んでいく。そこまでは良い。しかし彼が食糧庫から出てくるという事は相手が見方を巻き込む魔導を発動させれば戦況が変わってくる。そしてダークエルフ族も馬鹿ではない。

「あれを持ってこい! 相手は聖黒族だ! 軍隊と戦っているつもりで事に当たれ!!」

 どうやら別の指揮官が到着したのか速やかなまとまりを見せ始めていた。彼らの上下関係がはっきりしており、しっかりとした指揮系統を構築しているからであろう。最初の勢いのまま行く事も出来たが、ここでファリスがオルドを切り捨てるように魔導を連発してしまえば周囲の信頼度を下げる事になってしまう。それが今すぐ悪影響を及ぼすであろう事は彼女にも十分に理解出来たいた。だからこそオルドが確実にいないであろう場所にしか広範囲を攻撃する魔導を放てないでいた。それが彼らに見抜かれたのか、兵士達はなるべく食糧庫に直線状になるような動きを見せ、それが出来ない者はどこかへと行ってしまった。仲間を呼ばれるだろうな……と内心歯痒い思いをしながら、ファリスはただ目の前の敵を排除し、遅々として進まないこの状況を緩やかにでも前進させるしかなかった。
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