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557・クロイズの実力(オルドside)
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先制攻撃をしたのはオルドだった。元々満足な武装を持っていない彼には自らの肉体と拳で戦うしか方法はない。接近したオルドは下からかち上げる形で拳を繰り出す。その巨体や動きに似合わない程の拳速がクロイズに迫るが、彼はそれをじっと見つめていた。観察している様子のクロイズは右に避けるか左に避けるか悩む様に身体を動かし、結局迫りくる拳に手を当ててそっと受け流す防御を選択した。鋭い音と共に盛大に空振りをしたオルドの懐に潜り込んだクロイズ。このままでは防御の体勢が間に合わずに確実に一撃が当たる体勢だが、クロイズの瞳に油断はない。ただ相手の動きを見ているだけだ。
「【アースソーン】!」
オルドの足元の地面の一部が盛り上がり、茨の棘のようなものが複数生えてクロイズに襲い掛かる。彼の身体はまるで弾けたかのように後ろに下がり、改めて距離を取る。対するオルドは先程対峙した時と同じ構えに戻っていた。
「なるほど。力自慢一辺倒……という訳ではないようだな」
感心するクロイズ。その楽し気な様子すらどこか他人事。まるで今の戦いを第三者の目で観戦しているかのようだ。
「まだまだ! 【フィジカルブースト】!!」
同じ程度に距離が開き、最初に戻ったか……と思われた直後に再びオルドが攻勢を仕掛けた。全身に魔力が満ち溢れ、身体の筋肉が更に引き締まり、少々小さくなったかのような錯覚を周囲に与える。ファリスが目を見見開いている間にもオルドは先程とは比べ物にならない速さで距離を詰め、軽い攻撃が放たれる。最初のアッパーよりも明らかに違う速度で放たれる鋭いジャブ。あまり威力はないが、確実に相手に当てる事を意識した拳だ。
(へぇ……中々やるじゃない。魔導で身体能力の底上げを図って繰り出す軽い一撃。相手を倒す為じゃなくて次に繋げる為の技だから隙も最小限で済む。あの子の素早い身のこなしを見ての判断ね。これはわかっていてもそうそう出来る事じゃない)
クロイズの素早さに合わせた戦い方はオルド本来の戦法には適していない。彼は相手の一撃を受け止め、より重く威力のある攻撃を繰り出すことを得意としている。それは共に戦ってきて何となくファリスも理解していた。だからこそクロイズの体格や身のこなしに合わせた戦い方をするとは思わなかったのだ。
それは相対しているクロイズにも予想外の事だったらしく、剛の拳が彼の顔面を捉える。続けざまに放たれるジャブの嵐が身体中に襲い掛かる。通常の人同士の簡単な殴り合いでも体格差から鈍く重い痛みが伝わってきて行動を鈍らせるだろうに、クロイズの動きは精彩を欠かない。まるで全く効いていないかのようだ。
(くっ……平静な顔をしている。手ごたえは確かに感じているのになんだこの感じは? 嫌な予感がする。まるで大木に拳を打ち込んでいるような気分になる)
軽い攻撃ではあるものの、何度も打ち込んでいればそれなりにダメージがあって当然なのだ。徐々に握る拳が強くなり、ジャブと呼べるものからストレートな殴りに変貌していく。
「【パワーナックラー】!」
最後には魔導によって拳を強化し、一気に決めるつもりで上半身をしならせ、力の限り振り抜く。完全に相手の命を奪う一撃。しかしクロイズの目はそれを待っていたと言うかのようになる上体を倒し、迫り来る拳を顔面すれすれで避けたクロイズはそのまま手をかざして――
「【アイスバーン】」
懐に飛び込まず、魔導を発動させる。近接戦を仕掛けてくると予想していたオルドは片手で防御出来る姿勢を保っていたが、予想に反してから攻めてこなかったのに疑問を感じる。彼の放った魔導は攻撃系ではなく、地面に氷を這わせる程度のものでしかなかった。それに対して侮りや油断があったわけではない。しかしもっと強力な魔導を唱えてくると思っていたからこそ、この現象には拍子抜けしてしまった。
だからこそ気付けずに足を踏み入れてしまったのだ。力強く踏み荒せば割れてしまいそうな薄氷。無造作に踏みつけた瞬間、足元の氷は牙を剥いた。
「……な、なに!?」
ビキビキと音を立てて足と地面を縫い付けるように凍り付いてしまう。いくら足を動かそうとしてもびくともせず、完全に接着している様子だった。唯一の救いがあるとすれば足具が凍り付いているだけでオルドの足自体にはダメージがないことくらいだろう。慌てるオルドを嘲笑うように緩やかな仕草で距離を詰めたクロイズはそっとオルドの顎に手のひらを当て、素早い動きで掌底を繰り出した。まるで今から攻撃しますよと言いたげな予備動作の跡に放たれたその一撃は通常であればさほどダメージ与える事が出来ないはずだった。しかし顎に掌底を喰らったオルドはあっけなく上体を逸らし、ゆっくりと倒れる。
倒れたオルドはクロイズの【アイスバーン】の効果で身体ごと地面に縫い付けられてしまう。
「くぅっ……こ、の……!」
身動きが取れなくなったオルドは何とか身体を動かそうとするがびくともしない。その間にもクロイズは彼に手をかざし――
「終わり、ね」
ここからオルドが抜け出すことは出来ない。一歩でも動けば即座に魔導で撃ち抜かれる……。そんな状況で何か出来る訳もなく、彼が挑んだ戦いは終わりを告げてしまった。
「【アースソーン】!」
オルドの足元の地面の一部が盛り上がり、茨の棘のようなものが複数生えてクロイズに襲い掛かる。彼の身体はまるで弾けたかのように後ろに下がり、改めて距離を取る。対するオルドは先程対峙した時と同じ構えに戻っていた。
「なるほど。力自慢一辺倒……という訳ではないようだな」
感心するクロイズ。その楽し気な様子すらどこか他人事。まるで今の戦いを第三者の目で観戦しているかのようだ。
「まだまだ! 【フィジカルブースト】!!」
同じ程度に距離が開き、最初に戻ったか……と思われた直後に再びオルドが攻勢を仕掛けた。全身に魔力が満ち溢れ、身体の筋肉が更に引き締まり、少々小さくなったかのような錯覚を周囲に与える。ファリスが目を見見開いている間にもオルドは先程とは比べ物にならない速さで距離を詰め、軽い攻撃が放たれる。最初のアッパーよりも明らかに違う速度で放たれる鋭いジャブ。あまり威力はないが、確実に相手に当てる事を意識した拳だ。
(へぇ……中々やるじゃない。魔導で身体能力の底上げを図って繰り出す軽い一撃。相手を倒す為じゃなくて次に繋げる為の技だから隙も最小限で済む。あの子の素早い身のこなしを見ての判断ね。これはわかっていてもそうそう出来る事じゃない)
クロイズの素早さに合わせた戦い方はオルド本来の戦法には適していない。彼は相手の一撃を受け止め、より重く威力のある攻撃を繰り出すことを得意としている。それは共に戦ってきて何となくファリスも理解していた。だからこそクロイズの体格や身のこなしに合わせた戦い方をするとは思わなかったのだ。
それは相対しているクロイズにも予想外の事だったらしく、剛の拳が彼の顔面を捉える。続けざまに放たれるジャブの嵐が身体中に襲い掛かる。通常の人同士の簡単な殴り合いでも体格差から鈍く重い痛みが伝わってきて行動を鈍らせるだろうに、クロイズの動きは精彩を欠かない。まるで全く効いていないかのようだ。
(くっ……平静な顔をしている。手ごたえは確かに感じているのになんだこの感じは? 嫌な予感がする。まるで大木に拳を打ち込んでいるような気分になる)
軽い攻撃ではあるものの、何度も打ち込んでいればそれなりにダメージがあって当然なのだ。徐々に握る拳が強くなり、ジャブと呼べるものからストレートな殴りに変貌していく。
「【パワーナックラー】!」
最後には魔導によって拳を強化し、一気に決めるつもりで上半身をしならせ、力の限り振り抜く。完全に相手の命を奪う一撃。しかしクロイズの目はそれを待っていたと言うかのようになる上体を倒し、迫り来る拳を顔面すれすれで避けたクロイズはそのまま手をかざして――
「【アイスバーン】」
懐に飛び込まず、魔導を発動させる。近接戦を仕掛けてくると予想していたオルドは片手で防御出来る姿勢を保っていたが、予想に反してから攻めてこなかったのに疑問を感じる。彼の放った魔導は攻撃系ではなく、地面に氷を這わせる程度のものでしかなかった。それに対して侮りや油断があったわけではない。しかしもっと強力な魔導を唱えてくると思っていたからこそ、この現象には拍子抜けしてしまった。
だからこそ気付けずに足を踏み入れてしまったのだ。力強く踏み荒せば割れてしまいそうな薄氷。無造作に踏みつけた瞬間、足元の氷は牙を剥いた。
「……な、なに!?」
ビキビキと音を立てて足と地面を縫い付けるように凍り付いてしまう。いくら足を動かそうとしてもびくともせず、完全に接着している様子だった。唯一の救いがあるとすれば足具が凍り付いているだけでオルドの足自体にはダメージがないことくらいだろう。慌てるオルドを嘲笑うように緩やかな仕草で距離を詰めたクロイズはそっとオルドの顎に手のひらを当て、素早い動きで掌底を繰り出した。まるで今から攻撃しますよと言いたげな予備動作の跡に放たれたその一撃は通常であればさほどダメージ与える事が出来ないはずだった。しかし顎に掌底を喰らったオルドはあっけなく上体を逸らし、ゆっくりと倒れる。
倒れたオルドはクロイズの【アイスバーン】の効果で身体ごと地面に縫い付けられてしまう。
「くぅっ……こ、の……!」
身動きが取れなくなったオルドは何とか身体を動かそうとするがびくともしない。その間にもクロイズは彼に手をかざし――
「終わり、ね」
ここからオルドが抜け出すことは出来ない。一歩でも動けば即座に魔導で撃ち抜かれる……。そんな状況で何か出来る訳もなく、彼が挑んだ戦いは終わりを告げてしまった。
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